第169話 風の力で捉える
(そうだ、爺ちゃんは視覚以外の物、視覚以外の五感で俺の位置を捉えていたんだ!!)
レノは目隠ししたロイと戦った時の事を思い返し、彼は視覚には頼らずに他の感覚を頼りにレノの行動を把握して対処していた事に気付く。あの時のロイは視覚を封じられても他の感覚を頼りにして戦っていたのだとレノは悟る。
ネココの傷跡を見た事でレノは痛覚の存在を思い出し、視覚以外にも人間の身体には感覚がある事を強く意識する。視覚に頼らずとも他の感覚を研ぎ澄ませれば視覚を補う事を出来る事はレノもロイから襲わていた。
(まさか、心眼の正体は……視覚以外の感覚を頼りにして敵を捉える能力なのか!?)
ロイの言葉の真実に辿り着いたレノは動揺を隠せず、まさか本当に心の眼で相手を捉えるのではなく、視覚以外の感覚を研ぎ澄ませる事で敵の動きを捉える事が心眼の極意だと気づいてしまう。
(そうか、そういえば爺ちゃんは俺が攻撃を仕掛ける時に聴覚で音を、嗅覚で臭いを感じて対応していたのか……いや、でもそれが分かったとしても俺に爺ちゃんの真似が出来るはずがない!!)
理屈は理解してもそれを実践できるかどうかは別の話であり、剣の達人のロイならばともかく、今のレノに彼のような芸当は出来るはずがない。レノがロイほどの技量に達しているならば話は別だが、生憎とレノとロイでは技量に途轍もない差が存在する。
考えている間にもネココはキルに追い詰められ、彼女はどんどんと傷を負う。今のところは掠り傷ばかりだが、それもキルが敢えて手加減しているように見えた。
「はあっ、はっ……」
「ひひっ……息切れが段々と酷くなってきたな。そろそろ限界だな?」
「くぅ……舐めないで!!」
キルの言葉にネココは冷や汗を流し、このままでは彼女の方が体力に限界を迎えてしまう。一方でレノはネココを援護するには自分も動くしかないと考えたが、ここで下手に加勢しても彼女の足手まといになるだけだった。
(考えろ!!考えるんだ!!爺ちゃんがどういう風に動いていたのかを思い出せ……!!)
レノはこの状況を打破する方法を考え、そしてある事に気付く。それは人間の五感の視覚、味覚、嗅覚、触覚、最後に聴覚の事を思い出す。このうちの視覚と味覚は論外だが、他の感覚に関してはレノはロイよりも優れている自身はある。
(そうだ、俺はハーフエルフだ……普通の人間よりも耳はいい)
自分の細長いの耳の事を思い出したレノは聴覚に関しては人間よりも優れている事を自負していた。自然に囲まれて生きてきたレノは普通の人間よりも感覚は優れている。山で暮らしていた時、狩猟を行う時を思い出す。
狩猟の際のレノは獲物を見つけ出し、そして相手に気取られないように接近し、仕留めてきた。獲物の気配を逃さず、確実に仕留める。そんな生活を送り続けてきたレノだからこそこの状況を打破する方法を思いつく。
(集中しろ、緊張することはない。これは……狩りだ)
山で暮らしていた時の事を思い返し、相手の事を人間だとは思わず、獲物であると考えたレノは意識を集中させる。この時にレノの雰囲気が変化した事に気付いたのはドリスだけだった。
「レノ、さん?」
「しっ……」
ドリスに声をかけられたレノは彼女に注意すると、彼は意識を集中させてキルの姿を探す。だが、気配を感じようとしてもやはり彼は捉えきれない。ならば気配を感じるのを諦め、他の方法で探す事にした。
無意識にレノは掌を差し出すと、付与魔術を発動させて風の魔力を拡散させる。その行為によって戦闘中だったネココとキルは驚いて彼に振り返り、ドリスも突如として周囲に風圧を放つレノの行動に戸惑う。
「レノさん、急に何を!?」
「レノ……?」
「何の真似だ……!?」
レノは掌から風圧を発生させながらも意識を集中させ、自分の掌から放たれる風の魔力を周囲に拡散させ、周囲の物体を感じとる。
(……魔力の流れを感じるんだ)
周囲に流し込んだ自分の風の魔力を感じ取り、この時に風の結界を作り出す事で他の人間の存在を感知する。そしてレノはネココから離れ、自分に向けて近付いてくる存在を感じ取った。
(こいつがキルか!!)
自分の行動に危険を感じ取ったのか、風の流れに逆らいながら近付いてくるキルの存在に気付いたレノは目を閉じたまま剣を抜き、彼の剣を受け止める。その行為にキルは驚きを隠せず、弾かれてしまう。
「はあっ!!」
「馬鹿なっ!?」
「……まさか、見えたの!?」
「す、凄いですわ!!」
キルが剣を弾かれる光景にネココは信じられない声を上げ、ドリスも訳が分からないがレノが相手の攻撃を弾いたのを見て賞賛する。一方でレノは目を閉じた状態のまま、今度は荒正に風の魔力を流し込みながらキルと向かい合う。
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