第249話 ドリスとセツナ

「ほう、つまりお前は勝手に私の獲物を横取りしたというわけか?」

「あら、横取りとは聞き捨てなりませんわね。私は王国騎士として悪人を捕まえただけですわ、ねえ皆さん!?」

「えっ……う、うん」

「そ、そうだね」



いきなり話しかけられたレノ達は困りながらも頷くと、ドリスは上機嫌になりながらセツナに顔を向け、勝ち誇った表情を浮かべながら告げた。



「貴女が追い求めていた盗賊王のヤクラは私達の手で捕縛しました。それだけではありません、この街の脅威であった土鯨も私達の手で討伐を果たしましたわ!!」

「あの土鯨をお前が……?」

「嘘だと思うのならあれを見なさい!!」



ドリスは土鯨の死骸を指差すと、その光景を目にしたセツナは目を見開き、他の者達も信じられない表情を浮かべる。土鯨の存在はこの国の人間の間でも有名な存在であり、この国の最強の戦力である王国騎士が敗れた存在でもあるため、その名前を知らぬ騎士はいない。


その土鯨の死骸を見せつけられたセツナは内心では驚きを隠せず、まさかあのドリスが他の人間の協力があったからといって土鯨の討伐に成功したとは信じられなかった。



(馬鹿な、先代の王国騎士ですら討ち取れなかった怪物をドリスが討ち取っただと……有り得ない)



王都で暮らしていた頃のドリスの実力を知っているだけにセツナはドリスの言葉を聞いても信じられず、少なくとも魔石や魔剣に頼らなければまともに魔法剣を使えない人間が出来る芸当ではない。


今までセツナはドリスの事を見下していたのは魔力の技術が未熟過ぎて魔剣を使わなければ魔法剣も扱えず、その癖に自分と同格の王国騎士の称号を与えられたからであった。


セツナの場合は過去の実績と鍛錬で培った技術で王国騎士の座に就いたが、ドリスの場合は自分よりも未熟の癖に公爵家の習慣で王国騎士の座を与えられた事に不満を抱ていた。だから顔を合わせる度に彼女を馬鹿にしたような態度を取っていたが、土鯨の死骸を見せつけられてセツナは信じられない気持ちを抱く。



(あり得るはずがない、こいつにこんな力などないはず……奴を倒したのも他の人間の仕業に決まっている。となると……あの少年か!!)



船首の上からセツナはドリスの近くに立っている「レノ」の存在に気付き、彼女はレノの正体が先日のゴノ伯爵の屋敷に忍び込んだ侵入者である事は見抜いていた。


レノ達がゴノ伯爵の屋敷から退散した後、すぐにセツナはゴノ伯爵の不正の証拠を調べ上げ、彼が指名手配させていたレノの存在を改めて知る。ゴノ伯爵が捕まえた時にレノの指名手配も解除させたのもセツナであり、セツナはこの時にレノの情報を調べる。



(伝説の傭兵、巨人殺しの剣聖の弟子を名乗る少年……そして私と同じ魔法剣の使い手)



セツナはレノに視線を向け、自分やドリスと同じく魔法剣士の使い手であると知った時から興味を抱いていた。実際に屋敷で彼と戦った時は思いもよらぬ力を見せつけられ、取り逃がす羽目になってしまった。



(そうか、ドリス程度にあの化物を倒す力はない。きっと、あの少年の力を利用して奴を倒したのか。確かに私の魔法剣の氷を打ち破るほどの実力者ならばあり得ないはなしではない)



土鯨の討伐を果たせたのはドリスの力ではなく、レノの力があったからだとセツナは判断し、改めてレノに対して強い興味を抱く。だが、今は自分の任務の相手を勝手に奪い取ったドリスと話をする必要があった。



「前回の時は貴女に後れを取りましたが、今回ばかりは譲れませんわよ!!盗賊王ヤクラを捕まえたのはこの私……と、ここにいる皆様のお陰ですわ!!そして土鯨の討伐を果たせたのもここにいる皆の力ですわ」

「……ふん、その程度の事で威張るとは気の小さい女だ」

「何ですって!?」

「やるか?」

「いい加減にして下さい、御二人とも!!」



喧嘩腰の二人に白狼騎士団の副団長のリンが間に割り込み、リンは視線を鋭くさせてセツナを睨みつけると、ばつが悪そうに彼女も黙り込む。リンは改めてドリスの方に顔を向けると、頭を下げる。



「ドリス様、盗賊王ヤクラの捕縛は我々に与えられた任務です。なのでヤクラを引き渡して貰えますか?」

「ええ、構いませんわ。ですけど、陛下にはしっかりと報告して下さい!!盗賊王ヤクラを捕まえたのはセツナではなく、この私……と、ここにいる皆様のお陰だと!!」

「ええ、勿論です」



ドリスは勢いで自分だけの手柄にしようとしたが、思い留まって慌ててここにいる全員の力だと強調する。実際にヤクラを戦闘不能に追い込んだのはレノであり、その後に盗賊100人を捕縛する事が出来たのは他の仲間や魔狩りの協力があってこそである。


王国騎士として相応しい功績を残したいと願う彼女だが、他人の協力を得て手に入れた手柄を独り占めする事は彼女に騎士道精神に反すると判断し、決して自分の力だけで功績を上げたわけではない事を素直に主張した。

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