第338話 破壊される建物
「アルト、縄はある!?」
「縄?ああ、それならあるけど……」
「レノさん、何をするつもりですの?」
「こうするんだよ!!」
アルトは収納鞄から縄を取り出すと、それを手にしたレノは矢に括りつけ、弓に番える。矢を上空に構えたレノは魔弓術を利用し、縄を括り付けた矢を建物の屋根に向けて放つ。
矢は煙突の部分に食い込み、縄を引っ張って十分に食い込んだ事を確認すると、レノはその縄を使って屋根の上まで移動する事を告げる。
「俺は屋根の上にに登って上から確認してくるから、皆はここで待っていて!!」
「分かった、でも一人で大丈夫なのかい?」
「大丈夫!!俺の視力はネココのお墨付きだから!!」
山育ちであるレノは視力が非常に高く、その点に関しては暗殺者のネココよりも上回る。縄を利用してレノは屋根の上に移動し、無事に辿り着く。降りる時は付与魔術を利用すれば落下の勢いを風の力で抑える事が出来るため、煙突に突き刺さった矢は回収しておく。
「よし、ここからなら辺りを見渡せるぞ……ネココは何処に行ったんだろう」
レノは煙突の上に登り、周囲の様子を伺う。見た限りでは魔物らしき姿は見当たらないが、人々がどの方角から逃げている事は把握し、どうやら街の北側の方から人が押し寄せている事が判明した。
北側の城壁はスカーが乗り込んだ時に破壊されたという話はレノも聞いており、北側の方から人々が逃げている事から魔物が街に侵入したのは北側である可能性が高い。だが、その割には逃げ惑う人々の姿は見えても魔物の姿が一切見えない事にレノは疑問を抱く。
(これだけの人数が逃げているのに肝心の魔物の姿が見えない……街に入り込んできた魔物はそれほど数は多くないのかな?)
魔物の群れの大多数は南側の城壁にてレノ達が燃やし尽くしたのは確かなため、残っている魔物はそれほど多くはない可能性があった。だが、それにしては逃げ去る人々の顔色が尋常ではなく、完全に怯えきっていた。
(とにかく、北の方に魔物がいるのは間違いない。急ごう!!)
北側へ向けてレノは移動しようとした時、ここで彼の視界にとんでもない光景が映し出された。それは北の方角に存在する建物の一つが突如として崩壊し、轟音が街中に響く。
何が起きたのかとレノは降りかけた足を止めて様子を伺うと、崩壊した建物の方からは人々の悲鳴の他に魔物の声を耳にした。その声を耳にした途端、レノは信じられない表情を浮かべた。
「そんな馬鹿な……どうして!?」
「レノ君!!何があったんだ!?」
「今の音は何ですの!?」
「グルルルッ……!!」
「ぷるるんっ……」
地上の方から声を掛けられたレノは振り返ると、アルトたちも先ほどの轟音を耳にして何が起きたのかをレノに確かめる。そんな彼等を見てレノは即座に屋根の上から飛び降りると、風の付与魔術で落下の速度を落として難なく着地した。
「……北側の方角にある建物が破壊された。そこに魔物がいる!!」
「北側!?という事はやはり、スカーが破壊した城門から他の魔物が……」
「いや……それは分からない。でも、先を急ごう」
「えっ?」
レノはウルの背中に飛び乗ると、すぐにドリスとアルトも慌ててウルとスラミンに乗り込み、移動を開始する。ここから先は一刻も争うため、街道で逃げ惑う人々の隙間を潜り抜けてレノ達は北の方角へ向かう。
「レノさん、どういう意味ですの!?城門から他の魔物が押し寄せてきたのではないんですの!?」
「……少なくとも、あそこからは魔物の姿は見えなかった。ここまで来る途中も魔物は見ていない、仮に魔物の大群が入り込んできたのならここまで来る途中で姿を見ているはずだよ」
「た、確かにその通りだ……今のところ、僕達は逃げている人しか見ていない」
レノの言葉にアルトも頷き、街道には逃げ惑う人々は大勢見かけるが、肝心の魔物の姿はまだ見えない。だが、街中に既に魔物が侵入した事は確かであり、先ほどの建物の崩壊も魔物の仕業である事は間違いない。
「まだ私達が見つけられていないだけで、実は大勢の魔物が入ってきたんではないんですの!?」
「いや、多分違う……いくら魔物が入り込んだからって、ここまでの人が外に逃げ出すはずがない。普通の魔物が現れても家の中に閉じこもって隠れようと考える人だっているはずだよ」
「それは僕も気になっていた!!でも、現実に彼等は外へ逃げ出している!!という事は……」
「家の中に隠れていたとしてもどうしようもない危険な魔物が入り込んだ……それこそ、建物を崩壊させるだけの力を持つ存在がここへ侵入している」
「ま、まさか……!?」
人を殺すだけならばともかく、巨大な建物を崩壊させるほどの力を持つ魔物など限られており、その存在の心当たりを思い出したレノ達は戦慄した。冷静に考えれば有り得ない話だが、逃げ惑う人々や崩壊した建物が嫌でも目につき、レノは魔物の正体を呟く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます