第238話 廃船

「ほら、お前等で最後だ……これで全員集まったな」

「船長、皆、無事だったんだな!!」

「馬鹿、声がデケえよ!!静かにしろ、馬鹿たれ!!」

「いや、船長の方がデカいよ!!」



廃船に入り込むと、どうやらネココを除いた船員全員が集まっていたらしく、ここまで無事に逃げ延びたらしい。どうやらこの廃船は王国の旗印がある事から王国騎士が乗り込んでいた砂船らしく、船の中は広かった。



「この中なら少しは声を抑えられる。だけど、あんまりデカい声を出すなよ」

「それは良かった……ふう、やっと一息つけるね」

「あんまり安心してはいられないぞ。これからどうするのか話し合わねえとな……」



集まった者達は船の中で円を描くように座り込み、現在の状況を確認する。とりあえずはヤマトの方は現在は横転してしまったので使い物にならず、砂船を利用して脱出するのは難しい。



「この周辺一帯は土鯨の住処だからな、他の砂船は絶対に近付く事はない。だから救助を待ったとしても絶対に誰も近寄ってくる事はねえ」

「つまり、外部からの手助けは期待できないわけか」

「その通りだ。脱出するには徒歩で歩くしかねえ……だが、ここからムツノまで移動するにしても徒歩だと1日中は歩き続けなければならねえ。それに水も食料もない状況で砂漠を歩くのなんて自殺行為だ」

「な、ならどうするんですの?」

「……この場所には大量の船の残骸がある。その中には俺達が今隠れている廃船のように被害が少ない船も残っているはずだ。それをどうにか修理して直すしかねえ」

「船長、本気で言ってるんですか!?」

「俺達の手で新しい砂船を作り出すんですか!?」



船長の言葉に船員は度肝を抜かれるが、他にこの砂漠を脱出する方法はなく、乗り物も食料もない状態では砂船にでも乗らなければ生きて帰る事は出来なかった。



「俺は正気だ!!幸いにも砂船の動力の風属性の魔石はヤマトから回収すればいい、要は船が乗れる状態にまで直した後、風属性の魔石を取りつけて動かせばいいだけの話だ。それぐらいの改造なら俺達も出来るだろ……問題があるとすれば」

「土鯨が逃げようとする者を見逃すはずがない、か」



船長の言葉の続きをアルトが告げると、その言葉に全員の表情が暗くなり、ため息を吐き出す。仮に砂船を作り出す事が出来たとしても、住処から逃げ出そうとする砂船を土鯨が逃すはずがない。


だが、このまま無駄に時間を過ごすわけにはいかず、こうして話している間にも体力は消耗し、喉も乾く。食料や飲料水などはヤマトに置いて来てしまったため、今の船員たちは着の身着のままの状態である。



「船長、どうにか土鯨から逃げ切る方法はないんですかい!?」

「ヤマトをどうにか動かせたりはしないんですか!?」

「無理だ、俺達の力だけでどうやって横転した船を元に戻せると思ってんだ?」

「それはそうですけど……」

「それに元に戻そうにも土鯨の奴が放っておくはずがねえ……ん?そういえばあの猫耳の嬢ちゃんはどうした?」

「ネココさんなら船の中に……」

「……ただいま」

「うわっ!?びっくりした!!」



船長がネココがいない事に気付いてドリスが説明しようとすると、何処からともなくネココが姿を現す。もう船から戻ってきたネココに全員が驚く中、彼女はやり遂げた表情を浮かべて戻ってきた。



「任務完了……船の中から使えそうな物は片っ端から回収してきた」

「そ、それは本当ですの!?」

「でも、姉ちゃん何も持ってないじゃんか……」

「大丈夫、この鞄の中に入ってる」

「あ、それは僕の収納鞄!?見つけてきてくれたのか!!」



船が転倒した際に失くしたと思われたアルトの収納鞄をネココは回収していたらしく、彼女は収納鞄を利用して船の物資を運び込んだという。アルトの収納鞄は収納制限が存在するが、この鞄の中は異空間に繋がっており、制限重量内であればどんなに荷物を積み込んでも鞄の重量は変化しない。


収納鞄からネココは船の中に置かれていた食料を取り出し、飲料水が入った小樽もしっかりと回収していた。それを見た船長は上機嫌になり、ネココの肩を叩く。



「がははっ!!やるじゃねえか、嬢ちゃん!!」

「……痛い」



肩を遠慮なく叩いくる船長にネココは眉をしかめるが、食料と水を取り戻した事で船員の士気は取り戻し、これでしばらくの間は持ちこたえられた。しかし、肝心の樽爆弾の方に関しては残念ながら船が横転した時に駄目になっていたらしい。



「樽爆弾の方は船が倒れた時、中に保管されていた樽も衝撃を受けて殆どがこぼれていた」

「そうか……」

「でも、念のために中に入っていた火属性の魔石は回収しておいた。それに酒の方も残った分だけは回収しておいた」

「え?どうやって?」

「……スラミン、カモン」

「ぷるぷるっ」

「あ、スラミン……うわぁっ!?」



廃船の壊れた大きな穴からスラミンが姿を現すと、何故か現在のスラミンは体長が1メートルにまで膨れ上がり、紫色に変色していた。その様子を見たアルトはスラミンに樽爆弾の酒を回収させた事に気付く。

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