第237話 王国騎士の遺品

(やりましたわ!!どうやらうまく忍び込んだみたいですわね!!)

(けど、どうやってあの姉ちゃんは樽を運ぶんだ?あの樽、大人でも運ぶのにきついんだろ?)

(ネココにも考えはあるようだ、ここは彼女を信じよう……それよりも僕達もこのままでいるのはまずい、どうにか他の人間と合流しないといけない)



ネココが無事に船の中に入り込んだのを確認してドリスは安堵するが、アルトは船の残骸に身を隠しながらも他の者の姿を探す。甲板に存在した船員は全員が外に放り出されたため、必ず何処か近くに隠れているはずである。



(皆、無事だと良いんだけど……)

(……そもそも、どうして土鯨は襲ってこないんだ?)

(僕達の存在を気付いていないわけじゃない……きっと、何処かに身を隠して様子を伺っているんだ。さっきから痛い思いをしたばかりだからね)



土鯨が襲い掛かってこない理由は色々と考えられるが、一番の理由は最初に樽爆弾で攻撃を仕掛けた事が原因だと考えられた。今までに味わった事のない攻撃を受けた事により、土鯨は警戒態勢に入った。


砂船を横転させたが、その後に土鯨は攻撃を仕掛けないのは自分を襲った人間達が先ほどの攻撃を仕掛けるのではないかと警戒しているだけに過ぎない。樽爆弾が使えない事は土鯨は理解しておらず、今現在も砂の中に潜っているのは警戒心を高めているからだろう。



(もしかしたら思っていた以上に僕達は土鯨に恐怖を与えたのかもしれない。仕留める事は出来なかったが、先ほどの攻撃で土鯨は僕達の事を脅威だと認識したんだ。そうでもなければ今頃は残骸ごと僕達を飲み込んでいただろう)

(はっ、いい気味だな……でも、どうするんだ?)

(奴を恐れさせることが出来ても、船を失った以上は逃げる事は出来ない……)

(状況が最悪なのはこちらの方ですわね……)



今のところは土鯨が警戒しているので襲われる心配はないが、いつまでもアルトたちもこの場所に留まるわけにはいかない。だが、逃げようにも船は横転してしまい、ここから離れるにしても徒歩で戻れる距離ではない。



(この砂船の残骸の中から使えそうな物を探そう。もしかしたら、何か残っているかもしれない。但し、無暗に大きな音を立てたら駄目だ。土鯨に気付かれてしまうからね)

(分かりましたわ)

(他の奴等も探そうぜ、きっとみんな生きてるはずだ!!)

(ポチ子、静かに話せ……聞かれたらどうする)



アルトの提案に全員が賛同し、早速他の者の捜索と使えそうな物資を探す。これまでに破壊された砂船の残骸の中には過去に土鯨の討伐隊として派遣された船も含まれているはずであり、もしかしたら武器なども残っている可能性があった。



(何か使える物があれば……)

(そんな簡単に見つかるとは思いませんけど……えっ!?こ、これは……!!)

(何か見つけたのか姉ちゃん?)



捜索の際中、ドリスは驚愕のあまりに大声を上げそうになり、慌てて口元を塞ぐ。何か発見したのかと全員が彼女の元に集まると、ドリスは地面に突き刺さるように刺さっていた剣を発見していた。


その剣はドリスの所持している魔剣「烈火」と似ており、しかも彼女の件の刃よりも色合いが濃い。剣を拾い上げたドリスは震えながらも剣を見つめて呟く。



(こ、これは……間違いありませんわ、この件は私の持っている魔剣「烈火」の前に作り出されたと言われる「紅蓮」ですわ!!)

(紅蓮!?これが魔剣「紅蓮」なのかい?)

(魔剣だと?どうしてそんな物がここにある?)

(まさか、これは無くなられた王国騎士様の遺品では……)



魔剣「紅蓮」を手にしたドリスは震え、彼女の魔剣「烈火」と同様にこの紅蓮は途轍もない価値を誇る。紅蓮は烈火と同じく炎を司る魔剣だが、この紅蓮の前の持ち主は土鯨の討伐のために出向いた王国騎士のはずだった。


どうやら前の所有者が土鯨に敗れた際に紅蓮はこの場所で眠っていたらしく、紅蓮を手にしたドリスは震える手で魔剣を握りしめる。こんな場所でこの魔剣を手にするとは思わなかったが、これは何としても持ち帰る必要があった。



(……この魔剣は凄い力を持っています。もしかしたら、私の持つ魔剣よりも……)

(じゃあ、土鯨をぶっ倒せるのか?)

(それは……流石に無理ですわ。今の私ではこの魔剣は使いこなせるとは思えませんもの)

(何だよ、期待したのに……)



このような状況で紅蓮を手にするとは思わなかったが、残念ながら現時点ではこの魔剣はドリスの手には余る。そもそも魔剣は簡単に扱える代物ではなく、とりあえずは彼女は背中に紅蓮を背負うと、再び捜索を行う。



(おい、お前等……無事だったか!!)

(あ、船長!!)

(こっちだ、こっちにこい!!)



どこからか船長の声が響くと、残骸の中で辛うじて船の形を保っている「廃船」から声をかける。船長は廃船の中に入るように促すと、そこには既に大部分の船員が集まっている状態だった。

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