第247話 魔導大砲

「な、何だこいつは……こんなもん、見たことないぞ」

「船長も知らないのか?何なんだこれ……でかい鐘か?」

「ば、馬鹿!!それに迂闊に触れるんじゃない!!爆発したらどうする!?」

「爆発だと!?」



ポチ子が大砲のような兵器にコンコンと指を叩くと、その様子を見ていた捕虜にされた盗賊達が騒ぎ出す。その言葉に船長は彼等なら何か知っていると思って尋ねようとした時、ここで今まで黙っていた人間が語り出す。



「……そいつは魔導大砲だ、迂闊に触れたら大変な目に遭うぞ」

「てめえは……盗賊の頭だな」

「この男は盗賊王を名乗るヤクラという悪人ですわ」

「ちっ……思い出したぞ、てめえが最近噂になっている王国騎士だな。黒狼の壊滅に貢献した噂は耳にしてるぜ」



捕虜の中でも特に縄で厳重に縛り付けられたヤクラはドリスを憎々し気に睨みつけ、彼女が王国騎士を名乗った時からドリスの正体を見抜いていた。金髪の王国騎士は彼女以外には存在せず、先日に自分達と同盟を結んでいた「黒狼」が壊滅に追い込んだ王国騎士の一人であるため、その存在は知っていた。


貴族出身であるドリスに対してヤクラは敵意を剥き出しにするが、そんな彼に対して船長は近寄ると船に乗せられた「魔導大砲」なる物を尋ねる。



「おい、あれは何処で手に入れた?少なくとも、お前等のような盗賊が作り出せる代物じゃねえな」

「……なんで言い切れる?」

「ジン国の紋章が刻まれてるからだよ。国に敵対する奴等がわざわざそんな紋章を付ける必要がねえからな」

「なるほど、意外と頭が切れるな……その通りだ。そいつはジン国が開発中の兵器だ」

「ま、まさか……これがあの噂の!?もう完成していたというのですか!?」



ヤクラの言葉を聞いてドリスは衝撃を受けた表情を浮かべ、元々彼女もジン国に仕える王国騎士であるため「魔導大砲」の名前を耳にして思い出す。



「聞いた事がありますわ、近年の魔物の被害の増加を危惧した国王陛下が、大型の魔物を倒すために新しい兵器をは開発していると……その兵器の名前が魔導大砲だとお父様から聞いた事がありますわ。でも、完成するのはずっと先だと聞いていましたのに……」

「ふん、王国騎士の癖に何も知らされていないようだな……ジン国は既に魔導大砲の試作段階にまでこぎつけている。俺はこの魔導大砲を盗み出し、土鯨を討伐するためにここへ来たんだ」

「な、何を馬鹿なことを!?そもそも盗賊である貴方が土鯨を討伐した所で報奨金など得られるはずがありませんわ!!」

「そんな物はいくらでも誤魔化す事が出来る。要は金さえ手に入ればいいんだ、他の人間が倒した事に仕立て上げて金を俺達が頂く。それだけの話だ」

「馬鹿なことを……だいたいどうやって一介の盗賊が我が国の魔導大砲を盗み出したというのです!!」

「そこまで答える義理はないな」



ヤクラはドリスの問いには答えず、小馬鹿にしたような態度を貫く。一方でレノ達は魔導大砲と呼ばれる兵器に視線を向け、こんな物を国が作り出していた事に驚く。


対大型の魔物に対抗するために作り出された兵器ならば、土鯨に対抗する手段としてはヤクラが持ち込んできたという話も納得できる。しかし、いくら盗賊王と呼ばれるヤクラでも国がまだ開発段階の兵器を簡単に盗み出せるはずがない。この事にアルトはジン国の関係者にヤクラと繋がる物がいると考えた。



「大方、国の中に彼と繋がる内通者が存在して魔導大砲の情報を流して貰ったんだろう。その内通者に魔導大砲を盗み出すのに協力させて奪い取った、そんなところじゃないのか?」

「…………」

「……何も言わないなら肯定と受け取る」

「そ、そんな……いったい誰ですの!?誰が貴方に手引きしたんですの!?」

「ちっ、知るかよ」



アルトの言葉にヤクラは何も応えず、その反応を見たネココはアルトの推理が的中したと判断する。ドリスはヤクラに内通者の情報を吐かせようとするが、彼は答えるつもりがないのか黙り込む。


一部始終を見ていた船長たちは困った表情を浮かべ、国の重要機密に関わる兵器を乗せている事が判明し、これからどうすればいいのか相談する。



「おい、この兵器は相当にやばいもんだというのは分かったが、どう取り扱えばいいんだ?」

「そ、そうですわね……とりあえずは間違っても壊さないように気を付けるべきですわ。ひとまずは危険そうな物は近づけないようにさせないと……」

「なら、この魔石の塊は移動させた方がいいね。一旦、僕の収納鞄に保管しておくかな……」



魔導大砲の傍には複数の魔石を集めたかのような塊が存在し、もしも魔石が何らかの刺激を受けて爆発でもすればとんでもない事態を引き起こす事は、土鯨との戦闘で全員が分かっていた。


とりあえずは魔石の塊はアルトが収納鞄に収めようとした時、偶然にも砂漠の風景を見ていたポチ子が何かを見つけた様に騒ぎ出す。

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