第244話 盗賊王ヤクラ

「うおっ!?おい、おいおいおい!!まさかお前等……この化物鯨をぶっ殺したのか!?今までに誰も殺す事が出来なかった化物を!?」

「ああ、そうだ……この化物は俺達がぶっ殺した。何か文句あるのか?」

「大有りだ!!人の獲物を横取りしやがって……」

「横取りだと?じゃあ、まさか……」

「おうよ、俺達もこの化物を殺すためにわざわざ来てやったんだよ」



ヤクラの言葉に今度はネココ達が驚かされ、まさか自分達以外にも土鯨を狙う存在がいるとは思わなかった。しかも、その相手が盗賊として名高いヤクラである事に動揺を隠せない。



「な、何だと!?どうして盗賊が土鯨を狙うんだ?」

「そんなもん、決まってんだろ。こいつを倒せば国からどれだけの報奨金が貰えるのか、お前等も知ってんだろ?こいつをぶっ殺せば俺達全員が遊び暮らせる程の大金が貰えるんだ」

「馬鹿な事をおっしゃらないでくださいましっ!!盗賊に報奨金など国が支払うはずがないでしょう!!」

「ん?その口調、それにその剣……嬢ちゃん、もしかして貴族なのか?」

「それは……」



ドリスの口調を聞いてヤクラは表情を一変させると、彼女が貴族かどうかを尋ねる。ここでアルトは事前にロウガから聞き出した情報を思い出し、ヤクラは貴族という存在を酷く憎んでいる事を思い出す。


ヤクラが武器に手を伸ばしたのを見ると、ネココは咄嗟にドリスが正体を晒す前に彼女の背後に移動すると、尻を鷲津噛む。



「うひゃんっ!?」

「うおっ!?な、何だ急に変な声を上げやがって……!?」

「……気にしないで、この子は貴族に憧れているだけ。この髪の毛も染めているだけに過ぎない」

「ちょ、ちょっとネココさん、急に何を……むぐっ!?」

「彼女は僕の妹だ。僕達は商人の息子でね、それなりに裕福な暮らしをしていたんだけど、色々とあって今は彼等の元に世話になってるんだ。ねえ、船長?」

「え?あ、ああ……そ、その通りだ!!こいつらはもう俺の身内だ、手を出したら許さねえぞっ!!」

「…………」



ドリスが何かを口走る前にネココが黙らせ、アルトが誤魔化すと船長も口裏を合わせる。その態度を見てヤクラは黙り込むが、やがて腰に差していた剣から手を離す。



「……まあいい、それでお前等がこの化物を倒したというのは本当か?」

「ああ、嘘じゃねえ……こっちは10年以上もこの化物鯨を倒す事だけを考えてきたんだ」

「10年以上?待てよ、その各国……そうか、お前等がここらで噂になっている魔狩りとか名乗っている組織か」

「お頭!!あれを見てください、船が横転してますぜ!!」



会話の際中に他の盗賊が割込み、横倒れになっているヤマトを指差す。その様子を見てヤクラは納得したように頷き、笑い声を上げた。



「噂は聞いてるぜ、土鯨の野郎に家族を殺された集団が奴を倒すために砂船を作り上げて組織を作り出したってな!!それにしてもまさか、本当にあの化物鯨を倒すとはな……いやいや、素直に褒めてやるぜ!!やるな、お前等!?」

「うるせえ、こっちは他人に褒められるためにこいつをぶっ倒したんじゃねえ!!」

「おっ?威勢のいいガキがもう1匹いるな……何だよ、犬型か。俺は獣人族は猫型しか抱かないと決めてるんだよ。ガキは大人しくママのおっぱいでも吸ってろ」

「何だと!?」

「落ち着け、ポチ子」



ポチ子を見てあからさまにヤクラは落胆した表情を浮かべ、犬猫を追い払うように指を払う。その態度にポチ子は飛び掛かろうとするが、ゴンゾウが抑えつける。


唐突に現れて不遜な態度を取るヤクラに対して全員が怒りを抱くが、人数差は明白であり、ここで下手な対応をすれば全員の命が危ない。一方でヤクラの方は先に土鯨が殺されていた事に溜息を吐く尾が、ここで何か思いついたのか彼は呟く。



「あ、そうだ……別に土鯨の奴が死んでいようと関係ねえわ。要はこいつを殺したのを俺達の手柄にしちまえばいいんだからな」

「ふ、ふざけるな!!」

「何を言い出すんだ!?」

「そんな事がまかり通ると思ってるのか!?」

「……ああっ?」



ヤクラの発言に黙っていた船員も騒ぎ出すが、そんな彼等に対してヤクラは睨みつけると、そのあまりの気迫に気の荒い男達もすくみ上る。ネココもドリスもゴンゾウも船長さえもヤクラの気迫に怯み、声を出せない。


まるで大型の猛獣の如き迫力を醸し出すヤクラに全員がすくみ上り、彼の仲間達でさえも怯えた様に近付けない。その様子を見てヤクラは鼻を鳴らすと、腰に差していた剣を引き抜く。どうやら彼が扱うのは「カトラス」らしく、震え上がる魔狩りの集団んい告げた。



「お前等の意志なんて関係ねえんだよ。俺に逆らう奴等は殺す……文句があるなら前に出ろ」



ヤクラの言葉に全員の背筋が凍り付き、誰もが反論の言葉を口に出来なかった。だが、その中で一人だけ前に出る人間が存在した。

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