第241話 土鯨の正体
「これが……本体なのか!?」
「グルルルッ……!!」
土鯨の全身を覆い込む岩石の皮膚が剥がれ落ちると、姿を現したのは全身が真っ白な皮膚で覆われた鯨が出現した。最早「白鯨」という表現が正しく、その皮膚は美しくさも感じさせるが、全身の皮膚を剥がされた土鯨は怒りを帯びた表情でレノとウルを固めで睨みつける。
『オォオオオオッ!!』
「やばい、こっちに来る!!」
「ウォンッ!?」
白鯨と化した土鯨は砂を掻き分けてレノ達の元へ向かい、岩石のように重い皮膚が剥がれ落ちた影響か、その速度は先ほどよりも早かった。足元が砂場ではウルも平地程の速度は出せず、しかも砂丘もあるせいで思うように挑速度が出ない。
「頑張れ、ウル!!」
「ウォンッ!!」
それでも主人の声援に応えるようにウルは砂丘を駆け抜け、跳躍を行う。この時にレナは弓を取り出し、狙いを定めると白鯨に向けて矢を放つ。
「これでどうだ!!」
『オアアッ――!?』
魔弓術によって放たれた矢は再び白鯨の残された右目へと向かい、見事に射抜く。どれだけの距離と角度が離れていようと矢の届く範囲内ならばレノの魔弓術から逃れる術はなく、風の魔力を付与した矢は眼球を貫く。
両目を奪われた白鯨は移動速度が格段に落ちてしまい、姿が見えない事でレノは自分達を見失うのではないかと思った。だが、白鯨は今度は聴覚で移動を行うレノ達の位置を掴んだらしく、追跡を再開する。
『オォオオオッ!!』
「くそっ、駄目か……!!」
眼球を射抜いても自分達を追跡する白鯨を確認してレノは弓を戻し、ここから先は弓をいくら射抜いても倒せる気はしなかった。荒正を抜いたレノは白鯨との距離を測り、試しに攻撃を行う。
「嵐刃!!」
『オアッ……!?』
距離はまだ20メートル近く離れているが、レノが嵐刃を放つと白鯨の頭に衝突し、血飛沫が舞い上がる。その光景を見てやはり岩石の皮膚を失った事により、白鯨の防御力が落ちた事に気付く。
以前の白鯨の岩石の皮膚ならば20メートルも離れた位置からの嵐刃では掠り傷を与えるのが精いっぱいだと考えられた。しかし、岩石の皮膚が剥がれた事で白鯨の防御力は各段に落ちており、今ならば攻撃が通じる。
(逃げてばかりじゃ駄目だ!!ここでこいつを倒さないと……)
レノは懐に手を伸ばすと、このために用意していた新しい水属性の魔石を取り出す。昨夜、レノが拠点を抜け出したのはムツノに戻って魔石を買い込むためであり、白鯨を倒すために有り金を叩いて魔石を購入してきた。
「これならどうだ!!水刃!!」
『オアアアアッ!?』
嵐刃に更に水属性の魔力を加えた攻撃を行うと、水の刃が白鯨に触れた瞬間、派手な血飛沫が舞い上がる。風の力だけでは威力不足だったが、そこに水を加える事で威力を上昇させる事で更に深い傷を与える。
「よし、倒せる……ウル、逃げるのはここまでだ!!」
「ウォンッ!!」
ウルは立ち止まると、正面から白鯨と向かい合い、牙を剥き出しにする。今までは逃げるしかなかったが、攻撃が通じる事が分かれば躊躇する必要はない。
「行くぞ、ウル!!」
「ウォオオンッ!!」
『オアアッ!!』
正面からウルは迫ると、白鯨は大口を開いて二人を飲み込もうとした。その行動に対してもレノは躊躇わずに今度は荒正に火炎を纏わせ、解き放つ。
振り抜かれた炎の刃は白鯨の口の中に入り込み、この際に熱を感じた白鯨は反射的に停止してしまう。どうやら先ほどの樽爆弾の影響で口内に攻撃をされるのを嫌がったらしく、その隙にウルは右側に回り込む。
「防御が薄い箇所は……あそこか!!」
『オアッ……!?』
レノは荒正を振り抜くと、既に潰されている左目の付近に嵐刃を放ち、攻撃を受けた白鯨は一瞬だけ怯む。その隙を逃さずにウルは大きく跳躍すると、白鯨のヒレを乗り越えて背中側へと移動する。
「走れ、ウル!!」
「ウォオオンッ!!」
『アァアアアッ!?』
背中側にレノは荒正を突き刺すと、ウルは全力疾走で駆け抜け、荒正の刃が白鯨の皮膚を切り裂いて血が噴出する。直に皮膚に攻撃される経験など今までになかった白鯨は悲鳴を上げるが、ここで身体を大きく仰け反らせてウルとレノを弾き飛ばす。
――オォオオオオッ!!
悪あがきとばかりに白鯨は身体を大きく跳ねると、背中に乗っていたウルとレノは吹き飛ばされ、上空へ飛ばされてしまう。この高度から落ちればひとたまりもなく、死んでしまうと判断したレノはウルの身体をしっかりと抱きしめると、荒正を地上へ向ける。
「くぅっ……ウル、離れるなよ!?」
「キャインッ!?」
どうにかウルを抱えた状態でレノは荒正から風の魔力を放出すると、落下速度が急激に落ちてウルを下敷きにする形で地上へ着地する。ウルは痛そうな表情を浮かべるが怪我は負っておらず、レノの方もウルの身体がクッションになってくれたお陰で無傷だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます