第246話 船の奪取

「く、くそっ……お前等、逃げるぞ!!」

「お頭がやられたんだ!!もう終わりだ!!」

「畜生、覚えてやがれ!!」

「あっ!?待ちなさい!!」

「逃がすんじゃねえぞ!!奴等の船があれば俺達も帰れる!!」

「おら、船寄越せやぁっ!!」

「……その台詞だと私達が盗賊みたい」



戦意を失った盗賊達は逃走を開始し、船の元に戻って逃げ出そうとした。だが、ここで取り逃がせばレノ達も帰る手段を失い、何としても彼等の船を奪取する必要があった。砂船さえあればこの場所から離れるのも容易く、拠点や街へ引き返す事が出来る。


100人を越える盗賊は3隻の船に向かうが、それに対してウルが先回りを行い、彼等の前に立つ。盗賊達は白狼種に乗り込んだウルを前にして怖気づく。



「ガアアッ!!」

「ひいっ!?お、狼!?」

「馬鹿、あれは白狼種だ!!」

「く、くそっ……」



ウルが船の前に立ち止まると、盗賊達は怯えて動く事が出来ず、他の船に逃げようとするがいつの間にかネココが先回りを行い、レノも魔法剣を発動した状態で待ち構えていた。



「……逃がさない」

「ここから先は通さないよ」

「こ、こいつら何時の間に!?」

「こうなったらやってやる!!お、王国騎士がなんだ!!こっちは氷結の騎士からずっと逃げ続けたんだぞ!!」

「それは良い事を聞きましたわ!!つまり、貴方達を捕まえればあの女の鼻を明かせるという事ですわね!!」



盗賊の言葉にドリスは嬉々とした表情で剣を引き抜くと、その後ろから船長たちも続き、盗賊達に殴り込みをかける。人数差はあるが、魔狩りには巨人族も複数名存在し、それに毎日のように砂漠の魔物と戦い続けた彼等の腕はそこいらの冒険者や傭兵にも劣らない。



「お前等、やっちまえ!!一人残らず捕まえろ!!」

「了解っ!!」

「おしゃあっ!!」

『うおおおっ!!』

『ひぃいいいっ!?』



四方を取り囲まれた盗賊達は一斉に襲われ、既に戦意を失っていた盗賊達を取り押さえるのに時間は掛からなかった。結果から言えば数分後には100人を越える盗賊は縄で縛りつけられ、船の前に佇む。


あっさりと盗賊達を捕まえる事に成功したレノ達は彼等が乗ってきた3隻の船を調べてみると、食料も水も有り余るほどに存在し、更に盗賊達がこれまで盗んできた金銀財宝も蓄えられていた。それを確認した船長は上機嫌に笑う。



「がはははっ!!こいつを見ろ、これだけあれば俺達全員が数年は遊び暮らせる程の宝物の山だぞ!!土鯨の討伐を報告する前に大金持ちになっちまったな!!」

「お待ちください!!この宝はこの盗賊が一般人から奪った宝物ですのよ!?それを勝手に使うなんて許しませんわ!!」

「おっと、そういえば嬢ちゃんは王国騎士だったな。なあに、冗談さ……だが、この船は有難く使わせてもらうぜ。これがなければ街にも帰れないからな」



船長の冗談にドリスは怒った風に答えるが、運良く砂船を手に入れたレノ達は街や拠点に帰還する方法を手に入れた。拠点に戻って土鯨を倒した事を報告すれば残された者達も喜び、そして街に戻れば土鯨の討伐を果たした事を国に報告できる。



「ドリス、やったね。盗賊王も捕まえる事が出来たし、それに土鯨の討伐も成功した。これで王国騎士の務めは十分に果たせたよね」

「いえ、この手柄は皆さんのお陰ですわ。私は特に何もしてませんのに……」

「何を言ってんだよ!!姉ちゃんのお陰であの化物を倒す事が出来たんだろ?なら、変な遠慮は無しだぜ!!」

「その通りさ、ドリス君も頑張ったから土鯨を倒す事が出来たんだ」

「……ドリスも頑張った」

「み、皆さん……!!」



土鯨の撃破にはドリスも貢献しており、少なくとも最後の樽爆弾による攻撃はドリスとレノが力を合わせなければ成功はしなかった。ドリスの爆炎の魔法剣とレノの風の魔法剣が組み合わさったお陰であれほどの大爆発を引き起こす事が出来たのも事実である。


一方で捕まった100人の盗賊はとりあえずは甲板に移動させる。奪った3隻の船に関しては魔狩りが運転を行い、とりあえずは盗賊達を乗せた船には見張り役としてレノ達も乗り込む事にした。後は元に戻るだけだが、ここで船員が船の中からとんでもない物を発見した。



「せ、船長!!見てください、こいつら変な物を運んでますよ!!」

「ああ?いったいどうしたんだ?」

「ほら、見てください!!この馬鹿でかい金属の包みたいな物を……中身の方はこんな物が入ってたんですよ!?」

「これは……魔石か?」

「何だこのデカい金属の塊は……鐘か?」



3出来の船の船首には巨大な金属の筒のような物が設置され、それを見た船長は首を傾げ、このような物は見た事がない。だが、彼等は知らないが船に乗せられた金属の塊は我々の世界で言う所の「大砲」と非常に酷似していた。

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