第166話 アリスラの忠告

「や、やりましたわ!!」

「……凄い技だったけど、死んでないのあれ?」

「た、多分……」



吹き飛ばされたジャドクに視線を向け、辛うじて身体が動いている事から死んでいない事を確認したドリスは安堵すると、ネココは後方へと振り返る。


アリスラは倒れたまま動かず、その様子を見てこちらも生きているのか念のために確認しようとすると、横たわっていたアリスラが上半身を起き上がらせた。その様子を見てネココは驚くが、彼女は頭を抑えながらも戦う意思がない事を伝えた。



「いてててっ……たくっ、死ぬかと思ったよ」

「……殺すつもりで放った。手加減する余裕はなかった」

「だろうね、それぐらいの覚悟でないとあんたが私をここまで追い詰める事はないだろうからね。全く、元相棒に対してひどい仕打ちじゃないかい?」

「えっ!?相棒?」

「アリスラとは一時期だけ一緒に仕事をしていただけ……半年前までは私達は一緒にやっていた」



ドリスはアリスラとネココが共に働ていた事を知って驚き、それならばどうして互いに本気で殺し合いをしたのかと不思議に思う。そんな彼女の心情を察したようにアリスラはドリスに伝える。



「あんた、私達が知らない仲じゃないのにどうして殺し合いなんてしたんだ、とか思ってないかい?」

「え、ええっ……」

「生憎と傭兵の世界だと、昨日まで一緒に命を預けていた相手であろうと敵として出会ったら容赦はしない世界なんだよ。今回は私もネココも敵同士だった、だからお互いに本気で殺し合った……まあ、こうして二人とも生きてはいるけどね」

「勘違いんしないで、生殺与奪の権は私が握っている。殺されたくなかったら情報を吐いて」



ネココはアリスラに対して蛇剣を構えると、そんな彼女にアリスラは苦笑いを浮かべ、両手を上げる。その様子を見たドリスは降参かと思ったが、彼女は思いもよらぬ言葉を発した。



「それは出来ないね、私の流儀は仲間は裏切らない……例え、どんなに気に入らない相手だろうとね」

「仲間?誰かに依頼されて私達を殺しに来たんじゃないの?」

「依頼を引き受けたのは私の上司さ、そいつの命令を受けて私とそこに倒れているジャドクはあんた達を狙っただけ……それ以上は言えないね」

「ど、どういう事ですの!?いったい誰が私達の命を……」

「答えられないと言ったはずだよ。さあ、殺しな……それがあんた等のためだよ。ここで私を殺さなかったら取り返しのつかない事になる」

「…………」



アリスラの言葉を聞いてネココは考え、お互いに会亭の性格を知っているだけにアリスラは本当に死んでも仲間の情報は吐かない事は分かり切っていた。ネココはため息を吐いた後、蛇剣を鞘に戻す。


自分を殺すつもりはないのかと驚いたアリスラだったが、そんな彼女に対してネココは鞘に剣を収めた状態で頭を叩きつけ、彼女を気絶させる。その様子を見てドリスは驚くが、ネココは彼女に告げた。



「他の追手が来るかもしれない、急いでこの場所を離れた方がいい」

「え、ええ……その、アリスラさんとそこの男はどうしますの?」

「放っておけばいい……また追ってきたらその時は容赦はしない」



ネココは最後に気絶したアリスラに視線を向け、彼女の忠告の言葉を思い返す。確かにここでアリスラを斬らなければネココは後々に後悔する事になるかもしれない。それでもネココはアリスラを斬らず、ドリスと共にその場を立ち去ろうとした。



「一旦、宿に戻ってレノさん達と合流しましょう!!レノさん達も危ないかもしれませんわ!!」

「分かった。ならすぐに……ドリス、危ない!?」

「えっ!?」



ドリスはネココの言葉を聞いて咄嗟に背後を振り返るが、そこには誰もいない。ネココが何に対して危険を感じたのかとドリスは戸惑うと、天から注ぐ太陽の光が遮られている事に気付く。


まさかと思って彼女は上空を見上げると、そこには建物の屋根の上から飛び降りる人影が存在し、下にいるドリスに向けて剣を構える男の姿があった。それを確認したネココは急いでドリスの元に向かうが、到底間に合わなかった。



「きええっ!!」

「きゃあっ!?」

「ドリス!!」



奇声を発しながら上空からドリスに刃を突き刺そうとした男に対してネココは蛇剣を伸ばそうとした時、ここで路地裏に強風が発生したかと思うと、ドリスに飛び掛かってきた男の身体が吹き飛ぶ。



「嵐刃!!」

「うぎゃあっ!?」

「ひえっ!?」

「わっ!?」



三日月状の風の刃が男の身体に衝突すると、吹き飛ばされてネココの頭上まで飛び越え、地面へと倒れ込む。その光景を見てすぐにドリスとネココは男を吹き飛ばした物の正体に気付き、路地に出入口に視線を向けるとそこには息を荒げながらも荒正を構えるレノの姿が存在した。



「ま、間に合った……!!」

「レノ!?」

「レノさん!?どうしてここに……いや、だけど助かりましたわ!!」



この場所に到着するまで走り続けてきたのか、全身から汗を流しながらもレノは二人を見つけ出す事に成功し、安堵の表情を浮かべる。そんな彼の元に二人は駆けつけた。

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