第171話 下水道
「――ううっ、臭いですわ……それに汚いし、どうしてこんな場所を通らないといけないんですの?」
「……下水道なんだから汚くて臭いのは当たり前、我慢するしかない」
「リボン、この先で合ってるの?」
「チュチュッ(そこの通路を右に曲がって)」
レノ達は警備兵を巻いた後、ゴノの街の下水道の通路を歩いていた。ドリスは下水道の臭いと汚さに精神的な苦痛を味わうが、リボンが案内するままに付いて来ていたらこの場所に辿り着いた。
リボンはレノの肩の上で指示を出し、行き先を示す。まさか下水道にネズミ婆さんが隠れ家にしている場所があるのかとレノ達は不安を抱いたが、やがて地上へ続く梯子の前に辿り着く。
「チュチュチュッ」
「ここを登れ?地上に出るの?」
「良かった、流石に不衛生な場所に隠れ家があったらどうしようかと思った」
「は、早く出ましょう……鼻が曲がりそうですわ」
レノ達は梯子に辿り着くと、急いで梯子を登って出て行こうとした。だが、この時にレノは下水道に流れる水路に視線を向け、何かが泳いでいる事に気付く。
「えっ……今、何かが通り過ぎなかった?」
「そ、そんな事はどうでもいいですわ。きっと魚か何かでしょう……早く上がりましょう」
「ドリスの意見に賛成……この場所は私にはきつい」
ネココも獣人族であるため、人間よりも嗅覚が優れる彼女からすれば下水道に臭いはきつかった。レノは二人の言葉に頷き、最後にもう一度だけ水路を見るがそこには何もいなかった。
梯子を登ってようやく下水道を抜け出すと、レノ達は何処かの建物の地下室のような場所へと辿り着く。随分と埃が被っており、もう何年も放置されている様子だった。
「げほげほっ……な、何ですのここ?」
「ここが……ネズミ婆さんの隠れ家?」
「チュチュウッ!!」
「あ、リボンちゃん!!何処へ行くんですの!?」
レノの肩に乗っていたリボンが駆け出すと、彼女は階段を上がって地下室から抜け出す。その後にレノ達も続き、階段を上ると自分達が辿り着いた場所は廃墟だと知る。
「これは……もうずっと前から誰も住んでないみたい」
「ここがネズミ婆さんの隠れ家じゃないのかな……」
「随分とボロボロですわね……火事か何かで燃えたのでしょうか?」
レノ達が辿り着いた廃墟は随分と前に火事で焼け崩れたらしく、人が住める状態ではなかった。周囲を見渡すと同じような建物が並んでおり、どうやらこの周辺一帯に大きな火災が起きたのか殆どの建物が廃墟と化していた。
どうしてネズミ婆さんはこんな場所に連れてこさせたのかとレノ達は考えていると、ここであちこちの建物から大量のネズミが姿を現す。
『チュチュイッ!!』
「きゃあっ!?リボンちゃんが増殖しましたわ!?」
「落ち着いて……これはネズミ婆さんの子供達」
「その言い方もどうかと思うけど……」
ドリスは周囲から大量のネズミが押し寄せてレノとネココの背中に隠れるが、すぐにレノは腰を屈めて手を伸ばすとネズミの中からリボンが現れて彼の掌の上に乗る。
「チュチュウッ」
「ここにいる皆は全員が仲間だって」
「そ、そうなんですの……それにしてもこれだけ大量のネズミを飼育しているなんて、ネズミ婆様も凄い御方ですね」
「いや?そうでもないさ、普段はこいつらは勝手に飯を調達して生きているからね。仕事の時だけ呼び出しているだけだから別にそんなに苦労はしないよ?」
大量のネズミを見て呟いたドリスの言葉に何処からかネズミ婆さんの声が返され、声のした方に振り向くとそこには大きな桶と布巾を抱えたアルトとネズミ婆さんの姿が存在した。
「あんた達、よくここまで逃げ切れたね……でも、その前に身体を洗いな。臭くてしょうがないだろう?あたしのネズミ達は綺麗好きだからね、そんな格好だと警戒して落ち着かないんだよ」
「お湯と布巾は用意したよ。吸水石も余分にあるから、洗濯も出来るよ」
ネズミ婆さんの言葉にレノ達は自分の格好に視線を向け、顔をしかめる――
――その後、身体を洗って身に付けていた装備品の洗濯を終えたレノ達はネズミ婆さんの案内の元、彼女が隠れ家へと向かう。その途中、ネズミ婆さんはこの場所の説明を行う。
「ここら辺はね、大分前に大きな火災が起きて建物が殆ど焼け崩れたのさ。住んでいた人間達も死んじまって、今では焼け残った建物だけが残っている。そんな場所にこの街のならず者たちが集まって住み始めていたら、いつの間にか「廃墟街」と呼ばれるようになっていたのさ」
「廃墟街……」
「ここが、もしかしてネズミ婆さんの生まれた場所?」
「そうだよ。火事が起きた時、私はここで家族を失った……まあ、飲んだくれのくそ親父と碌に飯も作らずに若い男と遊ぶどうしようもない母親だったけどね」
「ふ、複雑な家庭環境でしたのね……」
ゴノには「廃墟街」と呼ばれる区画が存在し、その場所が廃墟街と呼ばれる前からネズミ婆さんは家族と暮らしていたという。火事が起きた時に自分以外の家族を失ったそうだが、本人は別にそれほど気にしてはいないと言い張る。
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