最終話 再会の刻
――吸血鬼の眷属として再生能力を得ていたスカーは倒された事により、シチノは完全に平和を取り戻した。魔物の脅威から解放された事を住民達は喜び、領主はこの街を救った英雄としてレノ達に感謝した。
街を救うために最も貢献したのはレノ達である事は間違いないが、この街の兵士や傭兵や冒険者の協力もなければ街を守る事は出来なかった。もしも彼等が街を守るために全力を尽くさなかった場合、今頃はこの街の人間達は魔物に蹂躙されていただろう。
アルトの懸念であった魔物達が収納石を探していた理由はスカーが吸血鬼の眷属であった事により、彼はカトレアがスカーを利用して収納石を回収させようとしていたと推理する。
カトレアはゴノの街に存在した頃から準備を整えていたらしく、魔導砲の設計図が収納された金属の箱はスカーに回収させ、後々に自分の物にするつもりだったのだろう。吸血鬼は滅多に存在せず、この周辺で最も吸血鬼として有名な存在はカトレアだけであるため、彼女がスカーを眷属にしていたとしか考えられない。
街の人間の中に内通者がいるわけではなく、何か月も前からカトレアは王都から設計図を盗み出す計画を立てて眷属にした魔物に回収させようとしていた。だが、その計画を果たす前に彼女は死んでしまい、結局は残されたスカーは彼女が死んでいる事も知らずに律儀に命令を遂行しようとしていた事になる。
スカーの行動は決して許される事ではないが、主人として認識していた相手が既に死亡しているにも関わらず、主人の命令を果たすためだけに魔物の軍勢を指揮し、最後の瞬間まで命令を果たすために人間と戦い続けた事を考えると少し哀れでもあった。だが、スカーという脅威が無くなった以上、もうシチノを脅かす存在は完全に消え、平和を取り戻した――
――スカーの討伐を果たしてから三日後、レノは目を覚ますと自分が領主の屋敷のベッドの上に横たわっている事に気付く。傍にはネココやドリスの姿が存在し、二人ともレノが眠っているベッドに寄り添うように眠っていた。
「すぅっ……すぅっ……」
「ぐぅっ……ぐぅっ……」
「……ここは、そうか。俺、また気絶したのか」
「やあ、やっと目覚めたようだね」
「ぷるるんっ!!」
レノは身体を起き上げると、部屋の扉が開かれて小さくなったスラミンを頭に乗せたアルトが現れる。スラミンはレノが目を覚ました事に気付くと嬉しそうに身体を震わせ、一方でアルトの方は青色の液体が入った薬瓶を手にしていた。
アルトが持って来たのは魔力の回復を促す魔力回復薬と呼ばれる薬であり、この3日の間にアルトが調合した代物だった。薬学にもアルトは精通しており、彼は薬を手渡す。
「レノ君、君は3日も寝込んでいたんだよ。大分無茶をしたね」
「あ、そうか……俺、また寝てたのか」
「でも、君のお陰でこの街は救われたよ。領主も深く感謝していた、目が覚まし次第に街の住民の前で表彰したいと言い出してるよ」
「表彰……」
大勢の人間の前で表彰したいと言われる程に感謝された事などレノにとっては初めての経験であり、小さい頃にエルフの里で暮らしていた時は他人からこんなにも感謝される日が来るとは思わなかった。レノは有難く薬を受け取って飲み込むと、大分身体が楽になった。
「ふうっ……」
「お疲れ様、気味のお陰でこの街は救われたんだよ。巨鬼殺し君」
「巨鬼……え、何?」
「街の間で噂になっているよ。君の事さ、もう君は巨人殺しの剣聖の弟子じゃない。立派な魔法剣士として他の人間にも受け入れられているんだよ」
アルトによるとこの3日の間にスカーを倒したレノは「巨鬼殺し」という異称で冒険者や傭兵に噂されていた。緑色の巨人の如きゴブリンを倒した事により、正に「巨鬼殺し」という異称は的を得ていた。
当の本人はそんな大げさな名前を付けられていた事に戸惑うが、ここでレノは自分が3日も寝込んでいたという話を知り、ある疑問を抱く。それは王都の援軍はまだ到着していないのかと気になった彼はアルトに問う。
「そういえばアルト、王都から送り込まれるはずの援軍はどうなったの?」
「ああ、聞いて驚かないでくれ。実は今さっき、王都から援軍として王国騎士が到着したんだよ」
「えっ!?という事は……セツナさんが!?」
「いや、彼女じゃない。君も驚くと思うよ、何しろ勇者の剣を引き抜いて最近になって王国騎士に選抜されたという女の子だからね」
「えっ……勇者の剣?」
レノは勇者の剣という言葉を聞いて先ほどまで見ていた夢を思い出す。レノが意識を失っている間、子供の頃の夢を見ていた。それはまだエルフの里で暮らしていた頃、幼馴染の「ヒカリ」と一緒に洞窟の中に突き刺さっている「剣」の事を思い出す。
(勇者の剣……まさか、ね)
子供の頃に見た神々しい剣の事を思い出したレノは自分の大切な幼馴染の事を思い出すが、まさか彼女のはずがないと頭を振る。だが、妙に今日は胸騒ぎがした――
――同時刻、領主の屋敷の前には王国騎士として派遣されたヒカリが存在し、彼女は領主の話を聞いて自分が到着する前にゴブリンキングの軍勢が討伐された事を知る。
「そうですか……僕が来る前に魔物はもう倒したんですね」
「ええ、王国騎士のドリス様の協力と、ドリス様の同行者である魔法剣士の手によって悪しきゴブリンキングは倒されました」
「えっ……魔法剣士?ドリスさんも魔法剣を使えるとは聞いた事があるけど、ドリスさん以外にも魔法剣が使える人がいるんですか?」
「はい、我々も驚きましたよ!!なんでも街中に侵入したゴブリンキングを倒したのはドリス様ではなく、その魔法剣士の少年の手によって討たれたと……話を聞いた時は私も驚きましたな」
「へえっ……」
ヒカリは領主の話を聞いて興味を抱き、王国騎士として前々からセツナと同様に自分と同格の立場のドリスには彼女は興味を抱いていた。だが、その彼女にも勝る魔法剣士がこの屋敷にいると聞き、興味を抱く。
「セツナさんと同じ魔法剣士か……その人に会わせて貰えますか?」
「あ、申し訳ありません……彼は先の戦闘で意識を失っていますので目覚めているかどうか……」
「そうなんだ……でも、もしかしたらもう起きているかもしれないよね?それにドリスさんとも会ってみたいし、案内してくれる?」
「わかりました。では、すぐに部屋まで案内しましょう」
王国騎士のセツナと同様に魔法剣士であるドリスと、彼女の動向者である「少年」に興味を抱いたヒカリは面会を願う――
――この数分後、レノとヒカリは運命的な再会をする事になる。数年間も探し求めていた相手がいる事も知らず、ヒカリはどんな人だろうと考えながら領主の案内の元、彼がいる部屋に案内してもらった――
※これにて「力と魔法も半人前?なら二つ合わせれば一人前ですよね?」は完結です!!最初からレノとヒカリが出会う時を最終話にしたいと考えていました。後半は少し急ピッチになりましたが、一応は作者としても納得できる終わり方です。
力も魔法も半人前、なら二つ合わせれば一人前ですよね? カタナヅキ @katanazuki
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