第172話 廃墟街
「まあ、そんな事はどうでもいいさ。ほら、到着したよ。ここがあたしの隠れ家さ」
「隠れ家って……屋敷!?」
「……随分と古そうだけど、この屋敷だけ焼け崩れている箇所が少ない」
「あら、中々良い雰囲気の屋敷ですわね」
「隠れ家にしては随分と目立つような気もするけどね……」
ネズミ婆さんがあんないした場所は元は貴族が住んでいそうな屋敷であった。こちらの屋敷も焼け崩れている箇所はあるが、ほぼ原型は保っているので雨風はしのげそうだった。
屋敷の中に入り込むと少々埃っぽいが思っていたよりも家具は残っていた。屋敷に入った途端にレノとネココは何かに気付いたように足を止める。
「この中……気配をたくさん感じる」
「……私も」
「へえ、流石だね。こいつらの事に気付いたのかい」
「こいつら?」
「ほら、出てきな!!餌の時間だよ!!」
レノとネココの反応にネズミ婆さんは笑みを浮かべ、彼女は口笛を吹くとあちこちから大量のネズミが出現する。その数は100匹を超え、それを見たドリスは悲鳴を上げてレノの後ろに隠れる。
『チュチュウッ!!』
「ひいいっ!?ね、ネズミですわ!!」
「何をそんなに驚いてるんだい、さっきも見ただろう?」
「い、いきなり現れたらびっくりしますわよ」
「あの、ドリス……あんまりくっつくと胸がその」
「むうっ……」
ドリスはレノの背中にしがみつき、その際に彼女の大きな胸が押し当てられ、ネココは自分の胸に手を伸ばしてドリスの胸の大きさに嫉妬する。その一方でネズミ婆さんは抱えていた荷物から食料を取り出してネズミ達に分け与えた。
「私がいない間は普段はこいつらがこの屋敷を管理してるんだよ。泥棒が入ってきたときはこいつらが追い払っているのさ。そのせいでこの屋敷はお化け屋敷ならぬネズミ屋敷と呼ばれていて滅多に人は近づかないんだよ」
「このネズミ達もネズミ婆さんが使役しているのかい?」
「そういう事さ、ここにいる間はこいつらの餌を要しないといけない。この屋敷を守ってもらう代わりに餌代は私が用意しないといけないのさ」
「チュチュッ!!」
リボンもネズミ達に交わって食料を与えてもらい、美味しそうに食す。この屋敷に入った人間はこの大量のネズミに襲われるため、殆どの物がネズミにトラウマを植え付けられて二度と近づく事はない。
餌を与え終えるとネズミ婆さんは屋敷の食堂だった場所へ移動し、とりあえずは彼女が得た情報をレノ達に話す事にした。
「さっき、あんたらが泊まっていた屋敷に送ったネズミ達から報告があったよ。残念ながら、あんたらの荷物は奴等に奪われたみたいだね」
「そ、そんなっ!?私達の服と下着もですの!?」
「……むうっ」
「僕は収納鞄があるから荷物は無事だけど……」
「参ったな……」
レノ達は荷物を奪われた事に困り果てるが、幸いな事に貴重品の類はなかった。ちなみにドリスが身に付けていた黄金の鎧は目立ちすぎるという理由で王都の実家へと送り込んでいる。
宿に残してきた荷物を奪われた事は残念ではあるが、失っても問題ない物しかなかった事は幸いだった。だが、女性陣は衣服や下着が他の人間に奪われた事に動揺を隠せず、ドリスは怒りの表情を抱く。
「絶対に許せませんわ!!お気に入りの服もありましたのに……今からでも宿に乗り込んで取り返してきますわ!!」
「落ち着きな、あんたらの荷物はもう宿にはないよ。奴等が全部持って行っちまった」
「そうだ、ウルとスラミンは!?無事なの?」
「そこも安心しな、あいつらも私のネズミが既に避難済みさ。ほら、話している間にきたよ」
『ウォンッ!!』
『ぷるるんっ!!』
屋敷の外から聞きなれた声が聞こえ、急いでレノとネココは外に出ると、そこには頭にネズミを乗せたウルとスラミンの姿が存在した。その様子を見てレノとネココはすぐに2匹の元へ向かう。
「ウル、良かった!!無事だったのか!!」
「クゥ~ンッ……」
「……スラミンも無事で良かった」
「ぷるるんっ♪」
ウルはレノに頬ずりし、スラミンもネココに頭を撫でられて嬉しそうな声を上げる。荷物だけならばともかく、この2匹に何かあればレノ達も黙ってはないなかった。ネズミ婆さんが機転を利かせて連れてきた事に感謝する。
「ありがとう、ネズミ婆さん。何から何まで世話になって……」
「まあ、ネココとは付き合いが長いからね。それにあんたはロイの孫みたいなもんだからね。私にとっても孫みたいなもんさ」
レノに感謝されてネズミ婆さんは若干照れ臭そうに答え、昔は恋仲でもあった男が孫のように大切に育てた相手を放っておけるはずがなく、ネズミ婆さんは答える。
外にいると目立ちすぎるのでウルとスラミンも屋敷の中に案内すると、改めてレノ達はこれからどのように行動するのかを話し合う。
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