第167話 無音剣のキル
「レノさん、助かりましたわ!!でも、よくこの場所が分かりましたわね?」
「そりゃ、あんだけ派手な爆音が聞こえれば気付くよ……」
「……確かに」
「チュチュウッ!!」
「きゃあっ!?レノさんの頭にネズミが!?」
レノはドリスの「爆炎剣」や「爆砕」の技を発した時に聞こえた音を頼りにここまで辿り着く。そして彼に同行していたネズミのリボンも頭顔を出すと、ドリスは驚愕の声を上げる。彼女がリボンを見るのはこれが初めてだった。
ネココはリボンを見て驚いたが、すぐにネズミ婆さんがこの街に来ている事を察した。ネココはネズミ婆さんとは付き合いが長いのでこの街が彼女の古巣である事も、ゴノ闘技場で武芸大会が行われる時期だけ彼女が戻っている事も知っていた。
「大丈夫、この子は味方だから……とりあえず、今は話している暇はないから急いで離れよう」
「で、ですがこれからどうしますの?宿屋へ戻るのですか?」
「いや、今は宿に戻るのは危険過ぎる……この子が隠れ家まで案内してくれるそうだらか、そこへ行こう」
「チュチュッ!!」
レノの言葉に頷き、リボンは彼の頭から地面へと降り立つと、自分に付いてくるように促す。それを見たレノ達はリボンの後を追いかけようとした時、ここでネココは何かに気付いたようにレノに蛇剣を放つ。
「レノ、頭を伏せて!!」
「えっ!?」
「ひゃはぁっ!!」
ネココの言葉にレノは反射的に頭を下げると、彼女の蛇剣の刀身が伸びてレノの頭上を通り過ぎると、金属音が鳴り響く。驚いたレノは背後を振り返ると、そこには先ほど吹き飛ばしたと思った男が立っていた。
男の手元には鎌のような形をした剣が握りしめられ、先ほどドリスに攻撃を仕掛けたときの剣とは形状が異なっていた。まともに受ければボアのような大型の魔物でも仕留められるレノの「嵐刃」を受けても動ける事に3人は驚くが、切れた男の胸元の部分には青色の光り輝く鎖帷子を身に付けていた。
「まさか、魔法金属製の鎖帷子!?それでレノさんの攻撃を耐えたんですの!?」
「ひひひっ……お前、殺す」
「な、何だこいつ……」
「思い出した……こいつは傭兵じゃない、仲間を殺して指名手配された「無音剣のキル」という名前の元傭兵」
「無音剣?聞いた事もない流派ですわね……」
ドリスはネココの言葉を聞いて首を傾げ、有名処の剣の流派ならば彼女も知っているが、無音剣なる流派など聞いた事がない。そんな彼女に対してネココは説明する。
「無音剣は剣の流派の名前じゃない、こいつを殺す場面を見た人間が勝手に名付けた剣技……名前の通りにこいつは音を立てずに人を斬り殺す事が出来る」
「そんな馬鹿なっ!?」
「この男は私のように暗殺者の技能が高い……完全に気配を殺し、存在感を薄くさせる事で目の前に存在しても身体がまるで透明になったように認識できなくなる」
「あ、それってまさか……」
レノはネココと最初に出会った時、目の前に存在した彼女がいつの間にか背後に移動していた事を思い出す。あの時は目にも止まらぬ速度で背後に回られたと考えていたが、視力に関しては山暮らしで優れているレノが見落とすはずがなく、彼女は自身の気配を殺す事で限りなく「存在感」さえも薄くさせ、まるで透明人間のように消えたとレノが錯覚したに過ぎなかった。
キルという男はネココと同じ能力を持ち合わせ、彼の場合は足音を完全に殺して近づく事が出来た。もしもドリスもレノもネココが気づかなかった場合、殺されていた可能性が高い。
「ひひひっ……傭兵のネココだな、お前の事は知ってるぞ」
「……私も貴方を知っている、高額な賞金を掛けられている事を」
「きひひっ!!なら、殺し合うか?」
「な、何ですのこの男……不気味ですわね」
3対1という状況にも関わらずにキルは気色の悪い笑みを浮かべ、まるで犬の様に下を伸ばして涎を垂らす。その姿を見てドリスは背筋が凍るが、一方でレノは先ほどネココが助けてくれなければ自分は殺されていた事を知って緊張感を抱く。
(山で暮らしていた時も気配を殺す動物や魔物はいたけど、こいつの場合は全く気配が感じなかった……今も目の前にいるはずなのにまるで何もない場所に話しかけているみたいだ)
しっかりと視界で姿を捉えているにも関わらず、キルを前にしたレノ達は彼の事をはっきりとは認識できない。話している間もキルは存在感を巧妙に隠しており、仮にキルが目の前で剣を振り抜いて来てもレノは反応できる自信がなかった。
「二人とも、下がって……ここは私がやる」
「ネココ……」
「だ、大丈夫ですの?」
「……こんな奴に負けない」
「くひひっ……強がりはよせ、お前じゃ俺に勝てない」
キルはネココの言葉を聞いても余裕の態度を貫き、二人はしばらくは見つめ合っていたかと思うと、ここでネココが動き出す。それを見たレノはネココが先に仕掛けたのかと思ったが、いつの間にかキルの姿が本当に消えている事に気付く。
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