第170話 レノVSキル

風の魔力を利用する事で風の流れで敵の位置を捉える事が出来るようになったレノは踏み込み、敵に対して荒正を放つ。それに対してキルは慌てて距離を取ろうとした。



「馬鹿なっ!?どうして、見えてるのか!?」

「目を閉じてるのに見えるわけないだろ!!」



レノは風の流れを感じる事に集中して目を閉じたまま戦い、逃げようとするキルの後を追って攻撃を仕掛ける。無音剣という大層な二つ名を持つが、実際に戦ってみると彼の剣術はお粗末な物でレノにすら劣った。



「はあっ!!」

「うわっ!?こ、このっ……!!」



荒正の一撃を受けてキルは体勢を崩しかけ、どうにか逃げようとするがレノはそれを見逃さない。ネココと違い、レノの場合は別にキルがどのように動くのかを予想して動いているわけではなく、実際にキルの動作を確認しながら戦っているので後れを取らない。


ネココの場合は相手の動きを予測しながら行動していたために普段通りに動く事は出来なかったが、しっかりと相手の位置を把握できるならば余計な事は考えず、戦う事に集中できる。



「ど、どうして……どうして見えるんだ!?」

「だから、見えてないって言ってるだ!!」

「嘘だ、そんなの有り得ない、嘘だぁっ!!」

「あっ!?こ、これは……私にもあの男がはっきりと見えるようになりましたわ」

「……動揺して気配を殺すのにを忘れている。こうなったら、もうただの剣士……しかも、碌な剣技も扱えない三流剣士に変わりはない」



これまでは完璧に存在感を隠していたキルだったが、自分の動きを完璧に捉えたレノによって精神的に追い詰められ、他の人間からも認識できるほどに気配を隠しきれなくなった。その様子を見てネココは勝負がついたと判断し、直後にレノはキルに向けて技を放つ。



「嵐斧!!」

「ぐはぁあああっ!?」



大木を斧で斬り倒す時の要領でレノは強烈な一撃を放つと、キルは身に付けていた鎖帷子が切り裂かれ、派手に吹き飛ぶ。その様子を見てレノは目を開くと、剣に纏わせた風の魔力を解除した。



「ふうっ……どうにか勝った」

「す、凄すぎますわ……でも、あれは死んだんじゃないでしょうか?」

「あの程度でくたばるような奴じゃない……多分」



派手に吹き飛んだキルを見てドリスは冷や汗を流すが、今はこの場を離れる事を優先しなければならず、流石に騒ぎを起こしすぎたか警備兵が駆けつける足音が鳴り響く。



「こっちの方から何か音がしたぞ!!」

「何事だ!?」

「まずい、早く逃げよう!!」

「えっ!?どうしてですの?私達は何も悪い事は……」

「……この状況でその言い訳はしにくい」



倒れているアリスラ、ジャドク、キルを見てレノ達はここへ残るのはまずいと判断し、下手をしたら自分達が捕まりかねなかった。そもそもこの街の警備兵はゴノ伯爵と繋がりを持つ者もいるかもしれず、油断は出来ない。


この場は逃げるしかないと判断したレノはここまで一緒に連れてきたリボンを探し、戦闘の際にいつの間にか姿を見せなくなったので心配するが、路地の奥の方から声が響く。



「チュチュウッ!!」

「あ、リボン!!そんなところにいたのか!!」

「話は後、今はあの子の後を追いかける!!」

「ああ、もう……仕方ありませんわね!!」



警備兵が駆けつける前にレノ達はリボンの後に続き、ネズミ婆さんの隠れ家へと向かうしかなかった――






――同時刻、レノ達が宿泊している宿屋には蝙蝠に所属する団員達が駆けつけ、レノ達が運んできた荷物を漁っていた。だが、生憎と荷物は衣服や日用品の類ぐらいしか残っておらず、手がかりに繋がりそうな物はなかった。



「くそっ!!奴等め、何処へ消えた?」

「隈なく探せ、蝙蝠に手を出した報いを受けさせてやる」

「伯爵に報告しますか?」

「馬鹿を言え!!任務を失敗しただけでなく、邪魔者を取り逃がしたと知られれば我々の立場が危うくなる!!何としても見つけ出して殺すんだ!!」




レノとアルトを追いかけていた者達は彼等の部屋で荷物を漁るが、二人とも貴重品は肌身離さず身に付け、アルトの場合は収納鞄を持ち歩いていたのが幸いした。



「おい、どうする?まだこの宿に待ち伏せるのか?」

「奴等も馬鹿じゃない、この場所が突き止められているのは気づかれているだろうが……ん!?」

「どうかしたか?」

「いや、窓の方に何かいなかったか?」

「窓だと……別に何もいなかった気がするが」



蝙蝠に所属する傭兵の男達は窓に視線を向けるが、そこには何も存在せず、気のせいかと無視する事にした。しかし、窓枠の部分に上手く姿を隠したネズミ達が存在し、彼等は傭兵達の行動を監視していた。


ネズミ婆さんが放ったネズミ達は既にこの街に放たれ、蝙蝠の行動を監視していた。彼等は自分達が監視されている立場だと考えもしなかった――

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