第343話 大地を斬り裂く一撃

――伝説の傭兵であり、かつては「巨人殺しの剣聖」と謳われたロイが扱う剣技である「地裂」この技の由来は彼が大地を斬り裂くかの如く刃を振るうため、いつの間にかそう呼ばれていた。


ロイ自身はこの技を名付けたわけではなく、他の者からそのような名前で呼ばれている事から自然と彼も他人に話す時は地裂という名前を告げていた。だが、彼の場合は大地を利用して攻撃するのに対し、彼の弟子であるレノの場合は違う。


大地に刃を突き刺す事で力を蓄積させ、一気に解放する。それがロイの地裂だが、レノの場合は根本が異なった。彼の場合は魔法剣の性質を生かし、重要なのは力ではなく魔力である。


これまでにレノは地裂を繰り出して数々の強敵を打ち破ってきたが、厳密に言えば彼が扱う地裂の剣技はロイとは異なる。だが、レノが最も自信がある剣技は間違いなくロイから教わった剣技であった。



(この一撃に全てを込めろ……ありったけの魔力を注ぎ込んでやる!!)



殴り飛ばされた時にレノは身に付けていた魔法腕輪を失ってしまい、荒正も鞘すらも身に付けていない。だが、彼が手にしているのは伝説の魔法金属であるオリハルコンで形成された刀であり、この状況では最も頼りになる武器でもある。



「うおおおおおっ!!」

「グガァッ……!?」



レノは蒼月を構えた状態で駆け出すと、刀身の先端から風の魔力が拭き溢れ、それを利用して一気に加速を行う。その光景を目撃したスカーは咄嗟に身体を庇おうとしたが、右腕はドリスの一撃で吹き飛ばされ、左腕だけでは守り切れない。


超高速で接近するレノに対して危険を察知すると、防御と回避を諦めて反撃へと移った。先ほどと立場が一変し、今度はスカーの方から拳を繰り出す。



「グガァアアアッ!!」

「ウォオオンッ!!」



しかし、左腕で殴りつけようとした瞬間、唐突に背後から狼の咆哮が響き渡ると、ウルが駆けつけてきてレノに殴りつけようとした左腕に噛みつく。そのせいでスカーは攻撃を邪魔され、その間にもレノは迫る。



(ありがとう、ウル……ここだぁっ!!)



十分に加速したレノは右腕を振りかざすと、刃を地面に向けて振り翳す。その際に刀身から放たれる「嵐」の魔力が刃の如く変化すると、地面を切り裂きながらスカーの下半身から上半身に目掛けて振り抜かれた。




――スカーの肉体の蒼月から放たれた嵐の魔力の刃が突き抜けた瞬間、遥か前方まで地割れが発生し、緑色のの肉体が真っ二つに斬り裂かれた。いかに吸血鬼の再生能力があろうと、身体を二つに切り裂かれればどうしようもなく、スカーは絶命した。




切り裂かれた二つの肉体が地面に倒れ込むと、残されたのは片腕のみで蒼月を天に翳したレノだけが立っており、最後の一撃に魔力を使い果たした結果、立ったまま意識を失っていた。その様子を見ていたアルトとドリスは唖然とするが、ここで瓦礫を払いのけてネココが姿を現す。



「くぅっ……終わったの?」

「あっ……ネ、ネココさん!?」

「無事だったのか!?」

「……どうにか」



瓦礫が落ちてきた際にネココは奇跡的に瓦礫同士が重なり合って出来た隙間に閉じ込められ、大怪我を負わずには住んだ。彼女は斬り裂かれたスカーの肉体と、天に向けて刃を翳した状態で気絶するレノを見て驚いた表情を浮かべるが、すぐに満面の笑みに変わった。



「……流石は巨人殺しの剣聖の弟子……いや、この場合は巨鬼殺しといった方がいい?」

「鬼……なるほど、確かにゴブリンの異名は小鬼だからね。なら、これだけでかいゴブリンなら巨鬼と言っても過言ではないか」

「す、凄すぎますわ……流石は私の御師匠様です」

「ウォオオオンッ!!」

「ぷるぷる〜んっ!!」



勝利を確信したようにウルは咆哮を放つと、スラミンも嬉しそうに身体を弾ませ、全員が気絶したレノの元へ向かう。こうしてレノはロイでさえも相手にした事がない「緑の巨鬼」を葬る事に成功し、街道には地割れを想像させる抉れた地面が残った――






※今日はここまでです。明日で最終回の予定です!!

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