第112話 逃亡者への勧告
「逃亡者に告げる!!速やかに姿を現さない限り、これからお前の仲間の女を殺す!!繰り返して告げる!!お前達が姿を出さなければ拘束した女は殺すぞ!!」
「大人しく捕まるなら命は取らない!!だが、お前達が現れなければ女を殺す!!」
「さっさと出てきた方が身のためだぞ!!」
盗賊達の言葉を聞いてレノは怒りのあまりに剣を抜きかけるが、それに対してアルトは彼の肩を掴んで落ち着かせる。ここで出てきて盗賊を切り伏せた所で状況は好転せず、むしろ悪化してしまう。
「落ち着くんだ!!ここで姿を見られたら終わりだぞ!?」
「くっ……」
「敵はまだ僕達には気づいていない、だがそれも時間の問題だ!!だからこそ、今のうちにこの建物を調べて二人を探すんだ!!」
「……分かってる」
アルトの言葉にレノは頷くが、内心では怒りを抑えきれず、二人を救い出した後は必ずこんな卑劣な手を考えたであろうチェンに仕返しをすることを誓う。レノは心を落ち着かせて剣を鞘に戻すと、先ほどの発見した宝物庫を調べる。
「ここには何か役立ちそうな物はある?」
「いや、残念ながら金目になりそうな物しかないな……ここなら君が奪われた魔法腕輪や指輪ぐらいあるかもと思ったんだが、ここにもないとなると別の場所で保管されているのか?」
「とにかく、上の方を探してみよう。もう時間がない……」
「お前等、そこで何をしてやがる!!」
「しまった!?」
宝物庫を開け開いた状態だった事が災いし、廊下に現れた盗賊達が二人に気付く。今度は一人ではなく、数人の男に姿を見られてしまい、もう誤魔化しきれないと判断したレノは魔法剣を発動させ、男達に刃を振りかざす。
「嵐刃!!」
『ぎゃああああっ!?』
廊下内に三日月状の風の刃が放たれ、駆け出そうとしてきた数名の盗賊の男達を巻き込み、吹き飛ばす。しかし、衝撃音が鳴り響いたせいで遂に建物内と周囲の盗賊達に存在を気付かれてしまい、多数の足音が鳴り響く。
「な、何の音だ!?」
「建物の中だ!!侵入者だ!!」
「くそ、何処から入り込みやがった!?」
あちこちから盗賊の声が鳴り響き、もう隠れてやり過ごす事は出来ないと判断したレノはアルトを連れて駆け出す。既に1階と2回は隈なく探し、残されたのは3階だけだった。
階段を上る途中でレノは他の盗賊達が追いかけられないようにするため、天井に視線を向ける。そしてアルトを先に行かせると、レノは魔法剣を発動させて天井に放つ。
「アルト、先に進んで!!」
「何をする気だい!?」
「天井を壊して瓦礫で塞ぐ!!」
レノはアルトを下がらせると、階段の天井に向けて嵐刃を放つ。しかし、天井に嵐刃が衝突した瞬間、何故か弾かれるように消えてしまう。
「えっ!?」
「駄目だ、レノ君!!この廃墟の建物はきっと魔法耐性が高い素材で出来ているんだ!!だから君の魔法剣だけで壊すのは時間が掛かる!!」
「そんな……」
「こっちだ、こっちの方から聞こえてきたぞ!!」
「奴等、上にいるのか!!」
「探せ!!見つけ出してお頭の所へ引きずり出せ!!」
下の方から盗賊達の声が響き、それを耳にしたレノはどうするべきか悩む。天井に視線を向けると、先ほどの嵐刃で僅かにだが亀裂が走っていた。攻撃を続ければいずれは天井が崩れるかもしれないが、魔石がない状態でしかも自分の剣ではない武器では魔法剣を瞬時に発動させる事は出来ない。
(どうする!?どうすればいいんだ!?)
この階に恐らくはチェンと捕まっているドリスが存在する可能性が高く、盗賊達に追われた状態では探すのも難しい。最悪の場合、チェンと盗賊達の挟み撃ちに遭う可能性もある。
どうにか階段を防ぎたいと考えたレノだったが、ここでアルトが所有している指輪の事を思い出す。彼が所持する「吸水石」は水分を魔石に蓄える事が出来る魔石であり、その吸収した水分を取り出せる事を思い出す。
(水……そうだ、水だ!!)
子供の頃、レノは激しく水が流れ落ちる滝の事を思い出す。子供の頃から暇さえあればレノは山の中に存在する滝へ赴き、修行を繰り返す。そして激しく流れ落ちる滝の光景を思い出す。
以前にレノは魔石が砕けた場合、内部に蓄積されていた魔石の魔力が暴発するという話は聞いていた。火属性の魔石の場合だと火属性の魔力が暴発して「爆炎」が発生し、風属性の魔石の場合だと「衝撃波」が発生する。それならばアルトの吸水石を破壊した場合、内部に蓄積されていた水が全て吐き出されるのではないかと考えた。
「アルト!!その吸水石を壊せばどうなる!?」
「な、何?そんな事をすれば吸水石の中身の水が一気に飛び出すと思うけど……だけど、僕が持っている吸水石はそんなに水は入っていないんだ。せいぜい、浴槽を満たせる程度の……」
「それで十分だよ!!早く渡して!!」
レノはアルトから吸水石の指輪から魔石を取り外し、上手く行くのかどうか分からないが、新しい剣技を繰り出すために吸水石を握りしめる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます