第340話 吸血鬼の眷属

「ウガァアアアッ!!」

「まずいですわ!?このままだと……」

「くっ……させるかぁっ!!」



ウルごとレノ達を踏み潰そうと飛び上がったスカーに対し、咄嗟にレノは両手に握りしめていた剣を手放すと、背中の弓を抜いて矢を放つ。


魔法剣で対抗するよりも魔弓術で対応する方が早く、風の魔力を取り込んだ矢を放つ。魔力を帯びた矢はレノの意思に従うように軌道を自由自在に変更し、上空から迫るスカーの残された最後の眼球を貫く。



「ギャウッ……!?」

「きゃああっ!?」

「くぅっ!?」

「ウォンッ……!?」



眼球を撃ち抜かれたスカーは空中で体勢を崩し、そのまま地面へ倒れ込む。結果的にはレノ達は押し潰されずに済んだが、安心は出来ずに急いでレノとドリスはウルを引き連れて離れる。



「ウル、頑張って!!後で必ず治してやるからな!!」

「ウォンッ……」

「早く、目が見えない今のうちに離れましょう!!」



両目の視界を失ったスカーはレノ達の姿を捉え切れず、その間にレノとドリスはウルを安全な場所まで誘導しようとするが、ここで倒れていたスカーが起き上がると、目に突き刺さった矢を引き抜く。



「グギギギッ……アアッ!!」

「なっ!?」

「あれは、いったい……!?」

「そうか、そういう事だったのか!!」



スカーが眼球に突き刺さった矢を引き抜いた瞬間、唐突に彼の目元に血の泡のような物が噴き出し、赤色の煙が上がる。その様子を見て路地裏に隠れていたアルトは何かに気付いたのか、スカーが復活した理由を話す。



「レノ君、ドリスさん!!そいつの正体が分かったぞ!!吸血鬼だ、こいつは吸血鬼の眷属なんだ!!」

「眷属……!?」

「吸血鬼は自分の配下を作り出す際、自分の血液を分け与える!!その血液に適合した生物は吸血鬼の再生能力を得られると聞いた事がある!!つまり、そいつは半ば吸血鬼と化しているんだ!!だから満月の光を浴びる事で再生能力を活性化させ、復活したんだ!!」

「ウウッ……アァアアアアッ!!」



アルトの説明を聞いてレノとドリスはスカーを振り返ると、そこには両目の傷が完全に塞がったスカーが存在した。アルトの言う通り、吸血鬼の再生能力を得たスカーは全身の傷が消え去り、隻眼の悪魔の異名であった古傷も再生するほどの力を得た。


眼球ですら再生させる能力を得たスカーはレノに視線を向け、一度ならず二度も自分を矢で殺そうとした彼に憎悪を抱く。それに対してレノの方も大切な相棒を傷つけられた事もあり、睨みつける様に両手に剣と刀を構えた。



「ドリス、ウルを頼んだ!!」

「レノさん!?危険過ぎますわ!!」

「ギアアアッ!!」



レノとスカーは同時に駆け出すと、互いに攻撃を繰り出すために両腕を振りかざす。レノは両手の武器に風の魔力を纏わせると、スカーの方は両手を組んでレノを叩き潰そうと振り下ろす。



「嵐刃・二連!!」

「グガァッ!!」



振り下ろされたスカーの両腕に対してレノは二つの刃を重ね合わせた状態で嵐刃を放つと、強烈な衝撃波が発生してスカーとレノは後方へと吹き飛ぶ。スカーの両腕は風の刃によって大きな傷が生まれるが、すぐに傷口の部分に血の泡が生まれる。


傷口の部分に血の泡が覆い込むと数秒もしないうちに皮膚が塞ぎ、元通りの状態へと陥った。その様子を見て生半可な攻撃は通じない事を悟り、どうすればいいのかと考えると、ここでアルトが助言を行う。



「レノ君、炎だ!!そいつには炎で攻撃するんだ!!」

「炎?どうして……いや、そういう事か!!ありがとう、アルト!!」

「ガアッ!?」



蒼月に炎を纏わせたレノは一際大きな「火炎刃」を放ち、スカーの肉体へ放つ。いくら頑丈な皮膚に覆われているとはいえ、炎を浴びれば火傷を負うのは免れず、ただの切り傷ならばともかく、火傷の傷は簡単には再生できないのではないかと試す。



「ギアアッ……!!」

「よし、いいぞ!!再生できるといっても火傷の類ならすぐには治らないみたいだ!!その調子で押しきるんだ!!」

「炎ならば私の方が専門分野ですわ!!」



レノの火炎刃を受けて苦痛の声を上げるスカーを見てドリスも動き出し、彼女はウルを先頭に囲まない場所まで避難させると、烈火を構えて駆け出す。


ドリスの爆炎剣はレノの火炎刃よりも火力が高く、今現在のスカーに最も有効的な攻撃を加えられる。だが、スカーは以前にレノとドリスが父親のゴブリンキングと戦う姿を目撃しており、二人の戦闘法は理解していた。



「ギアアアッ!!」

「うわっ!?」

「きゃあっ!?」



まだ火炎刃の炎を纏った状態でスカーは地面に拳を叩きつけると、強烈な振動が広がり、レノとドリスは体勢を崩す。その間にスカーは先ほど破壊した建物に手を伸ばすと、自分に近付こうとするドリスに向けて投げ放とうとした。

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