第341話 不死身ではない

「グガァアアアッ!!」

「ドリス!?危ない!!」

「くぅっ!?」



建物の瓦礫をスカーは投げつけると、ドリスに向けて凄まじい勢いで瓦礫が迫るが、それに対してドリスは烈火を構えると刃を振りかざす。



「爆炎剣!!」

「ガアッ……!?」



回避や防御が間に合わないと判断したドリスは剣を振り払い、強烈な爆炎を生み出す事で瓦礫を正面から破壊する。その判断が功を奏し、破壊された瓦礫は周囲へと散らばり、ドリスも無事だった。


その様子を見ていたレノはドリスが無事である事に安心する一方、一刻も早くスカーを仕留めるために荒正を鞘に納め、準備を行う。吸血鬼の能力を手に入れたスカーには生半可な攻撃は通じず、致命傷を与えても時間を賭ければ復活してしまう。


しかし、吸血鬼といっても不死身ではなく、首を切断されたり、あるいは心臓を貫かれれば死ぬのは間違いない。レノは今の自分が誇る最強の剣技を放つため、荒正に魔力を送り込む。



(嵐断ちであいつの首を切り落とす……それしか方法はない!!)



荒正に魔力を送り込みながらもレノは蒼月を構え、水属性と風属性の魔力を送り込む。まずはスカーの注意を引くためにレノは刀身に竜巻と水分を纏わせ、攻撃を行う。



「暴風雨!!」

「グギャアッ!?」



レノが剣を振り下ろした瞬間、大量の水分を吸収した竜巻がスカーの全身に襲い掛かり、竜巻の影響でスカーが碌に動けない間にレノは次の攻撃へと移る。竜巻に混じった水分のせいでスカーの視界を奪い、レノの行動を読み取ることが出来ない。



(視界が塞がれている内に……ここだ!!)



スカーが動けない間にレノは場所を移動すると、背中側に移動を行い、嵐断ちを放つ準備を行う。正面からではなく、後方の方が気づかれにくいと思っての行動だが、ここでスカーは予期せぬ行動を取る。



「アガァアアアアッ!!」

「うわっ!?」

「くぅうっ!?」

「な、なんて大声を……!!」

「ぷるるるっ!?」



強烈な咆哮をスカーが放った瞬間、あまりの声量にレノとドリスは耳を塞がずにはいられず、離れていた場所で様子を伺っていたアルトとスラミンも影響を受ける。この時にレノの集中力が乱れた影響か、スカーの全身を取り囲んでいた竜巻が消えてしまう。


竜巻が消えた瞬間にスカーは目を見開くと、膝をついているドリスとレノを確認し、先にレノを狙う。巨大な右腕を振りかざし、拳を叩きつけようとした。



「ガアアアアッ!!」

「くっ……このぉっ!!」



殴りつけようとしてきたスカーに対してレノは仕方なく荒正に手を伸ばし、まだ十分に魔力を込めていない状態で刃を放つ。結果から言えば魔法鞘の中で蓄積していた魔力が解放され、強烈な風圧が発生するとスカーの右腕に血飛沫が舞う。



「アガァッ……!?」

「くそっ……まだ足りないか」



スカーの拳に血飛沫が舞い上がり、どうにか攻撃を止める事には成功したが、それでも威力は足りずに仕留める程の損傷は与えられなかった。蒼月と比べても荒正の場合は魔力を蓄積させるのには時間が掛かり、仕留める程の威力は引き出せなかった。


仕方なく、身体に大きな負担が掛かる事を承知でレノは蒼月に魔力を送り込もうとしたが、自分の右拳を傷つけられて頭に血が上ったスカーは今度は右足を繰り出す。



「グガァッ!!」

「がはぁっ!?」

「レノさん!?」

「そ、そんなっ!!」



レノの身体がスカーの前蹴りによって吹き飛ばされ、遥か後方まで吹き飛ばされてしまう。まともに攻撃が直撃したため、その様子を見たアルトとドリスは咄嗟に助けに向かおうとした。


だが、レノが蹴り飛ばされた瞬間、スカーの傍に存在する建物の上から飛び降りる影が存在し、その陰の正体は蛇剣を構えたネココだった。彼女は怒りに満ちた表情を浮かべながら蛇剣を振りかざし、スカーの首筋に目掛けて放つ。



「死ねぇっ!!」

「ガアアッ!?」

「ネ、ネココッ!?」

「ネココさん!?」



攻撃の隙を突いてネココはスカーの首に剣を突き立てると、大量の血液が噴出した。普通の生物ならば間違いなく致命傷ではあるが、ネココは油断せずにスカーの体内の中でも刃を伸ばし、心臓を狙う。



「早く、死ねっ!!」

「グギャアアアッ……!?」

「い、今だ!!ネココを援護するんだドリス君!!」

「わ、分かってますわ!!」



スカーは自分の首に剣を突き刺したネココを振り払おうとするが、それを見たアルトがドリスに声をかける。ドリスはその言葉を聞いて動き出し、烈火を振りかざす。


ネココが突き刺した蛇剣がスカーの心臓を突き刺すまで時間を稼ぐ必要があり、先ほどの嵐断ちによって傷ついた右腕にドリスは狙いを定めると、彼女は剣を突き刺す。

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