第240話 船長としての責務
「まさか船長……この小舟に乗るつもりか?」
「えっ!?」
「……おう、当たり前だ。発案者は俺だからな」
「ど、どういう意味ですの!?この小舟は作戦通りに行けば食べられてしまうのでしょう!?」
船長の言葉に船員は衝撃を受けた表情を浮かべ、一方でアルトだけは彼の言わんとしている事を理解した。船長が考えた小舟を利用した作戦には致命的な弱点がある事を指摘する。
「……この樽爆弾は自動で爆発させる事は出来ない。この樽自体は普通の樽である以上、今まで用意した樽爆弾と違って導火線は存在しない。仮に導火線があったとしても、土鯨がいつ出現して樽爆弾を飲み込むのか分からない以上はどうしようもないんだ。飲み込まれる前に爆発してしまう危険性もある」
「そういう事だ。つまり、誰かが一緒に奴に喰われる寸前に引火しないといけねえ……つまり、俺が犠牲になるしかねえんだよ」
「そ、そんな!!船長が犠牲になるなんて……」
「俺は船長だ!!作戦を考えたのも俺だ!!何より、この中じゃ一番老い先が短いからな……まあ、死ぬときはせいぜい派手に死んでやるぜ!!」
「船長……」
「い、嫌だぞ!!そんなの、認められるか!!」
自分の命を犠牲にしてでも土鯨を倒そうとする船長に対して他の者は引き留めようとするが、それに対して船長は断固として自分の役割を譲るつもりはなく、はっきりと告げた。
「これは船長命令だ!!お前等は生き残れ、俺の命を無駄にするな!!」
「船長、考え直してくれ!!」
「他に方法はねえんだよ!!これ以外にお前等が生き残る術はねえっ!!俺は船長だ……だからお前等を命懸けで守る義務があるんだよ!!」
「せ、船長……!!」
「もういい、船長の好きにさせよう」
「ううっ……!!」
船長の言葉にゴンゾウはポチ子の肩に手を置き、彼女を抱き寄せる。他の者達も涙を流しながら船長の提案を止める事は出来ず、その様子を見ていた船長は黙って頭の三角帽子を深くかぶり、目元を隠す。
ネココ達は彼等のやり取りを見て何も言えず、船長の覚悟は伝わった。だが、本当に方法はないのかと思われた時、唐突に廃船が揺れ始める。
「うおっ!?な、何だ!?」
「まさか、土鯨か!?」
「くそっ、騒ぎ過ぎたかっ!!」
何事かと船長は廃船の外に視線を向けると、少し離れた場所の地面が盛り上がり、砂船の残骸を吹き飛ばしながら土鯨が姿を現す。その光景を見て自分達に気付いたのかと船長は焦りを抱くが、土鯨は見当違いの方向に移動を行う。
――オァアアアアッ!!
大量の砂船の残骸を跳ねのけながら土鯨は突進し、その様子を見て自分達が狙いではないと気づいた船長たちは何事かと視線を向けると、土鯨の向かう方向には白色の毛皮の狼が存在する事に気付く。その背中には見覚えのある少年が乗り込んでいた。
「あれは……」
「レノさん!?」
「レノ!?」
「何だと!?あの坊主か!?」
「兄ちゃん!?」
土鯨の向かう方向にはウルに乗り込んだレノの姿が存在し、砂船の後をウルに乗り込んでここまで追いかけてきたらしく、土鯨に見つかって逃げる姿が目撃された。土鯨はかつてレノに左目を奪われた事を思い出したらしく、怒りの咆哮を放ちながら後を追う。
『オォオオオオッ!!』
「うわっ、怖っ……ウル、頑張れ!!」
「ウォンッ!!」
ウルの背中に乗り込みながらレノは荒正を引き抜き、意識を集中させて刀身に竜巻を纏わせる。通常以上に風の魔力を送り込み、刀身に纏う竜巻を構えると、後方から迫りくる土鯨に視線を向けた。
距離を見計らい、大量の砂を掻き分けながら追いかける土鯨に視線を向け、レノは竜巻を纏った荒正を上空へと掲げる。その結果、風の魔石から魔力を引き出して限界まで竜巻を巨大化させると、レノは片手で荒正を持ち上げた状態でもう片方の手に水属性の魔石を握りしめる。
「ウル、跳べっ!!」
「ウォオオンッ!!」
主人の命令のままにウルは砂丘を駆け抜けて上空へ跳躍を行うと、この際にレノはウルの背中から飛び降りるのと同時に右手の荒正を抱え、竜巻を纏った刃を構える。そして左手に所持していた水属性の魔石を手放すと、空中で竜巻を纏う刃で砕く。
「喰らえっ……暴風雨!!」
『オォオオオオッ……!?』
水属性の魔石が砕かれた瞬間、竜巻に大量の水の魔力が流れ込み、風と水の魔力で構成された嵐が土鯨の巨体を包み込む。その結果、土鯨の皮膚に大量の水分と強烈な風圧が放たれ、徐々に岩石の如く硬い皮膚は崩れ始めていく。
土鯨の弱点は水そのものであり、水を浴び得ると土鯨の硬い皮膚は崩れ去り、生身が露出してしまう。やがて全身の皮膚が崩れ去ると、土鯨は一回り程小さくなり、その正体を現す。
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