第44話 力を示せ

「さ、さっきも言った通り、オークの討伐に関しては冒険者の力は借りるつもりはない。私の部下と、ここにいるレノ殿に任せる事にしたのだ。今回、ここへ訪れたのはその報告だけだ」

「おいおい、それはおかしいんじゃないのかい?魔物退治ならその道の専門家に任せるのが一番だろう?あんた、あたしの事が嫌いだからってうちの冒険者に頼るつもりはないだけじゃないのかい?」

「ふ、ふん!!私も商人だ、私情で仕事に影響を及ぼすような真似はしない!!いいか、ここにいるレノ殿はゴブリンの大群とホブゴブリンを相手にたった一人で倒されたのだ!!そんな芸当がお前の所に所属する冒険者に真似できるのか!?」

「……何だって?この坊主がゴブリン共を……?」

「えっと……」



ネカの言葉を聞いてテンは驚いた表情を浮かべ、長年の付き合いでネカがこんな状況で嘘を吐く人間ではない事はテンも良く理解している。それでも彼女はレノがゴブリンとホブゴブリンを倒したという言葉に疑問を抱く。


ギルドマスターとしてはテンは様々な冒険者を目にしており、若かりし頃は彼女も一流の冒険者として活躍していた。そのために人を見る目に関しては彼女も自信はあるが、テンの目から見たレノがホブゴブリンを倒せるほどの実力者には見えない。



(……確かに普通の人間にしては身体を鍛えこんでいるね。だけど、とてもホブゴブリンを倒せる程とは思えないね)



レノの様子を見てテンは服越しでも彼がどれほどの筋肉を身に付けているのか見抜く事は出来た。山暮らしで幼少期から身体を鍛えていたレノはとしてはよく鍛えこまれている肉体だが、それでもホブゴブリンのような化物を倒せる程の力を持っているとは思えなかった。



「ネカ、本当にこの坊主がホブゴブリンを倒したのかい?」

「ああ、間違いない!!私はこの目ではっきりと見たのだ、このレノ殿が一撃でホブゴブリンを打ち破る姿をな!!」

「……その話、本当かい?」

「えっ……あ、はい。倒しました」



ネカが興奮気味にレノの肩を掴んでホブゴブリンを倒した時の事を語ると、テンは頭を掻きながら眉をしかめる。ネカの態度から彼が嘘を吐いている様に見えないが、テンからすればレノがホブゴブリンを倒せる程の実力者にはどうしても見えなかった。



(あたしの観察眼も錆びついたのかね……それともこの坊主が巧妙に弱者を演じているのか、どちらにしろ確かめる必要があるね)



自慢そうにレノの強さを語ってくるネカに対してテンは腕を組み、このまま二人を帰すわけにはいかず、どうするべきかと頭を悩ませる。


このままではネカはレノと部下を連れてオークの住処に向かってしまい、もしもテンの観察眼通りの実力しかレノは持ち合わせていなかった場合、二人の命どころか彼等に付いていく人間の命も危うい。そう考えた彼女はレノの本当の実力を確かめる事にした。



「ネカ、そこまであんたがその坊主の強さに信頼しているというのなら、あたしにもその坊主の強さを見せてくれないかい?」

「な、何だと!?」

「それはどういう意味ですか?」

「な~に、簡単な話さ。ネカはあんたがうちで働いている冒険者よりも余程頼りになると言ってるんだろう?それなら、うちの冒険者とあんたがどっちか強いのかはっきりさせたいのさ」

「急に何を言い出すのだ!?そんな話、引き受ける必要はありませんぞレノ殿!!」

「別に嫌なら無理強いはしないよ。但し、冒険者ギルドのギルドマスターとしてあたしは一般人であるあんたらをオークの住処に行かせるわけにはいかないね。どうしても行くというのならうちの冒険者も同行させるよ」

「なっ!?ふ、ふざけるな!!私はお前の所の冒険者など雇う気はないぞ!?」



テンの言葉を聞いてネカは立ち上がって彼女の冒険者を雇うつもりはない事を断言するが、そんな彼に対してテンは机を蹴り上げて怒鳴りつける。



「ふざけた事をいっているのはあんたさ、よりにもよって冒険者でもなければ傭兵にも見えない一般人にオークの討伐を任せる?馬鹿も休み休み言いな!!」

「うっ……!?」

「ふん、あんたが一度でもあたしの言葉に逆らえた事はあったかい?言っておくが、これは決定事項だ!!あたしの言葉に従えないないのならこのまま帰すつもりはないよ!!」



凄まじいテンの気迫にネカは圧倒され、腰が抜けた様に座り込む。その様子を見てテンは鼻を鳴らし、堂々とふんぞり返る。


二人の様子を見てレノはネカが彼女に対してどうして敵対心を抱いている理由が分かった。どうやらこの二人の力関係は完全にテンが上らしく、ネカは彼女に逆らえないらしい。



(なるほど、ネカさんが冒険者に頼りたくはない理由はこの人の事が苦手だからなのか……でも、間違った事は言ってないんだよな)



テンの言葉は一方的な暴論というわけでもなく、冷静に考えれば彼女の告げた話は至極まっとうな内容だった。普通ならば冒険者に頼むべき仕事を最近出会ったばかりの少年に任せるという方がおかしな話であり、そんな話を聞かされれば冒険者ギルドのギルドマスターとしてテンも反対せざるを得ない。



(このままだと、ネカさんも断れなさそうだな……うわ、こっちを見てるよ)



ネカはレノに助けを求めるようにちらちらと視線を向け、そんな態度を取られてもレノとしては困るのだが、彼としてはこのままテンの言う通りに従えば二人の関係性は変わらないと考えていた。


昔からテンに苦手意識があるネカはどうにか彼女の提案を断る事で二人の力関係を逆転させたいと考えているのはレノにも察しがついた。流石に逆転とまではいかなくとも、いつも素直に従うばかりではない事を示すだけでも二人の立場は変わるだろう。



(仕方ないな……冒険者と手合わせする機会なんて滅多にないだろうし、それに対人戦も経験しておいても悪くはないか)



レノはネカに助け舟を出す事を決め、テンに対して彼の代わりにその条件を引き受けることを告げた。



「分かりました。なら、俺が実力を示せば納得してくれるんですね?」

「れ、レノ殿……!!」

「……へえ、あんた本気かい?いっておくけど、うちの冒険者は荒っぽい奴等ばっかりでね。手加減なんて出来ないよ」

「大丈夫です、こう見えて俺も……結構修羅場を潜り抜けてますよ」

「へえっ……言うじゃないかい」



テンに対してレノは自信に満ちた表情を浮かべると、その言葉に対してテンは一瞬だけ驚いた表情を浮かべるが、すぐに口元に笑みを浮かべる。

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