第257話 砂漠の英雄
――その頃、砂漠の魔物の討伐を無事に終え、手に入れた魔物の素材を売り捌くために街にレノ達を乗せた砂船はムツノの街へと辿り着く。ムツノは以前よりも活気に満ちており、土鯨という脅威が完全に無くなった事で観光客が非常に多く出入りしていた。
「さあさあ、ムツノの街の新名物!!土鯨の素材で作り上げた土産品はいかがですか!?」
「ほらほら、お客さん!!この武器は土鯨の素材から作られてるんだよ!!良かったら買って行きなよ!!」
「さあさあ、他の人に買われる前に買って行きなよ!!」
街中では土鯨の討伐を記念し、様々な商品が販売されていた。その中には土鯨の素材を利用したと明言している店も多数存在する。これまで散々に苦しめられてきた土鯨ではあるが、その脅威が消えた事で街の住民も嬉しそうであった。
砂漠に暮らす者にとって土鯨は脅威であり、同時に憎むべき存在でもあった。土鯨によって大切な人や物を殺されたのは魔狩りだけではなく、この街の住民も同じである。貴重な収入源である観光客も訪れなくなった原因は土鯨でもあるため、誰もが土鯨の討伐を果たした魔狩りの人間達を褒め称える。
「おっ、来たね!!我等が街の英雄だよ!!」
「おう、魔狩りじゃないか!!今日も来てくれたのか!!」
「うちに寄って行きなよ!!あんたらなら飯は無料にしてやるからさ!!」
「魔狩りだと!?あの土鯨を倒したという集団か!!」
「冒険者や傭兵でもないのにあんな化物を倒すとは……」
レノ達が街中に入るとすぐに人だかりができてしまい、誰もが土鯨の討伐を果たした魔狩りを褒め称える。街の人間にしてみれば自分達を苦しめた土鯨を討伐した魔狩りは英雄であり、歓迎してくれる。そんな彼等の反応にゴンゾウ達は悪い気分はしない。
「へへっ、なんか照れ臭いな……」
「ふっ……俺達の苦労も報われたな」
「わ、私達も少し恥ずかしいですわね……」
「遠慮する必要はない、私達は間違いなくこの街を救った英雄。胸を張ればいい……」
「胸を張る……こうですの?」
『おおっ!?』
ネココの言葉にドリスは言われた通りに胸を張ると、この際に彼女の胸元が揺れ動き、それを見ていた男性陣が注目する。その様子を見てネココは気に入らなそうにドリスの尻を叩く。
「……ていっ」
「きゃんっ!?な、何でお尻を叩くんですの?」
「何となく」
「やれやれ、二人とも少しは落ち着いたらどうだい?土鯨を倒したからって、少しはしゃぎすぎてるんじゃないのかい?」
「きゃあ、アルト様♪」
「また店にいらしてくださいね♪」
二人を注意しながらもアルトは両腕にこの街に暮らす女の子を抱き寄せ、何時の間にか複数の女性に彼は囲まれていた。ネココ達よりもよほどアルトの方が調子に乗っているように見えるが、その一方でレノの元にも群がる人物はいた。
「お、おい!!あんたがあの噂の巨人殺しの剣聖の弟子か!?」
「あ、はい。一応はそうですけど……」
「すげぇっ……巨人殺しの弟子が土鯨を討伐したというのは本当の話だったのか」
「巨人殺しの弟子が巨大鯨を殺した……つまり、巨鯨殺しかっ!!」
「その例えはよく分からないんですけど……」
以前からレノの存在は他の人間にも知れ渡っていたが、土鯨の討伐に貢献した事でより一層にレノの名前は広まったらしく、冒険者や傭兵の間では有名な存在になりつつあった。
元々、傭兵の間では伝説として語りつ嗅がれる巨人殺しの弟子というだけでも凄い話なのだが、更に砂漠の主と呼ばれた土鯨の討伐にも参加していたとなれば話題にならないはずがない。
「お、おいあんた!!巨人殺しの話を聞かせてくれよ!!俺、実はあの人に憧れて傭兵になったんだ!!」
「巨人族共を圧倒した剣技、見せてくれよ!!」
「金は払う、だから色々と聞かせてくれないか!?」
「いや、そういうのは……」
「そこまでにしておけ、迷惑がっているだろう」
詰め寄ってくる傭兵達にレノは困り果てると、様子を見兼ねてゴンゾウが前に出る。巨体の彼を前にして傭兵の殆どはたじろぎ、渋々と引き返す。その様子を見てポチ子は面白そうにレノの肩に手を置く。
「兄ちゃんもすっかり有名人だな。まあ、兄ちゃんがいなければ土鯨の討伐なんてできなかったもんな」
「そんなことないよ、結局は俺は土鯨の気を引く事しか出来なかったし……」
「それこそ謙遜が過ぎますわ。あの時、レノさんがいなければ私達は助かりませんでしたわ」
「……きっと、全員が殺されるか蒸し焼きになっていた」
遅れ着たとはいえ、レノが土鯨との戦闘で注意を引いてくれたお陰でネココ達は反撃の準備を整え直す事が出来た。しかし、土鯨との戦闘に関してはレノも色々と思う所があるらしく、黙って彼は自分の腰に差している荒正に視線を向けた――
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