力も魔法も半人前、なら二つ合わせれば一人前ですよね？

第242話 援軍

「ふうっ、助かった……って、安心している場合じゃないか！！」

「ウォンッ！？」

『オアアッ！！』

自身を傷つけられた事で怒りを抱いた白鯨が地上に降りた二人を押し潰そうと身体を起き上げ、その様子に気付いたウルはレノのローブに噛みついて持ち上げると、押し潰される前に駆け出す。

危うく白鯨の巨体で圧し潰される所を寸前で回避に成功し、白鯨の巨体が砂の上に沈んだ際に砂煙が舞い上がる。どうにか回避には成功したウルとレノであったが、ここまでの攻撃で白鯨は損傷を追っても致命傷を与える事が出来ずにいた。

(駄目だ！！こいつ、デカすぎる！！表面だけしか斬れていない！！)

岩石の皮膚を剥がした事で生身が露出したが、背中を斬り付ける際にレノは皮膚は切れても内側の肉が分厚過ぎて致命傷を与えられない事に気付く。このまま戦っても傷を与える事が出来ても倒すには至らず、やがてレノの方が体力と魔力切れになってしまう。

(ドリスさんの爆炎剣みたいに威力のある攻撃じゃないと……でも、どうすればいいんだ！？)

レノは周囲を振り返り、横転しているヤマトに視線を向けて歯を食いしばる。ここに辿り着いたときにはレノはヤマトが横転している姿を見て皆が白鯨との戦闘で敗れたのかと思った。しかし、ここで遠くの方から声が聞こえてきた。

「おい、坊主！！遅かったじゃねえか！！」

「心配しましたのよ！！」

「その声は……船長！？それにドリスさんも！！」

「僕達もいるよ！！」

「……やっぱり、来てくれた」

「信じていたぞ！！」

「ほらな、あたしの言った通りだ！！」

声が聞こえた方向に視線を向けると、そこには小舟型の砂船に乗り込んでレノの元へ近寄る船長たちの姿が存在した。皆が無事な姿を見てレノは安堵するが、その一方で彼等は樽爆弾らしき物が乗っている事に気付く。

「よく助けに来てくれたな坊主！！まさか、あの化物の岩石の皮膚を剥がすとは驚いたぞ！！」

「遅れてすいません、色々と準備に手間取って……」

「さっきの攻撃は凄かったね！！まさか、竜巻に更に水の力を加えるなんて……」

「……呑気に話している場合じゃない、また動き出した」

――オァアアアアアッ……！！

ネココの言葉に全員が振り返ると、白鯨は再び砂の中に身体を沈め、下半分を隠した状態でレノ達に顔を向ける。どうやら諦めるつもりはないらしく、今度こそレノ達を飲み込むつもりなのか大口を開いて接近してきた。

口を開いて飲み込もうと近付いてくる白鯨に対し、その様子を見ていたレノは皆を守ろうと荒正を構えると、ここでアルトが船から下りてレノの肩を掴む。

「レノ君、説明は後だ！！今からゴンゾウ君が樽を投げる！！それをドリス君と協力して奴の口の中で爆発させるんだ！！」

「えっ！？」

「レノさん、既に準備は出来ていますわ！！」

ドリスは魔剣「烈火」を引き抜き、既に刀身には火炎を纏わせていた。そして船に乗っていた樽をゴンゾウが持ち抱えると、気合の雄叫びを上げながら白鯨に向けて投げ飛ばす。

「うおおおおおっ！！」

「今だ、撃てっ！！」

「やっちまえっ！！」

「……分かった！！」

レノは何が何だか分からないが、言われた通りにドリスの魔法剣に自分の魔法剣を組み合わせるために刃を重ねると、吸血鬼のカトレアを倒した時のように爆炎の刃を空中に放り込まれた樽に向けて放つ。

「「爆炎刃！！」」

ドリスとレノの声が重なり、二人は剣を振り抜くと嵐刃が爆炎剣の猛火を吸収し、爆炎の刃が樽に向かって放たれる。既にゴンゾウが投げ込んだ樽は土鯨の口内に移動し、樽に爆炎が触れた瞬間、中身の酒と火属性の魔石が反応して大爆発を引き起こす。

――アガァアアアアッ！？

口内で先ほどの船から発射された３つの樽爆弾を上回るほどの爆発が白鯨の口内に発生し、その爆炎はレノ達の元にも届く。その光景を目にしたレノは咄嗟に荒正を構えると、迫りくる爆炎を荒正に纏わせた竜巻で防ぐ。

「くぅうっ！？」

「……レノ！！」

凄まじい熱量を帯びた爆炎が襲い掛かるが、どうにか風の魔力でレノは爆炎を抑え込み、皆を守ろうとした。その結果、レノの後ろに存在した者達は爆炎から逃れられたが、口内が爆発を起こした白鯨は内側から燃やされ、悲鳴を上げる暇もない。

やがて爆炎が収まる頃には見事な白色の皮膚が黒焦げと化し、上顎が吹き飛ばされた白鯨と、皆を守るために魔力を使い切り、砂の上に倒れ込むレノの光景が広がっていた――