第243話 大勝利、しかし……
「や、やった……倒した、のか?」
「ああ、流石にあんな状態だと……生きてはいないだろうね」
「お、おっしゃあっ!!遂にぶっ倒したのか、あの化物を!!」
「うおおおおっ!!」
白鯨が死亡した事を見届けたゴンゾウ、ポチコ、そして船長のエイハブは歓声を上げ、遂に家族の仇を討つ事に成功した彼等は喜びを抑えきれなかった。一方で倒れたレノの元にはネココが駆けつけ、彼が意識を失っている事を確認する。
「アルト!!レノが……」
「診せてくれ……大丈夫、気を失っただけさ。どうやら魔力が枯渇したようだ」
「それなら魔力回復薬を飲ませないと!!」
「大丈夫、最後の一本が残ってる。ほら、飲むんだレノ君」
「うっ……」
魔力を使いすぎて気絶したレノの口元にアルトは薬瓶を押し込み、やがて落ち着いたのか安らかな表情へと変わる。そんな彼をアルトは肩を貸し、ネココも反対側の肩を貸す。
「お前等、よくやってくれた!!遂にこの化物を倒す事が出来た!!全部、お前等のお陰だ……ありがとう、本当に感謝しきれねえよ!!」
「あれ?船長、もしかして泣いてるのか?」
「ば、馬鹿野郎!!漢が涙を流すわけねえだろ!1」
「ふっ……他の奴等に見られなくてよかったな」
船長はレノ達に頭を下げると、彼が泣いている事に気付いたポチ子とゴンゾウはからかうと、船長は慌てて帽子を深くかぶって目元を隠す。彼等からすればこの白鯨は憎き家族の仇であり、どうしても許せない敵であった。
因縁の敵を倒す事に成功した事に船長もポチ子もゴンゾウも喜ぶを抑えきれず、他の者も呼び寄せて感動を分かち合おうとした。しかし、この時に予想外の事態が発生する。
「んっ……何か聞こえる」
「何!?まさか、まだ生きているんですの!?」
「違う、その化物じゃない……砂を掻き分けるような音、間違いない。砂船が近くにまで迫ってる」
「砂船だと!?そんな馬鹿な……」
砂船が接近しているという言葉に船長は驚き、この海域は土鯨の住処であるため、普通ならば砂船が近寄ってくるはずがない。しかし、ネココの耳には確かに聞こえ、犬型の獣人であるポチ子も頷く。
「あたしも聞こえるぞ!!しかも、小舟型じゃない!!かなりの大きさだ!!」
「そんな馬鹿な……おい、あそこへ上るぞ!!」
船長は周囲を見渡せる程の大きさの砂丘を指差し、全員が急いで砂丘を駆けあがると、驚くべき光景を目にした。それは3隻の大型船が砂を掻き分けて近付いてくる光景が映し出され、その様子を確認した船長は目を見開いた。
「馬鹿な、どうして船が……!!」
「あ、あれは……救助船ではないんですの?」
「いや、あり得ねえっ……俺達がこの場所に訪れる事は誰にも伝えていない。それにこの海域は土鯨の住処だぞ!!滅多な事ではあんな大船が近付くはずがねえ……こいつは嫌な予感がするぜ、すぐに隠れている奴等を呼び寄せろ!!」
「あ、ああ!!分かった!!」
「グルルルッ……!!」
「ぷるぷるっ……」
近付いてくる船を見てウルは唸り声をあげ、スラミンは怯えるようにネココのマントの下に隠れる。2匹の反応から接近する3隻の船にネココは嫌な予感を浮かべ、こんな時に意識を失ってしまったレノに視線を向ける――
――接近してきた3隻の船が到着する前に廃船に避難していた者達は集まり砂丘の上で近付いてくる船の様子を伺う。そして遂に3隻の船は停止すると、やがて大勢の人間が地上に降りてきた。その数は100名を超え、魔狩りの面子を含めてもレノ達の4倍の人数差だった。
船長が前に出ると、突如として現れた集団からは獣人族の大男が現れる。ゴノの街で傭兵団の頭を務めているロウガにも匹敵する身長と体躯を誇り、虎のような耳と尻尾を生やしていた。大男は船長と向かい合うと、鼻を鳴らす。
「ふんっ、こんな所で何をしてるんだ。爺さん?」
「……そういうお前さんこそ、何者だ?」
「おいおい、先に質問したのは俺の方だぜ?まあいい、名乗ってやるか……俺の名前はヤクラだ」
「ヤクラ……!?まさか、盗賊王!?」
ドリスはヤクラの名前を耳にして驚愕の声を上げると、他の者達も動揺した表情を浮かべる。その反応を楽しむようにヤクラは腕を組み、告げた。
「ほう、こんな砂漠にも俺の名前は知れ渡っていたか……って、よく見れば若そうだが随分と別嬪さんじゃねえか!?よし、決めた……今晩の相手はそこの金髪の嬢ちゃんで決定だな!!」
「なっ!?何て無礼な……!!」
「ドリス、落ち着いて……こんなゲス野郎、まともに相手にしたら駄目」
「おっ?随分と威勢がいい娘だな。ふむ……将来性はありそうだが、俺の好みじゃねえな。悪いな嬢ちゃん、あと5年ぐらい経ったら相手にしてやるよ!!」
「……コロス」
「ネココ、君の方が落ち着くんだ!!」
ヤクラの言葉にネココは蛇剣に手を伸ばすが、それをアルトが抑えつける。そんな彼等の様子を見てヤクラを名乗る男は倒れている白鯨に死体に視線を向け、驚いた顔を浮かべる。
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