第248話 思いもよらぬ再会

「お、おい!!見ろよ、砂船だ!!こっちの方に砂船が近付いてくるぞ!!」

「何だと!?まさかお前等、他に仲間がいたのか?」

「……知らねえよ」



ポチ子の言葉に驚いた船長はヤクラに視線を向けるが、その質問に対してヤクラも意表を突かれた表情を浮かべていた。それが演技に見えなかったレノ達はポチ子の示す方向に視線を向ける。



「よく見えませんが、本当に砂船なんですの?」

「間違いないって、ほらあそこを見ろよ!!」

「……確かに船が見える」

「ちょっと待って……あれ、あの旗はこの国の旗じゃないの?」

「レノ君、この距離から見えるのか?流石は山育ち……目が良いね」



視力に関してはこの場の誰よりも優れているレノは接近してくる船を観察すると、ジン国の旗が立っている事を確認する。しかも数は一つや二つなどではなく、合計で5隻の船が接近していた。


船は間違いなくこの場所に目掛けて移動を行い、どんどんと距離が縮まっていく。この地域は土鯨の住処であるため、滅多に砂船が近寄るはずがないのだが、5隻のジン国の砂船が近付いてくる光景に船長は焦った声を出す。



「おいおい、今日はどうなってやがんだ!?どうしてこうも砂船が集まってくるんだ!!」

「まさか、土鯨の討伐隊がまた派遣されたんじゃないのか!?」

「馬鹿な、そんな話は聞いていないぞ……」

「レノ君、王国の紋章以外に旗は見えるかい?」

「えっと……えっ!?あれって……白狼種の旗?」

「何ですって!?」

「ウォンッ?」



白狼種を想像させる狼の紋章の旗も存在し、その言葉を聞いたドリスは反応すると、一緒に砂船に乗っていたウルは首を傾げる。やがてジン国と白狼の紋章を掲げた5隻の船はある程度の距離まで近づくと、ヤクラが乗ってきた3隻の船を取り囲む。



『聞こえるか!!盗賊王ヤクラと、その配下達よ!!お前達は完全に包囲されている、今すぐに投降しろ!!』

「うわっ!?な、なんだこの馬鹿でかい声……」

「拡音石という音を反響させる魔石を使用しているんだろう。風属性の魔石の一種だが、こういう風に遠方の相手に声を伝えるために加工されて……」

「……今はそんな説明はどうでもいい、それよりもこのままだと不味い」

「くそっ、罠だったのか!?」



どうやら5隻の船はヤクラ達を捕縛するために派遣されたらしく、ヤクラはジン国の船に取り囲まれた事で悪態を吐く。だが、問題があるのはレノ達も一緒であり、この状況では誤解されかねない。



「おい、奴等こっちを攻撃する気満々だぞ!?」

「弓兵や魔導士も乗ってやがる!!」



5隻の船には大勢の弓兵が存在し、更にはローブを身に纏った「魔導士」らしき者達も見かけられた。下手な動きを見せればいますぐにでも攻撃しかねない状態であり、すぐに船長は仲間に指示を出す。



「おい、白旗だ!!他の船に乗っている奴にも知らせろ!!白旗を上げるんだ!!」

「は、はい!!おい、お前等!!早く白旗を振れ!!」

「お待ちください!!」



船長は白旗を上げて抵抗の意思がない事を示そうとしたが、ここでドリスは大声を上げて彼等を止めると、船首の方に移動を行う。彼女は5隻の船の中で唯一「白狼の紋章」が刻まれた旗を搭載した船に視線を向ける。


この国に置いて白狼の紋章の旗を持つ事が許されている存在は一人しかおらず、ドリスは苛立ち気な表情を浮かべながらも魔剣「烈火」を掲げ、大声を張り上げた。



「お待ちなさい!!私の名前は王国騎士のドリス!!セツナ、私の声が聞こえているのならば前に出なさい!!」

「セツナ!?」

「……あの時の王国騎士?」

「なるほど、白狼の紋章……という事はあれが噂の白狼騎士団か」



ドリスの声が砂漠に響き渡ると、やがて白狼の旗を掲げた船が接近し、その選手に一人の少女が立つ。少女の顔を見た瞬間、ドリスは表情を険しくさせ、一方で相手も眉をしかめる。



「……ドリス!!何故、お前がそこにいる?王国騎士の重圧に耐え切れずに盗賊に身を落としたか!?」

「ふざけないでくださいましっ!!そういう貴女こそ、どうしてここにいるのです!!」




――船首に立っていた少女の正体はドリスと同じく「王国騎士」の称号を持つセツナであり、彼女はドリスが盗賊の船に乗っている事に疑問を抱き、船首から話しかけてきた。




「私は任務で盗賊王ヤクラの捕縛に出向いただけだ!!そういうお前こそ、今まで何処を遊び歩いていた!!陛下もお前が王都に戻らない事に疑問を抱いておられるぞ!!」

「遊び歩いていたとは失礼ですわね!!それと生憎と、貴方達の探している盗賊王ヤクラは私と、私の仲間達と、魔狩りの方々に協力して貰って既に捕縛済みですわ!!嘘だと思うなら確認しなさい!!」

「何だと……!?」



セツナはドリスの言葉に驚き、すぐに捕まえているヤクラをネココが船首まで移動させる。その顔を見てセツナは本物のヤクラである事に気付き、苛立ちを隠しきれないように歯を噛みしめる。

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