第342話 最終決戦

「はぁあああっ!!」

「グガァッ……!?」



ドリスの突き出した魔剣の刃がスカーの右拳へと突き刺さり、事前にレノの攻撃によって切れていた傷口へと刃が突き刺さる。仮に他の箇所から攻撃した場合、鋼鉄の如き硬さを誇る皮膚によって刃は弾かれたかもしれないが、ドリスは正確に傷口を狙って突き刺す。


王国騎士としてドリスは恥じぬように毎日剣の鍛錬は怠らず、魔法剣の技術はレノに劣るかもしれないが、剣術に関しては彼女が勝る。正確に傷口に刃を突き刺したドリスは魔剣を握りしめると、魔力を注ぎ込む。



「爆炎剣!!」

「グギャアアアアッ!?」

「くぅっ……!?」



右腕に突き刺した刃が爆炎を放ち、内部から爆発を引き起こしたかのようにスカーの右腕は爆破すると、スカーは悲鳴を上げながら両膝をつく。右腕は肘から先が吹き飛んでしまい、ドリスの方もありったけの魔力を注ぎ込んだ影響でもう戦える状態ではなかった。



「くぅっ……!?」

「ドリス!?くっ……早く、くたばれっ!!」

「アァアアアッ……!?」



体内に突き刺した刃を操作し、一刻も早く心臓を突き刺そうとするネココだったが、右腕を失いながらもスカーは諦めず、渾身の力を込める様に立ち上がる。


起き上がったスカーは近くの建物に視線を向けると、その場所に目掛けて突っ込み、その行動に気付いたネココは咄嗟に離れようとしたが、体内に食い込んだ蛇剣が引き抜けない事に気付く。



「グガァアアアッ!!」

「きゃあっ!?」

「ネ、ネココ!?」

「そ、そんなっ!?」



建物にスカーが突っ込んだ瞬間、ネココも巻き込まれてしまい、建物が崩壊するのと同時にスカーとネココも瓦礫の中に埋もれてしまう。その光景を見たアルトは路地から飛び出し、魔力を使いすぎた影響で倒れていたドリスも腕を伸ばす。



「そんな、嘘だ……ネココ、無事なのか!?」

「ぷるる〜んっ!!」

「そ、そんな……ネココさん、大丈夫と言ってください!!」



崩壊した建物の元にアルトは駆けつけ、スラミンも倒れているドリスの元へ向かい、彼女をおぶって崩壊した建物の元へ向かう。瓦礫の山からアルトは必死にネココを助け出そうとしたが、この時に瓦礫の一部が盛り上がり、全身から血を流したスカーが現れた。



「グゥウッ……!!」

「くっ……この化物め、よくもネココを!!」

「ゆ、許しませんわ……!!」

「ぷるるんっ!!」



スカーは傷を負いながらもネココを引き剥がす事に成功し、首に刺さっていた剣を引き抜く。負傷した状態で建物に突っ込んだ事でスカーも相応の損傷を負ったが、それでも満月の光を浴びた途端に血の泡が傷口を塞ぎ、再生を開始する。


流石に肉体の欠損までは治らないのか、ドリスに吹き飛ばされた右腕は傷口が塞がるだけで限界だったが、他の傷口に関しては数秒足らずで感知する。ネココが命懸けで突き刺した首の傷口も消えてなくなり、改めてスカーはアルトたちを見下ろす。



「グガァアアアッ……!!」

「くぅっ……!?」

「あ、アルトさんだけでも逃げてください……ここは私が時間を稼ぎますわ」

「ぷるぷるっ!!」



自分も限界を迎えているにも関わらず、ドリスはスラミンから下りると足元を震えながらも剣を構える。誰が見てもドリスに勝ち目はないが、それでもネココの仇を討つために彼女は立ち向かおうとした時、ここで背後から突風が放たれる。



「うわっ!?」

「きゃっ!?」

「ぷるるんっ!?」

「ッ……!?」



強烈な突風が全員の元へ届き、何事かとアルトたちは街道の方に視線を向けると、そこには頭に血を流しながらも、右腕で蒼月を握りしめたレノが立っていた。


風圧の正体はレノが手にした蒼月から放たれているらしく、どれほどの魔力を注ぎ込んだのか、刀身の部分からあふれ出た風の魔力が周囲に拡散する。その様子を見たアルトたちはレノが生きている事に喜ぶ暇もなく、危険を感じとる。



「……これで、終わらせてやる」

「グガァッ……!?」



スカーは街道からゆっくりと近付いてくるレノに気付き、その姿を見た途端に戦慄した。先ほどの攻撃でレノは身体中の骨に罅が入り、左腕に至っては骨が折れているのか動かない。


しかし、レノにとっては右腕だけでも動ければ十分であり、自分の剣の師匠であるロイも隻腕だった。その彼から教わった剣技を繰り出すためにレノはスカーを睨みつける。


現在のスカーはホブゴブリンの時と比べても巨大化し、並の巨人族を上回る体躯を誇る。しかし、レノが剣を教わったのは「巨人殺し」の異名を誇る剣聖であり、その彼から教わった巨人殺しの剣技をレノは放つ準備は既に整えていた――

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