第46話 最高の練習相手
「おう、どうしたチビ?今更怖気づいたのか?」
「へえっ……本当に巨人のように大きいんですね」
「おいおい、言っておくが俺は巨人族の方では若い方だからな。まだまだ大きくなるぞ」
「それは凄いですね」
「……お前、本当に大丈夫か?びびりすぎて頭がおかしくなったのか?」
これから自分と戦うというのにレノが全く怯えている様子を見せない事にダイゴは戸惑い、その様子を見ていたテンも訝しむ。レノは初めて巨人族を目にしたにも関わらず、非常に落ち着いていた。
確かに自分とは倍近くの体格差が存在し、しかもダイゴが装備しているのは「大剣」であった。それを見たレノは無意識に笑みを浮かべ、その様子を見てダイゴは何故か背筋が凍り付く。
(な、何だこのガキ……何で笑っていられるんだ?)
大抵の人間はダイゴの姿を見ると委縮し、間違っても喧嘩を売るような真似はしない。しかし、自分を前にして取り乱さないどころか笑みを浮かべるレノを前にしてダイゴは得体の知れない恐怖を抱く。
(落ち着け!!こんなガキに怯える理由がないだろうが!!一発で終わらせてやる……!!)
自分の不安を掻き消そうとダイゴは試合場に乗り込むと、大剣を握りしめる。その様子を見たレノは剣に手を伸ばし、鞘から刀身を引き抜く。その様子を見てテンはレノの剣を見て驚く。
(へえっ……中々の業物だね。それに剣を抜いた途端、一気に雰囲気が変わった。これはもしかすると……)
剣を抜いた途端に雰囲気を一変させたレノを見てテンは期待感を抱き、一方でダイゴもレノの変化に気付いて先ほどまでの気が抜けた態度を一変させる。
お互いに真剣な表情を浮かべて見つめ合い、その様子を見て他の者達も緊張感を抱く。レノは自分の正面に立ったダイゴに視線を向け、ロイからの教えを思い返す。
『いいか、レノ。もしも巨人族と戦う事になった場合、相手はどのように攻撃してくると思う?』
『えっ?えっと……こう、横から武器を振り回してくるとか?』
『違うな、確かに横に武器を振るえば攻撃範囲も広まるが、その攻撃方法は敵との距離が近すぎると悪手だ』
『どうして?』
『巨人族の大きな体躯は長所でもあり、短所でもある。理由は奴等は人間を相手にする場合、体格差が違いすぎるが故に攻撃の際は上からしか繰り出す事ができない。仮に横に武器を振り抜こうものなら距離を見誤れば相手は少し屈んだだけで簡単に攻撃を回避できる』
ロイによれば巨人族は巨体であるが故に有利な点もあるが、逆に不利な点もあるという。体格が敵よりも上回れば必ずしも有利とは限らず、逆に小さすぎる相手と戦う時は攻撃を当てにくいという弱点もある。
例えばある程度の距離が存在する敵ならばレノが言っていた通りに武器を横薙ぎに振り払う行為も有効である。しかし、接近戦に持ち込まれた場合、意外な事にこの横薙ぎの攻撃は不利に陥りやすい。
『巨人族と人間の体躯は倍近くの差がある。当然だが腕力では人間は巨人族には勝てはしない。だが、懐に潜り込めば有利なのは圧倒的に人間だ。仮に相手が同じ程度の体躯の存在ならば懐に潜り込まれても対抗手段はあるが、逆に小さすぎると敵の攻撃を狙いにくいという弱点がある』
『う~ん、ちょっと想像しにくいな』
『それならば儂とダリルが戦う姿を想像しろ。流石に巨人族程の身長差はないが、ドワーフであるダリルと人間である儂が戦う場面を想像しろ』
『爺ちゃんと義父さんが……あ、凄く分かりやすい』
レノは剣を構えたロイの傍でダリルが潜り込む姿を想像する。ドワーフは身長は小さく、ダリルも身長は130センチあるかないかである。一方でロイは老人ではあるが身長は180センチは存在し、二人の身長差は50センチ近くもあった。
背が高いロイの懐にダリルが潜り込む姿を想像すると、確かにロイよりもダリルの方が動きやすそうに見えた。ダリルからすればどんな攻撃をしてもロイに当たりやすいが、ロイからすれば近すぎて自分よりも身長が低いダリルに対して攻撃を当てにくい。
巨人族と人間の場合は二人の身長差以上の差が存在し、懐に潜り込めば先手を打ちやすいのは間違いなく体格が低い側からである。無論、必ずしも背の低い人間の方が絶対的に有利であるとは断言できないが、少なくとも攻撃の手段は背の高い人間は限られている。
『巨人族の剣士と戦う際、懐に潜り込めば奴等の武器の攻撃手段は上から武器を振り下ろす事以外にあり得ない。下手に横薙ぎに剣を振り払おうとしても、体格差のせいで相手は身体を屈めれば簡単に避けられてしまうからな。横薙ぎの攻撃が有効だとすれば距離が離れた相手だけだ』
『じゃあ、爺ちゃんは巨人族の剣士と戦う時はいつも相手に近付いていたの?』
『そうだ、それ以外に儂に勝ち目はない。距離を詰めなければ巨人族と人間が扱う武器ではリーチに差があるからな、近づけなければ儂の攻撃は届かない。だからこそ巨人族の奴等と戦う時はまずは距離を詰めろ、それが奴等に勝てる唯一の方法だ』
『うん、わかった』
『それと懐に潜り込めたからといって安心してはいけないぞ。相手は必ずしも武器を使うとは限らない、もしかしたら足で蹴ろうとするかもしれないし、武器を手放して抑え込もうとするかもしれん。仮に組み付かれでもしたら圧倒的な腕力と体格差で圧し潰されてしまうからな』
『ええっ……』
『まあ、確実に相手を倒した蹴れば最初に懐に潜り込んだ時、相手よりも早く攻撃を繰り出せ。それが出来れば十中八九は負ける事はない。この事はしっかりと覚えておくのだぞ』
ロイからの教えを思い出したレノはダイゴと向き直り、まずは距離を見計る。ダイゴが所有する大剣は刀身の部分だけでも2メートル以上は存在し、レノが所持している長剣と比べてもリーチには大きな差があった。
更にレノとダイゴの体格差を考慮すれば攻撃の射程距離はダイゴの方に分があり、彼の攻撃が届く範囲でもレノの攻撃は届かない領域も大きい。普通の剣士ならばここでダイゴの攻撃範囲内に近付こうとはせず、距離を置こうとするだろう。
――しかし、ロイの教えを教わったレノは自ら進んでダイゴの元へ踏み込み、剣を握りしめる。その様子を見てダイゴは危機感を抱き、迫りくるレノに向けて攻撃を仕掛けようとした。
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