第250話 ドリスとセツナの腕試し
「それと土鯨の討伐の件に関してですが……土鯨の討伐を果たしたのはここにいる魔狩りの方々のお陰ですわ。なので土鯨の報奨金を彼等に渡すように陛下に頼んでくれますか?」
「お、おう……頼むぜ、俺達は奴を倒すのに砂船がぶっ壊れちまってな。正直、生きていくには金が必要なんだ」
「なるほど……分かりました。ではその件も陛下に報告いたしましょう。私達はこれから王都へ向かうので、誰か動向を願えますか?」
「そういう事なら俺が行く。だが、王都へ辿り着くまで俺の部下たちはどうすればいい?砂船を失った以上、こいつらだけで生活するのはきついんだが……」
「それならば国が管理している砂船を一隻貸しましょう。当面の生活費の方も工面致します」
「本当か!?そいつは助かるぜ!!」
リンの言葉に船長は安堵した表情を浮かべ、報奨金が届くまで砂漠に残る者達の生活は心配せずに済む。報奨金を受け取れれば莫大な資金が手に入るため、金さえ入れば新しい砂船を購入して生計を立てられる。
これで心配事はなくなったと皆が安堵する中、ドリスはセツナに視線を向け、彼女は若干緊張した表情を浮かべながらもセツナに語り掛ける。
「セツナ!!」
「……何だ、まだ何か言いたいことがあるのか?」
「ええ、今日を逃せば次にいつ出会えるか分かりませんもの……セツナ、貴女に腕試しを申し込みますわ!!」
「ドリス様!?」
「……ほう」
ドリスの言葉にリンは驚愕し、その言葉を聞いてセツナも驚いたように目を見開く。レノ達もドリスの唐突な発言に動揺するが、ドリスは真剣な表情で魔剣を抜くと、セツナの刃先を向けた。
「王国騎士同士の決闘は禁じられていますわ!!しかし、腕試しという名目ならばあなたと剣を交える事が出来ます!!これはあくまでも互いの腕を確認するための儀式、何も問題はないはずですわ!!」
「ドリス様、お考え下さい!!セツナ様の実力はドリス様もご存じでしょう!?」
「ええ、よく知っていますわ……ですが、私も昔の私ではありませんわ!!」
かつてドリスはセツナと幾度か勝負をした事は遭ったが、結果から言えばドリスは一度たりともセツナに勝利した事はない。それを踏まえてドリスはセツナに挑む事を決め、今の自分の力を彼女に見せつけたいと考える。
ドリスの言葉にセツナは最初は黙っていたが、やがて口元に笑みを浮かべると自分の腰の剣を抜く。お互いに剣を構え合うと、名乗り合う。
「王国騎士ドリス……腕試しを申し込みますわ!!」
「……王国騎士セツナ、腕試しを受諾する!!」
二人は船首から飛び降りると、砂漠へと降りたつ。その様子を慌ててレノ達は船の下から覗き込むと、二人は剣を構え合う。既に勝負は始まっているらしく、先にセツナが魔法剣を発動させる。
「氷結剣」
「出ましたわね……!!」
セツナの剣の刀身が凍り付き、冷気を迸る。その光景を目にしたドリスは冷や汗を流しながらも自分も剣を構え、精神を集中させるように自分も抜き身の状態で魔法剣を発動させた。
「爆炎剣!!」
「ほうっ……少しは魔力を操作する技術を身に付けたようだな」
ドリスが鞘に納めず、抜き身の状態で魔法剣を発動させた事にドリスは驚き、王都に存在した頃のドリスは鞘に取り付けた火属性の魔石の力を借りなければ魔法剣も発動する事も出来なかった。しかし、今現在のドリスはレノの指導の元で自力で火属性の魔力を引き出し、抜き身の状態でも瞬時に魔法剣を発動する事が出来た。
自力で魔法剣を発動させたドリスにセツナは素直に感心し、少しは腕を上げた事を認める。しかし、多少は魔力操作の技術を身に付けた所で自分に及ぶはずがないと判断し、彼女はドリスに目掛けて剣を突き出す。
「氷華!!」
「はあっ!!」
セツナの剣先から氷の華を想像させる氷像が誕生すると、ドリスに向けて発射される。その攻撃に対してドリスは爆炎を纏った剣を振り払うと、見事に氷華を打ち砕き、蒸発させる。火力の方も確実に以前よりも上昇しており、以前の彼女ならばこの一撃で終わっていた。
「成程、確かに少しは成長したようだな……だが、この程度の力で私に敵うと思うな!!」
「貴女こそ、何時までも私を舐めていたら痛い目に遭いますわよ!!」
「ほざけっ!!調子に乗るな!!」
ドリスとセツナは同時に駆け出すと、お互いの剣を躱す。あらゆる物を凍りつくそうとする冷気と、強烈な火炎を纏う剣が衝突し、氷の魔力と炎の魔力が凌ぎ合う。
火属性の魔力を練り上げれば「炎」と化し、水属性の魔力を極めれば「氷」と化す。二人の魔法剣はレノでも真似できず、一つの属性のみに特化させた魔法剣である。互いに相反する属性同士のため、剣が触れ合うだけで魔力同士が反発し、二人は弾かれるように離れる。
※申し訳ありませんが、今後は1日3話投稿になります。
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