第245話 相手が悪かった
「あ〜……気持ち悪い」
「……あっ?」
「レノさん!?危ないですわ、その男から離れてください!!」
前に出てきたのは気絶していたはずのレノであり、彼は荒正を杖代わりにして前に出ると、ヤクラの元に立つ。薬の効果である程度の魔力は回復した様子だったが、気分が悪そうに口元を抑える。
ヤクラは目の前に現れた少年に訝し気な表情を浮かべるが、自分の殺気を浴びながらも前に出てきた彼に警戒心を抱く。だが、レノの方はヤクラを前にすると鞘から刃を引き抜き、身構えた。
「くそっ、ふらふらする……なんでこんな時に現れるのかな」
「……何だ坊主、まさかお前、俺とやる気か?」
「レノ君、いくら何でも無茶だ!!」
「……殺されるっ」
「お前等は黙ってろ!!」
レノを止めようと他の者が前に出ようとしたが、それに対してヤクラは怒鳴りつけると、迂闊に踏み込む事が出来なかった。一方でレノは両手に構えた荒正を地面に突き刺し、立っている事も出来ないのか膝を着いてしまう。
「ううっ……」
「おいおい、そんな様で俺と戦う気か?覚悟は認めてやるが、止めとけ……大人しくするなら身ぐるみ剥ぐだけにしておいてやるよ」
「……ねえ、一つ聞きたいことがあるんだけど」
「あん?」
膝を着いた状態でレノは右手で荒正を握りしめ、左手は砂の地面を押し付ける。その状態からレノはヤクラに話しかけると、彼はレノに視線を向けた。否、向けてしまった。
「あんた、他の奴等と比べて一番の小物だね」
「はっ……!?」
「だあっ!!」
武器も抜かずに自分を見下ろすヤクラに対してレノは笑みを浮かべると、左手に風の魔力を集中させ、地面の砂を巻き上げて放つ。その結果、風圧で巻き上げられた砂がヤクラの顔面へと襲い掛かり、彼は悲鳴を上げて顔面を抑える。
「ぎゃあああっ!?」
「目潰しっ!?」
「うおおっ!!」
まさかのレノの行動にアルトは驚きの声を上げるが、そこでレノの攻撃は止まらず、既に抜き身の刃で地面に突き刺していた荒正を掴むと、下から繰り出す。
巨人殺しの剣聖であるロイから教わった「地裂」の剣技、更にレノの付与魔術を組み合わせた一撃を放つ。殺さないように刃には風の魔力を纏わせ、勢いよく振り抜いた刃から風圧が発生してヤクラを吹き飛ばす。
「地裂!!」
「うがぁあああっ!?」
『お頭ぁあああっ!?』
100人の盗賊が自分達の頭目が吹き飛ばされる光景に唖然とした表情を浮かべるが、ヤクラは派手に吹き飛ぶと砂丘にめり込み、そのまま風圧の衝撃で意識を失い、白目を剥いたまま動かなくなった。
「ふうっ、奇襲成功」
「な、なるほど……」
「気分が悪そうだったのは演技でしたのね」
「……すっかり騙された」
「がっはっはっ!!やるじゃねえか、坊主!!おい、お前等!!俺達も負けてられねぞ!!人数差が何だ、やっちまえっ!!」
『うおおおおっ!!』
気分が悪そうなふりをして奇襲を仕掛け、見事にヤクラを倒したレノの姿を見て他の者達も奮い立ち、船長の指示の元で身に付けた武器を構える。
「く、くそっ!!こうなったら、皆殺しだ!!」
「頭の仇を討て!!」
「女は捕まえろ、上物ばかりだからな!!後でたっぷりと楽しんで……」
「爆炎剣!!」
盗賊達が襲い掛かろうと近づいた瞬間、ドリスは剣を構えると盗賊達の目の前で火炎に染まった剣を振り下ろすと、爆発が生じる。その結果、ドリスが剣を振り下ろした箇所にはクレーターが出来上がり、彼女は堂々とした態度で言い放つ。
「……私の名前はドリス、国王陛下から「爆炎の騎士」の称号を承った王国騎士ですわ!!」
「お、王国騎士だと!?」
「マジかよ!!」
「ええっ!?姉ちゃん、騎士だったのか!?」
「こいつは驚いたな……」
ドリスが王国騎士の名を語ると盗賊達は怖気づき、船長たちも彼女の正体を知って驚く。まさか彼女が王国騎士であるなど思いもしなかったが、盗賊達にとっては王国騎士の名前だけでも十分な驚異の対象だった。
頭であるヤクラは気絶し、更には王国騎士を名乗るドリスが現れた事で盗賊達は一気に士気が下がり、その様子を見てここでネココも魔剣「蛇剣」を掲げながら前に出る。
「……白獅子、ネココもいる」
「あれ、その渾名は嫌いじゃなかったっけ?」
「時と場合に寄る」
ネココが自分の渾名を名乗るとレノが不思議そうに首を傾げるが、彼女も本意ではないのか何とも言えない表情を抱く。そして蛇剣を振り抜くと、刀身がまるで蛇のように伸びると、盗賊が手にしていた剣を弾き返す。
「うわっ!?」
「ぎゃあっ!?」
「な、何だ!?」
「……魔剣、蛇剣の威力を解くと味わうがいい」
「ネココ、無理に大物ぶった演技はしなくてもいいと思うよ」
悪そうな表情を浮かべながら蛇剣を扱うネココにアルトはツッコミを入れると、盗賊達はレノとドリスだけではなく、また剣を変化させる力を持つ者が現れたと怯え、一気に戦意を失う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます