第168話 心眼
「にゃあっ!!」
「ひひっ!!」
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
ネココが掛け声を上げて剣を振り抜くと、金属音が鳴り響く。何もない場所に目掛けて彼女は剣を振り抜いたように見えたが、実際には剣を構えたキルの姿が存在し、彼女はキルに目掛けて刃を振り抜く。
鎌のような剣を構えるキルはネココの攻撃を受け流し、再び姿を消してしまう。レノとドリスではキルの姿を捉える事は出来ないが、ネココははっきりと見えているのか彼の後を追いかける。
(駄目だ、見えない……気配を消すだけでここまで姿が見えないように錯覚させる事が出来るのか!?)
観察能力には優れたレイナの目を以てしてもキルの姿は捉え切れず、気配を全く感じさせないという事は他の人間の意識から逃れる事を意味する。どれだけ視力や観察能力に長けていようと意味はなく、キルの姿は捉えられない。
ネココがキルの動作を読み取っているのは彼女も同じく気配を殺す術を知り、キルが次にどのように動くのかを予測して動いているだけに過ぎない。つまり、ネココ自身でさえもキルの動きは捉えておらず、相手がどのように動くのかを予測して剣を振っているだけに過ぎなかった。
「中々やるな、きひっ!!」
「くぅっ!?」
「ネココさん!?大丈夫ですの!?」
しかし、同じ能力を持つといってもレノとドリスを守りながら出はネココの方が圧倒的に不利であり、遂にネココはキルの剣を肩に喰らってしまう。
「ネココ!!」
「大丈夫、ただの掠り傷……それよりも二人とも、離れないで」
「ひひひっ……足手まといを見捨てれば自分だけでも生き残れるだろうに」
「……うるさい」
傷跡自体は掠り傷だが、確かにキルの言う通りにネココの方が圧倒的に不利な状況だった。自分達が足手まといになるぐらいならばレノとドリスは離れるべきかと考えるが、キルの動作が確認できない以上は不用意に動けない。
(くそっ!!どうにか出来ないのか、本当に方法はないのか……いや、あるはずだ!!)
レノは山で暮らしていた時の事を思い出し、ある時にロイから教えを受けた。それは目では捉えきれない相手と戦うための方法を彼は教えてくれた。
『レノ、お前は心眼という言葉を知っているか?』
『心眼?何それ?』
『分かりやすく言えば心の眼で相手を捉える能力だ。目では捉えきれない敵と相対した時、最も有効な能力だ』
『目では捉えきれない敵……?』
『まあ、実際に口で説明するよりは見せた方が早いな。どれ、木刀を持ってこい』
ロイはレイナに木刀を差し出すと、自分は包帯で目隠しを行う。目隠しの際はレノが行い、しっかりと見えないように包帯を巻くと組手を行う。
目隠しを行うロイに対して最初の内はレノは本気で攻撃しても良いのかと思ったが、何故かレノの攻撃はロイに掠りもせず、全ての攻撃を弾かれるか避けられてしまう。
『このっ!!』
『おっと』
『くそっ……それなら、これはどうだ!!』
『甘い甘い』
レノはどんな攻撃を仕掛けてもロイは笑って攻撃をいなし、ついにはレノの方が体力に限界を迎えてしまう。
『駄目だ、当たらない……どうして?本当は見えてるの?』
『言っただろう、心の眼で敵を捉えるとな……最も、実際の所は心の眼なんて儂はないと思っているが』
『ええっ!?』
ロイは目隠しした状態で全ての攻撃に対応したにもかかわらず、彼本人は自分から言い出したにも関わらずに「心眼」という能力が本当にあるかどうか分からないらしい。
『心の眼で敵を捉える、というのはあくまでも方便だ。目を隠してしまえば見えなくなるのは当たり前だ。ならば、どうして儂はお前の攻撃を対応できたと思う?』
『えっと……どうしてだろう』
『答えは簡単じゃ。視覚を封じられたのであれば他の物に頼ればいい……この答は自分で導き出すのが一番じゃな』
『ええっ!?教えてくれないの!?』
『何でもかんでも教えれば意味はない、時には自分で考えて答えを導き出さねばならん時もある。よく考えるのだ』
結局はレノはロイがどうして目隠しの状態で自分の攻撃に対応できたのかを教えて貰えなかった。だが、彼が告げた「心眼」の事を思い出したレノはネココとキルの攻防を把握し、必死に考える。
(思い出せ、あの時のロイ爺ちゃんの言葉を……爺ちゃんは心眼なんて存在しないと言った。だけど、目隠した状態で俺の行動を把握していた。どうして?)
ロイとのやり取りを思い出し、彼が何を言っていたのかを事細かく思い返しながらレノは考えると、ここではある事を思い出す。それはロイが「資格を封じられたのであれば他の物に頼ればいい」という言葉だった。
視覚に頼らずに敵の行動を把握する、そんな方法があるのかとレノは考えた時、ここでネココの姿を見る。彼女は自分達を守るために傷を負った姿を見て心苦しく思い、痛そうな傷跡を見てレノはある事に気付く。
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