第43話 ギルドマスター
――ネカに付いていく形でレノは昨日にも訪れた冒険者ギルドに赴くと、ギルドの職員はネカの姿を見て非常に驚く。受付嬢のアキはネカの後に続いて現れたレノを見てて戸惑い、その一方でネカは少々不機嫌そうな表情で彼女に話しかけた。
「……ギルドマスターに会わせてくれ、ネカが会いに来たといえば通じるだろう」
「は、はい!!分かりました!!」
アキはネカを前にして慌てふためき、流石の彼女もこの街では有名な商人であるネカの訪問に動揺し、すぐにギルドマスターの元へ向かう。その途中、レノの顔を見て建物の酒場で食事をしていた4人組の男女が声を上げる。
「あ~!?あの時の人だ!!」
「え、本当だ!!レノさんじゃないですか!!」
「ど、どうしてここに?」
「レノさん、昨日はどうも……」
「あ、君たちは……」
「ほう、お知り合いですかな?」
レノは振り返ると、そこには昨日に助けた4人組の冒険者が存在し、彼等は冒険者の証であるバッジを身に付けていた。それを見たレノは4人とも試験に受かった事を察し、素直に褒めた。
「おめでとう、無事に合格して冒険者になったんだね」
「はい!!これもレノさんのお陰です!!」
「あの時は助けてくれてありがとうございました!!」
「それより、今日はどんな用件で……あ、まさかレノさんも冒険者になるために来たんですか!?」
「れ、レノさんなら一発で合格できると思います!!頑張ってください!!」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
「レノ殿、この方達はお知り合いですかな?」
「あ、はい。昨日、会ったばかりですけど……」
期待するような目で自分を見つめてくる4人組に対してレノは苦笑いを浮かべ、現状では冒険者になるつもりはないレノは4人の言葉を否定する。唐突に訪れたとネカとレノに対して冒険者ギルド内の人間は視線を向けると、不思議そうな表情を浮かべていた。
ネカはこの街の有名人であるため存在は知れ渡っているが、同行しているレノに関しては誰なのか見当もつかない。しかし、ネカの護衛や使用人にしては彼との距離が妙に近く感じられる。いったい何者なのかと冒険者ギルド内の人間が疑問を抱き始めた時、ここで奥の方から大声が響く。
「はっ、これは驚きだね!!まさかあんたの方から私に会いにやってくるとはね、ネカ!!」
建物内に響いてきた大声にネカは顔を顰め、レノは反射的に耳元を塞ぐ。そして全員の視線が声の主に向けられ、そこには身長が2メートル近くは存在する女性が存在した。
(なんだ、この女の人……でかっ!?)
姿を現したギルドマスターは筋骨隆々の女性であり、身長だけではなく筋肉の方もたくましく、最初にレノは「巨人族」の女性かと思ったほどである。但し、噂によると巨人族の成人女性は身長は3メートル近くは存在すると聞いているため、恐らくは人間の女性と思われる。
ギルドマスターは片目を眼帯で覆い隠し、茶髪でショートカットのために一見するだけでは男性にも見えなくはない。但し、胸の方は非常に大きく、脂肪というよりも筋肉で構成された胸筋という表現が正しい。ネカはギルドマスターの姿を見て口元をひくひくとさせながら表面上は冷静に対応した。
「久しぶりだな、ギルドマスター……前に会ったのは1年前か?」
「はははっ、なんだその呼び方は?あたしとあんたは幼馴染なんだから遠慮する事はないだろ、普通にテンと呼びな!!」
「……相変わらずだな」
「テン、さん?」
「ん?何だい、そのガキは……あんたの息子かい?」
レノの存在に気付いたテンは不思議そうな表情を浮かべてレノを覗き込み、顔を近づけてきたテンに対してレノは焦る。するとネカがすぐにレノを庇うように前に出ると、テンに話しかけた。
「この御方は私の知人だ。それよりもギル……いや、テンよ。今日はお前に相談があってここへ来たのだ」
「だろうね、あんたが用事も無しにあたしに会いに来るはずがないね。まあ、あんたとは古い付き合いなんだし、こんな場所で話すのもなんだから奥に行こうか」
「ああ、そうしてくれると助かる……では、レノ殿。参りましょうか」
「あ、はい……」
テンの言葉に対してネカは渋々とした表情を浮かべ、本音を言えば彼としてはテンとは顔を合わせたくはないのだろう。一方でテンの方はネカに対しては割と普通に話しかけている当たり、二人の関係性はよく分からない。
職員がネカの存在を知っている当たりは彼はこのギルドに訪れた事もあるらしく、すぐにギルドマスターに話を通すあたりは只の知り合いとは考えられない。テンはネカの事を幼馴染と言っていたが、それにしてはネカは彼女に明確な敵対心を抱いている節がある。
レノが二人の関係性を色々と考察している間にもギルドの奥へと案内され、やがてギルド長室という表札が立てかけられた部屋まで案内される。どうやらギルドマスターの仕事部屋らしく、テンは二人を通すとすぐに机を挟んで向かい合う形で座り込む。
「そっちの坊主は初めましてだね、あたしの名前は「テン・バル」この冒険者ギルド「赤虎」のギルドマスターさ」
「あ、どうも……レノと申します」
「レノか、聞いた事はない名前だね。あんたは冒険者かい?」
「ごほんっ!!テン、今日は世間話をしにきたわけじゃない……話を進めるぞ」
「何だい、随分とせわしいね。それで今日は何の用だい?」
テンの質問にレノが答える前にネカが口を挟み、本日訪れた用件を彼女に伝える。ネカはレノに話した内容を彼女に伝え、地図を用意して彼の配下が発見した「オークの住処」の位置を知らせる。
「……という事だ、この森に複数のオークが住み着いているという情報はお前の耳に届いているか?」
「ふむ……いや、あたしの記憶の限りだとオークの討伐依頼なんてギルドには届いていないね。それにしてもあんたの部下もよくオーク共の住処なんて見つけたね」
「今はもう止めてしまったが、元々は猟師をやっていたそうだ。この森には何度か狩猟で訪れた事があるらしい」
「なるほどね。よく分かったよ……だけど、気になる事があるのはどうしてあんた、うちの冒険者を雇わないんだい」
話を聞き終えたテンはじろりとネカに視線を向け、彼女に睨まれたネカは一瞬だけ身体を震わせるが、すぐにレノが隣にいる事を思い出したように毅然とした態度を貫く。
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