第173話 蝙蝠の拠点

「それであんたら、これからどうするつもりだい?」

「決まってますわ!!私達をこんな目に遭わせた黒幕を捕まえて警備兵に突き出してやります!!」

「この場合の黒幕となると、この街の領主になるのかな?」

「……流石にそれは無理」



ドリスはネズミ婆さんの言葉に興奮気味に答えるが、今回の相手は「黒狼」よりも厄介な存在だった。何しろ相手はただの盗賊団ではなく、この街の領主が影から支配する傭兵団である。


領主の支援を受けている「蝙蝠」と呼ばれる組織は裏で暗殺稼業を行い、領主であるゴノに敵対する存在を抹消してきた。そして蝙蝠には二つ名持ちの腕利きの傭兵も所属しているらしく、その中にはネココと関わりを持つ相手も複数名存在した。



「……蝙蝠にはアリスラ、ジャドク、それにキルまでいた。3人とも傭兵の間では有名な存在、もしかしたら他にもいるかもしれない」

「ネズミ婆さんは何か知らないの?」

「蝙蝠の奴等とは私も出来る限りは関わらないようにしてたさ。何度か声を掛けられた事は遭ったけどね、あいつらが現れたせいで私はシノに拠点を移す事になったといえなくもないね」

「声を掛けられたときに蝙蝠に入るつもりはなかったんですか?」

「冗談じゃないよ、人の下に付くのなんて御免だね!!」



ネズミ婆さんも蝙蝠とは過去に因縁があったらしく、彼女が闘技祭が行われる時期にしかゴノに戻らない理由は蝙蝠との関りを持たないように気を付けているかららしい。



「むむむ、こうなったら領主の元に直談判するのは……」

「それは止めておきな、証拠もないのにそんな事をしたらあんたの立場が悪くなるだろうね」

「公爵家の王国騎士が地方の領主を脅したなんて噂が流れればとんでもない大問題になるだろうね。下手をしたら騎士の座を剥奪、あるいは公爵家も何らかの責任を取られるかも……」

「そ、それは困りますわ……」



無策に領主の元に突っ込むのは無謀だと諭されたドリスは落ち込み、何か良案はないのかと考える。恐らくはレノ達の情報は既に蝙蝠に知られ、領主にも知られているだろう。


これ以上に街を長居すれば蝙蝠に見つかる恐れもあるため、早々に街を抜け出す方が安全かもしれない。だが、ここまでいいようにやられて逃げるなどレノとしても我慢できなかった。



「蝙蝠とゴノ伯爵が繋がっている証拠さえあれば、伯爵の不正を暴く事も出来るのに……」

「証拠さえあれば私の権限でどうにか出来ますわ!!そう、証拠さえあれば……」

「証拠……それなら心当たりがなくもないよ」

「……本当?」



ネズミ婆さんの言葉に全員が視線を向けると、彼女は口笛を吹いてネズミを呼び寄せ、机の上に移動させる。そのネズミはネズミ婆さんに何かを語り掛けるように訴え、それを聞いた彼女は頷く。



「このネズミはあんたらの宿屋を見張らせていた奴さ。こいつがあんた等の荷物を奪った奴等の後を追った時、とある建物の前に辿り着いたのさ」

「建物?」

「この街に存在するカジノさ」

「かじ、の……?」

「それは本当かい!?」



カジノという聞きなれない単語にレノは戸惑うが、その言葉を聞いて真っ先にアルトが反応した。彼の反応に他の物は驚くが、アルトは若干興奮気味に尋ねる。



「まさか、この街にもカジノがあったなんて!!1年前に訪れた時はそんな話聞いてもなかったよ!!」

「あ、ああ……この街のカジノは半年前に開店したからね。知らないのも仕方ないさ」

「あの、カジノというのは何の話?」

「レノさんは知りませんね?カジノというのはいわゆる賭博場ですわ」



ドリスはレノがカジノを知らない事に驚き、説明を行う。カジノでは資金を「メダル」と呼ばれる特別な硬貨へと変換し、そのメダルを利用して様々な賭博に参加できるという。メダルは換金対象なので場合によっては最初に支払った値段分以上のメダルを獲得した場合、換金の際には最初に自分が払った以上の金を得られる好機もある。


但し、反面に賭博に負ければメダルを失い、場合によっては全てのメダルを失う可能性も十分存在する。一獲千金を狙う人間にとってはカジノ以上に都合のいい場所はないが、反面に全てを失う可能性もある場所だとドリスは説明した。



「このゴノの街のカジノはそれほど有名ではありませんけど、メダルと引き換えに貴重な鉱石や魔法金属を手に入る事もできるそうですわ」

「へえっ……カジノか、ちょっと面白そう」

「何を言ってるんだレノ君!!カジノは最高の娯楽なんだよ!!もちろん、身を滅ぼす危険性もあるが、適度に遊ぶだけならば問題はないんだ!!」

「ど、どうしてアルトはそんなに嬉しそうなの?」

「貴族の間でもカジノは人気が高いからだよ!!僕も子供の頃に王都へ赴いたとき、父親に連れられて王都のカジノで遊んだ時の事の事は忘れられない!!ああ、こんな状況じゃなければカジノを楽しめたのに……!!」

「そういう事ならあんたらには丁度いい話かもしれないね。実はそこのカジノが蝙蝠の根城の可能性があるよ」

「……本当に?」



カジノが蝙蝠の拠点の可能性があるという話にレノ達は驚き、ネズミ婆さんが放ったネズミによるとレノ達の荷物を運んだ者達はそのカジノで姿を消したという。

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