第336話 勝利……?
「レノ君、これが最後の一本だ。いけるかい?」
「はあっ……はっ、大丈夫、問題ない」
アルトは最後の火炎瓶を取り出すと、レノに声をかける。レノは全身から汗を滲ませながらも頷き、問題ない事を告げると蒼月を構えた。
ここまでの戦闘でレノも大分魔力を消耗しているが、あと少しで地上の魔物を殲滅できるため、最後の攻撃の準備を整える。アルトが地上に向けて火炎瓶を投げ込むと、蒼月に纏わせた火炎の刃を放つ。
――グギャアアアアアアッ!?
最後に投げ込まれた火炎瓶が空中で破裂すると、火を灯した瓶の破片が雨のように辺りに降り注ぎ、残された魔物達を炎で燃やし尽くす。これで地上に存在する魔物は焼き尽くされるのを確認すると、最後にレノは空堀に存在する大穴に視線を向けた。
(後はあそこを封じれば……もう魔物は出てこない)
空堀の底に出来た大穴か魔物が出現する光景はレノも把握しており、彼は荒正を鞘に納めると、精神を集中させるように魔力を蓄積させる。魔法鞘の中で魔力が徐々に蓄積され、やがてレノは目を見開くと荒正を引き抜く。
「嵐断ちっ!!」
「うわっ!?」
「うおおっ!?」
「な、何だ!?」
荒正が引き抜かれた瞬間、通常の嵐刃とは比べ物にならない規模と威力を誇る風の刃が放たれ、地上に存在する大穴に的中すると、大量の砂煙が舞い上がる。その結果、地上には大きな亀裂が生じたが、その際に大穴に逃げ延びていた魔物も全滅した。
――本来ならば魔力の伝達力が速い蒼月の方が魔力を蓄積させる時間は短いのだが、蒼月の場合だと余分に魔力を溜めすぎて消耗する恐れがあり、時間をかけてでも攻撃に必要な魔力を蓄積させる方がレノに向いていた。
魔力と体力を使いすぎた影響でレノは大量の汗を流しながら床に膝をつくが、これでもう魔物の殲滅は終えた。城門の方で守護していたドリスとネココも駆けつけ、城壁の上にいるレノ達と合流を果たす。
「レノさん、今の音はまさかあの魔法剣を使ったんですの!?」
「……大丈夫なの?」
「ああ、平気……とは言い難いけど、でもこれで終わったよ」
「終わった……そうだ、終わったんだよ」
レノの言葉にアルトは地上の様子を見て頷き、空堀には大量の魔物の死骸が横たわっていた。その数は数百を超え、殆どが焼死体であった。城壁の上から兵士達は地上の様子を確認すると、歓喜の声を上げた。
「や、やった……勝ったんだ!!」
「俺達だけで勝ったんだ!!俺達の勝ちだぁっ!!」
「ざまあみろっ!!この街は俺達が守ったんだぁっ!!」
――うおおおおおおっ!!
城壁に集まった兵士、冒険者、傭兵は歓声を上げ、まるで街中に響く程の大音量で勝利の雄叫びを上げる。その光景にレノはアルトの肩を借りながらも笑みを浮かべ、ドリスとネココもレノの身体を支えながら嬉しそうに微笑む。
「私達の勝利……ですわね」
「……もう敵はいない」
「ああ、僕達の勝ちだ」
「そう、だね……」
「ぷるるんっ!!」
「ウォオオンッ!!」
全員が感極まる中、スラミンとウルもそれに反応したかの様に鳴き声を上げ、ここでレノは自分達が勝利したと確信仕掛けた。だが、不意にレノは何かが気にかかり、ネココとアルトに尋ねる。
「ねえ、二人とも……さっき、ゴブリンキングを倒したとか言ってたけど、ゴブリンキングがまた現れたの?」
「ん?ああ、そういえばいい忘れていた。僕達が倒したゴブリンキングは予想通り、あのスカーと呼ばれる魔物だったよ」
「……身体の方は前に倒したゴブリンキングよりも一回りは小さかった。でも、力の方は前に戦ったゴブリンキングよりも強かったかもしれない」
「スカー……」
レノは二人の話を聞いて隻眼のホブゴブリンの事を思い出し、やはり魔物の群れが先にゴブリンキングを倒した時に解散しなかった理由はスカーが原因だと判明した。
群れの主であるゴブリンキングが死んでも魔物の群れは解散しなかったのはスカーの存在があったからであり、群れの二番手であったスカーはゴブリンキングに進化した事により、新たな主と化した。だからこそ今回の襲撃はスカーの指示で間違いない。
「スカーは……本当に死んだの?」
「ああ、死体は確かめたよ」
「……身体は黒焦げ、首も半分近く斬った。あの状態で生きているなんてあり得ない」
「では、本当に終わったんですのね!!」
二人の言葉にドリスは喜び、レノも安心しかける。だが、どうしてかレノは嫌な予感が消えず、スカーの死体はどのように処理したのかを尋ねた。
「死体は……どうしたの?」
「死体?そのまま放置してきたよ。学者としてはゴブリンキングの死骸なんて滅多に見ないから研究したい所だったが、南側の方に魔物が押し寄せているとは聞いていたからね。すぐに駆け付けたんだよ」
「……何か気になるの?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
レノは二人の話を聞いて考え過ぎかと思い、いくらゴブリンキングといえども死んでしまえば蘇るはずがない。しかし、ここでレノは上空に浮かぶ満月を目にした。
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