第337話 逃げ惑う人々
「満月……」
「ん?どうかしたのかい、月が何か気になるのかい?」
「いや、その……どうして満月の日にこいつらが襲ってきたのかと思ってさ」
満月を見上げて呟いたレノにアルトは反応し、彼に対して咄嗟にレノは疑問を口にするが、その言葉にアルトは腕を組んで真面目に考察を行う。
「ふむ、魔物の群れを操っていたのはスカーで間違いない。という事は今日襲う事を決めたのもスカーだとしたら、奴は満月の日を選んだ事に何か理由があるのかもしれない」
「え?どうしてですの?」
「満月の方が夜でも明るいだろう?特に魔物は夜目が効きやすいからね、きっと奴等にとっては昼間の様に僕達の姿をはっきりと捉えられるんだろう。だから満月の日を選んで襲ってきたのかもしれない」
「……ただの偶然じゃない?」
スカーが満月の日に襲撃を仕掛けてきたのかは不明だが、もしも故意に満月の日に襲撃を仕掛ける事を計画していた場合、アルトの推測では満月の方が夜が明るく行動しやすいだろうと考えた。
しかし、レノはどうしても満月の日に魔物達が襲撃に選んだ理由がそれだけだとは思えず、ここで吸血鬼の絵本を思い出す。ただの偶然かもしれないが、それでも念のためにアルトに質問する。
「アルト、吸血鬼は全身を凍らせれば死ぬかな?」
「急にどうしたんだい?まあ、普通に死ぬだろうね。いくら高い生命力を持つ吸血鬼だろうと、氷漬けにされれば流石に死ぬと思うよ。実際に氷漬けにされた吸血鬼なんて見た事はないから断言は出来なけいど……」
「そうなんだ……」
「……レノ、何か気になる?」
「いや……ちょっとね」
先ほどから様子がおかしいレノに対してネココが不思議に思うと、そんな彼女の言葉にレノは首を振り、何でもない事を告げようとした。吸血鬼のカトレアは生きている事はあり得ず、自分の考え過ぎかと思われた時、街の方で悲鳴が響く。
「何だ!?」
「おい、何の騒ぎだ!?」
「あれを見ろ!!住民がこっちに来てるぞ!?」
騒ぎを耳にした城壁の上の人間達は振り返ると、彼等の視界に街道の方に寝間着姿の住民が外を駆けまわる光景が映し出され、その様子を見たレノ達は何事か起きたのかと判断して城壁を降りた。
北の方角から大勢の住民が駆けつけ、彼等の中には負傷者も混じっていた。その様子を見てレノ達は只事ではないと判断し、逃げてきた住民から話を伺う。
「大丈夫ですか!?何かあったんですか!?」
「ひいいっ!?」
「に、逃げろっ!!」
「魔物が……魔物が街の中に!!」
「何だって!?」
レノ達が話しかけても逃げ惑う住民達は聞く耳を持たず、悲鳴を上げながら駆け抜ける。彼等の反応からどうやら街の中に魔物が入り込んだらしく、それを聞いた城壁の兵士達は戸惑う。
「魔物だと!?そんな馬鹿な、魔物の群れは俺達が倒したんだぞ!!」
「まさか、他の城壁を突破して魔物が中に入り込んだのか!?」
「くそ、どこの城壁が破られたんだ!!」
城壁を守り切れたと思っていた兵士達は街の中に魔物が現れた事に衝撃を受け、悔し気な声を上げる。一方でレノ達も街中に魔物が入り込んだ事が信じられず、まずはどれほどの数の魔物が入り込んだのか調べる必要があった。
「街の中に入り込んだ魔物を探し出そう!!すぐに対処しないと大変な目に遭うぞ!!」
「……私は先に行く、皆も気を付けて!!」
「ウル、魔物の臭いを感じたらすぐに伝えろ!!」
「ウォンッ!!」
ネココは先行して建物の屋根の上を跳躍し、彼女は魔物の捜索へと向かう。レノもウルの嗅覚を頼りに魔物を探すために向かおうとすると、ここでドリスも共に乗り込む。
「私も一緒に行きますわ!!アルトさんも行きましょうっ!!」
「えっ、でも僕はもう何も持ってないから一緒に行っても役に立つかどうか……」
「ぷるるんっ(いいから乗りなっ!!)」
「うわっ!?」
アルトのまたにスラミンは潜り込むと、そのまま彼の身体を持ち上げて跳ねる。その様子を見てレノとドリスを乗せたウルも駆け出し、街中に侵入した魔物の捜索を行う。
住民達が逃げてくる方向を確認し、逆方向に向けてウルとスラミンは移動を行う。だが、街道には大勢の住民が駆けつけるため、思うように走る事が出来なかった。
「ひいいっ!?こ、ここにも魔物がいるぞ!?」
「ウォンッ!?」
「落ち着いて下さい、この子はいい子ですから!!」
「レノさん、これでは思うように進めませんわ……」
「そ、それなら高い場所に移動しよう!!上から街の様子を見た方がいいかもしれない……へぶっ!?」
「ぷるるんっ(しっかり掴まらないと危ないよ)」
スラミンから振り落とされたアルトが少し間抜けな声を出すが、彼の提案を聞き入れてレノ達は周囲を見渡し、そして近くに存在する建物の中で最も高い建物を発見した。そこにレノ達は移動すると、ここでレノは弓を取り出す。
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