第239話 反撃の準備

「ま、まさか……スラミンに酒を吸収させたのかい?」

「ぷるっくっ(ちょっと飲み過ぎたぜ)」

「……そう、とりあえずは残っている分だけの酒を飲ませた後、ここまで転がして運んできた」

「うわ、何だこの生き物!?魔物か!?」

「落ち着け、ただのスライムだ。いや、ただのスライムには見えないが……」



スラミンを初めて見たポチ子は警戒するが、ゴンゾウが彼女を落ち着かせる。だが、とりあえずはスラミンが吸収した酒の分だけは回収する事に成功し、ついでにネココは空の樽を運び込む。



「この樽も一応は運んできた。この中に回収した火属性の魔石と、スラミンが吸収しておいた酒を入れればどうにか樽爆弾を作り出せると思う」

「おお、本当か!?そいつはありがたいぜ!!」

「だけど、複数の火属性の魔石を一か所に集めると危険だ。もしも爆発すれば、途轍もない威力になるだろう……それを考慮して樽爆弾には1つずつしか魔石を入れなかったんだろう?」

「そうなのか、船長!?」



アルトの言葉にポチ子は驚いて振り返ると、船長は渋い表情を浮かべながらも頷く。複数の魔石を一か所に集めた状態で爆発を引き起こした場合、途轍もない威力を発揮する事は彼も承知であった。



「ああ、かなり前に樽爆弾の試作品を作り出した時、試しに複数の魔石を集めて爆発させた場合はどうなるのかを試したんだ。その結果、予想以上の爆発が起きて砂船も被害を受けて大変な目に遭った」

「あ、それ覚えてるぞ!!まだあたしが船に乗る前にボロボロになって戻ってきたときがあったよな!!その時の話か!?」

「そういえばそんな事もあったな……」



複数の魔石を密集させて爆発させる場合、その威力は計り知れず、単体の時とは比べ物にならない威力を発揮する。それを知っていたからこそ、船長は樽爆弾に詰め込む魔石の量は1つと定めていた。


しかし、全ての樽爆弾を失い、残された火属性の魔石の数は10個だけだった。空樽を利用してスラミンが回収した酒を含めればあと一つは作り出せるが、恐らくはこれまでに制作した樽爆弾の中でも一番威力が高いだろう。



「土鯨には3つ分の樽爆弾でも倒す事は出来なかった。だけど、もしも魔石10個分の爆発の威力ならば単純に考えてもさっきの攻撃の3倍以上の爆発を引き起こせるだろう」

「それだけの威力があるのなら倒せるんじゃないのか!?」

「いや、その前にどうやって奴の口に放り込むんだよ!?もう投石機は残ってないんだぞ!?」

「船を見た限り、投石機は完全に壊れていた。修理するの難しい」



樽爆弾を作り出す素材の回収は成功したが、それを土鯨の口内に送り込む手段を考えねばならず、ここで船長は腕を組んで考え込み、険しい表情を浮かべて呟く。



「いや、たった一つだけ方法がある」

「ほ、本当ですか船長!?」

「ああ、俺の予想が正しければ、間違いなく成功する。だが、そのためには小舟が必要だ」

「小舟?」

「正確に言えば小舟型の砂船だ。おい、嬢ちゃん!!うちのヤマトから風属性の魔石を回収してくれるか?お前等は残骸の中から使えそうな物を探してこい!!」

「……お安い御用」

「へ、へい!!」



船長の指示にすぐにネココは動き、船員たちも小舟の材料になりそうな物を探し出す。それからしばらく時間が経過すると、ネココは無事にヤマトに取り付けられてあった風属性の魔石を回収し、船員たちは小舟型の砂船の残骸を発見して戻ってきた。



「船長、見つけてきました!!まだ無傷の小舟が残ってました!!」

「……魔石も取ってきた。ついでに魔石を作動させる魔道具も」

「おう、よくやった!!じゃあ、そいつらを取りつけてくれ!!」



運び込まれた小舟に風の魔石と魔道具が取り付けられ、小舟型の砂船が完成する。これで何をするつもりなのかと全員が船長に視線を向けると、彼は空樽にネココが回収した火属性の魔石を放り込み、スラミンに指示を出す。



「よし、スラ坊!!お前が飲んだ酒をこの中に入れてくれ!!」

「ぷるるんっ(誰がスラ坊やねんっ)」



指示通りにスラミンは樽の中に口を近づけると、吸収していた酒を吐き出す。この際にスラミンの身体が縮小化し、やがて元の大きさに戻る頃には身体の色合いが紫からいつもの水色へと戻る。


樽の中に酒と火属性の魔石が詰め込まれるのを確認すると、船長はしっかりと蓋をした状態で外へと運び出す。小舟が廃船の外に運び出されると、その上に船長は酒樽を乗せ、松明を放り込む。



「こいつを利用してあの化物鯨をぶっ倒す。以前、小舟型の砂船が奴に飲み込まれたという話を聞いた事がある。どうやら奴は小舟であろうと砂漠を移動する存在がいれば餌だと気づいて襲い掛かるらしいからな」

「なるほど、つまりはこの小舟を囮に利用して土鯨を引き寄せて、そのまま飲み込ませて口の中から爆発させるのか」

「おお、船長珍しく冴えてるじゃん!!」

「ああっ……まあな」



ポチ子の言葉に船長は苦笑いを浮かべるが、その作戦を聞いたアルトはここで重要な問題が残っている事に気付き、船長の考えを読み取る。

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