第45話 賭け試合
「よし、そういう事ならすぐにうちにいる冒険者の中で一番強い奴と戦ってもらうよ」
「ふ、ふん!!事前に言っておくが、その冒険者にレノ殿が勝てば文句は言わせんぞ!!我々だけでオークの討伐を行う、もちろんお前の所の冒険者は雇わん!!」
「たくっ、仕方ないね……分かったよ、もしもその坊主がうちの冒険者に勝つ事が出来たら今回の一件は冒険者ギルドは一切関与しない。その代わりにうちの冒険者がその坊主に勝利したら、相場よりも高額な報酬でうちの冒険者を雇ってもらう。それでどうだい?」
「いいだろう!!レノ殿の強さを思い知れ!!」
「え、ちょっ……」
テンの条件を聞いてネカは引き受けるが、そんな条件を呑んで本当に大丈夫なのかとレノは止めようとしたが、テンはそんなレノに挑発するように告げた。
「何だい?あんた、今更になって怖気づいたのかい?別にあんたが勝てば問題ない条件だろう。負けたとしても別にあんたが損するわけじゃあるまいし、これぐらいの条件を引き受けたらどうだい?」
「むっ」
レノはテンの言葉を聞いて自分を怒らせて条件を引き受けさせようとしている事に気付き、逆にテンに対して言い返す。
「じゃあ、こっちも言わせてもらいますけど今回の条件で損をしないのはギルドマスターの方じゃないですか?そっちだって勝てば高額報酬の仕事が手に入るのに、負けたとしても何も損しないじゃないですか?」
「おっと、それを言われるとちょっとこっちが卑怯に聞こえるね……そうだな、それならあたしと賭けをしないかい?もしもあんたがうちの冒険者に勝てたら、あんたが望む物を用意するよ。武器でも防具でも道具でも何でもいいよ」
「ほう、そんな条件を出していいのか?いっておくが、私の見立てではレノ殿は銀級冒険者にも負けない強さを誇るのだぞ。お前の所にいる冒険者達では相手にもならんわ!!」
「へえ、言ってくれるじゃないかい。そいつは楽しみだね」
冒険者ギルド「赤虎」に所属する冒険者の殆どは銅級と鉄級の冒険者である事はネカも事前に把握しており、ホブゴブリンを倒す実力を持つレノならば銅級や鉄級の冒険者に劣るはずがないとネカは確信していた。しかし、そんなネカの言葉を聞いてもテンは賭けを撤回せず、堂々とした態度を貫く。
テンの余裕の態度にレノは疑問を抱くが、ネカの方は彼女の賭けに乗り気であり、今更断れる雰囲気ではなかった。賭けが決まるとテンはすぐに試合の準備を行う――
――冒険者ギルドには必ず冒険者のための訓練場が設けられており、赤虎の訓練場は建物の裏手に存在した。冒険者の登録を行う実技試験や、昇格試験の際によく利用される「闘技台」という石畳製の
これから試合が行われる事は冒険者ギルド内に存在した職員や冒険者達にも伝えられ、話を聞いた者達の殆どが興味本位で訓練場に訪れていた。その中にはレノを助けた4人組も存在し、彼等はレノに対して応援する。
「レノさん、頑張ってくださいね!!」
「本当は立場的にはギルドマスターに味方しないといけないんだけど……」
「馬鹿、命の恩人だぞ!!ここで俺達だけでも応援しないでどうする!?」
「が、頑張ってください!!」
「うん、ありがとう」
「何だい、あんたが昨日こいつらが話していた命の恩人だったのかい?うちの新入り共が世話になったようだね」
テンはレノと4人のやりとりを見て驚いた表情を浮かべ、昨日の出来事は彼女も報告を受けていた。試験中にボアに襲われた4人を通りすがりの剣士が助けてくれたという報告は聞いていたが、その相手がレノだと聞いて彼女は意外に思う。
(こいつらの話が本当だったとすると、少なくともボアを倒せるだけの力は持っているのか……おかしいね、そんなに強そうには見えないだけどね)
レノに礼を告げる4人組を見てテンは疑問を抱き、自分の観察眼が本当に鈍ってしまったのかと不思議に思う。一方でネカの方は自信満々な表情でレノの対戦相手が誰なのかを問う。
「テンよ、そろそろレノ殿と戦う相手を教えてくれんか?まあ、レノ殿ならばここにいる誰であろうと負けはしないがな!!はっはっはっ!!」
「あんた、急に威勢が強くなったね……まあいい、それじゃあこの坊主の相手をしてやりな、ダイゴ!!」
「おおうっ!!」
テンが声をかけると、建物の裏口の方から頭を掲げた状態で扉を潜り抜け、やがて身長が3メートルほどの大きさを誇る大男が現れた。その光景を見てネカは呆気に取られ、レノも驚いた表情を浮かべる。そんな二人に対してテンは悪戯が成功した子供のように笑い声をあげる。
「ははははっ!!どうだい、こいつが今のうちの冒険者の中でも一番強い男さ!!名前はダイゴ、見ての通りに巨人族の戦士だよ!!」
「きょ、きょ、巨人族だと!?そ、そんなの聞いてないぞ!?」
「んんっ?何を言ってるんだい?あたしが言ったのはうちで一番強い冒険者と戦わせるという話だよ。別に巨人族を出しちゃ駄目なんて取り組めはないだろう?」
「はっはっはっ!!バルさん、俺の相手はこいつか?思っていた以上にチビだな!!」
巨人族のダイゴという名前の大男は試合場に立っているレノに視線を向けると、小馬鹿にした様に笑い声をあげる。そんなダイゴに対してレノは唖然とするが、その様子を見ていた他の冒険者も騒ぎ出す。
「ギルドマスター……大人げないな。まさか、ダイゴさんを出すなんて……」
「あの人、この街に実家があるから一時的に帰省しただけだろ?あの兄ちゃんも運が悪かったな……まさかこの時期にダイゴさんが戻ってくるなんて」
「ちょっとギルドマスター!!いくら何でも体格差があり過ぎるわよ!!卑怯よ、卑怯!!」
「そうだそうだ!!こんなのインチキだ!!」
「うるさいね、言っておくけどオークの群れを倒すのならダイゴぐらいの力がある冒険者じゃないと対処できないんだよ!!つまり、こいつに勝てないような奴じゃオークを倒すことなんて出来ないのさ!!」
レノに世話になった4人組の冒険者はテンに対して文句を告げるが、彼女は一切悪びれずに真剣な表情で怒鳴り返す。別にテンも意地悪でダイゴをレノの相手に指定したわけではなく、実際にこの街に滞在する冒険者の中ではダイゴが最強の冒険者である事は嘘ではない。
今回の賭けの条件に適した者がダイゴである以上、試合の対戦相手は彼以外にはあり得ない。テンの言葉は正論だが、それでもネカはレノとダイゴの体格差を見て不安を抱き、本当に勝てるのかとレノを見ると、何故かレノはダイゴを無言で見上げていた。
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