第339話 王の復活
「この先にいるのは……ゴブリンキングだ」
「そ、そんな……」
「馬鹿な、確かにゴブリンキングは僕達が倒したはずだ!!そんな事はあり得ない……有り得るはずがない!!」
レノの言葉にドリスは驚愕し、流石のアルトも言葉を荒げて否定した。最初に魔物の群れを率いていたゴブリンキングはレノとドリスが倒し、その後を継いだスカーはネココとアルトによって倒した。
だが、確かに建物のが崩壊する時にレノは巨大な緑色の巨人を目にしており、あの姿は間違いなくゴブリンキングであった。街中にゴブリンキングが現れた理由は不明だが、この先に行けば正体を確認出来る。
「ウル、急いで!!」
「ウォオオンッ!!」
大分街道の方も逃げ惑う人々の姿が居なくなり、ウルは全力疾走で駆け抜ける。スラミンもその後に続くが、進行方向から突如として複数の兵士が吹き飛んできた。
「ぎゃあああっ!?」
「がはぁっ!?」
「あがぁっ!?」
「な、何だっ!?」
「これはまさか……!!」
複数名の兵士が街道に叩きつけられ、その光景を確認したレノ達は冷や汗を流し、前方へと視線を向ける。そこには全身が緑色の皮膚に覆われた巨人が存在し、顔面に傷を負ったゴブリンキングが存在した。
特徴的な傷があるという事で「スカー」と名付けられたホブゴブリン、そのホブゴブリンが親であるゴブリンキングの死骸を食らい、自身もゴブリンキングへと進化を果たした。そして改めてレノ達の前に姿を現す。
――どうなってるんだ!?
心の中でレノ達は同じ言葉を頭に抱き、どうして死亡したはずのスカーがこの場所に存在するのかと理解できなかった。特にスカーと交戦したアルトは信じられない表情を浮かべ、確実に死んでいたはずのスカーが生きているのか戸惑う。
「馬鹿な……どうして生きてるんだ?まさか、死霊使いの死霊術で蘇ったのか!?いや、それでもあの姿は……」
アルトの脳裏に思い浮かんだのは死骸を蘇らせる「死霊使い」なる魔術師の存在を思い出し、彼等は死霊を操る力を持ち、死骸に憑依させる事で復活させる力を持つ。
だが、目の前のスカーはどうみてもアンデッドのような存在には思えず、現に肉体の方は怪我が消えており、まるで肉体が再生しているようにしか見えない。通常、死霊使いが操る死骸は再生能力を失うが、少なくとも目の前に立つスカーの肉体は生きている生物にしか見えなかった。
「アルトさん、落ち着いて下さいっ!!ここは私達に任せて下がって!!」
「そ、そうだな……分かったよ、皆気を付けてくれ」
「ぷるるんっ!!」
「やるしかないのか……!!」
「グルルルッ……!!」
スラミンはアルトを乗せた状態で離れると、レノとドリスはウルから下りて武器を構えた。ウルも今回は戦闘に参加するために唸り声を上げると、ここでスカーと思われるゴブリンキングは目元を怪しく光らせ、咆哮を放つ。
――グガァアアアアアッ!!
まるでゴブリンとは思えぬ獣じみた咆哮を放ち、復活を果たしたスカーの全身の筋肉が盛り上がる。ネココとアルトが遭遇した際のスカーは先に死んだゴブリンキングよりも一回り程小さい体躯だったが、現在は父親と同程度の肉体の大きさを誇る。
スカーは天上に浮かぶ満月に視線を向けると、瞳の色を赤色に変化させ、犬歯が居ように発達していく。その様子を見てレノは吸血鬼の存在を思い出し、あり得ない事だがスカーは吸血鬼のように満月から力を得ているように感じられた。
「こいつ、どうなってるんだ……!?」
「レノさん、気を付けてください!!来ますわよ!?」
「ウォンッ!!」
ドリスの言葉にレノは正気を取り戻し、即座に両手に握りしめた荒正と蒼月に魔法剣を発動させ、火炎の剣と水の刃を纏った刀を構える。スカーはやがて満月に伸ばしていた両腕を下ろすと、レノ達を睨みつけた。
「グガァッ!!」
「なっ!?いったい何を!?」
「まさか……ドリス、伏せろ!!」
「ガアアッ!?」
スカーは何を思ったのか、自分の近くの建物に向けて右腕を突き出す。その結果、スカーの巨大な腕が煉瓦の壁を貫き、建物の壁を破壊して瓦礫をレノ達の方へ放つ。
無数の瓦礫がレノ達の元へ飛び込み、それを確認したウルは咄嗟に二人を守るために身を挺す。その結果、複数の瓦礫がウルの身体へと衝突し、ウルは二人を巻き込みながらも地面へ倒れ込む。
「ギャンッ!?」
「うわっ……ウル、大丈夫か!?」
「そんな、私達を守って……」
「ガァアアアッ!!」
ウルによってレノ達は瓦礫の直接衝突は免れたが、複数の瓦礫を浴びたウルは苦痛の表情を浮かべて倒れ込み、身体のあちこちから血を流す。だが、そんなウルに対してスカーは容赦なく飛び上がると、上空から両足を叩き込もうとしてきた。
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