第258話 魔法の属性と段階
――その日の晩、魔狩りの拠点に戻ったレノは皆が寝静まったころ、誰にも気づかれないように部屋の外に出ると、荒正を片手にウルの元へ赴く。ここ最近はウルは拠点で過ごす事が多く、砂船を出す場合は彼を連れていく事はない。
砂漠ではウルは平地と比べると移動速度は出せず、ましてや船の上ではウルも思う存分に戦う事は出来ない。そのため、日中のウルは拠点の子供達の遊び相手や、拠点の近くに現れる魔物を狩猟して過ごしている。しかし、こうして夜中にレノが訪れると、彼は眠気を抑えてレノの元へ赴く。
「ウォンッ」
「よしよし……それじゃあ、今日も行こうか」
レノは他の者に気付かれないように外へ抜け出し、夜の砂漠を移動する。日中と比べて夜の砂漠は非常に冷えるため、しっかりと防寒具を身に付けていないと凍え死んでしまう。
「ううっ、寒い……ウルは平気なの?」
「ウォンッ!!」
ウルは暖かな毛皮で覆われているので大丈夫だとばかりに吠え、元々白狼種は寒い地方に生息する魔物であるため、夜の砂漠でも平気らしい。レノは拠点からある程度離れると、ウルから下りて荒正を引き抜く。
「よし、ここでいいかな。ウル、巻き込まれないように少し離れてて」
「クゥ〜ンッ」
レノの指示にウルは従い、レノの後ろに下がってお座りの体勢で待つ。自分の訓練のためにウルを突き合わせる事にレノは悪い気がしたため、彼のために昼間に購入しておいた干し肉を与える。
「これをあげるから大人しくしててね」
「ウォンッ♪」
嬉しそうにレノが放り投げた干し肉にウルは噛みつくと、その様子を見てレノは笑みを浮かべるが、すぐに気を取り直して剣を構える。レノは荒正を引き抜くと、まずは刀身に風の魔力を送り込み、刃を放つ。
「はあっ!!」
砂漠に無数に存在する砂丘の一つにレノは「嵐刃」を放つと、刃から離れた風の魔力が砂丘に衝突した瞬間、派手に吹き飛ばす。その光景を見てレノは砂丘の状態を確認し、ため息を吐き出す。
レノの嵐刃は至近距離ならば鋭い切れ味を誇り、鋼鉄さえも切り裂く程の威力は存在する。しかし、距離が離れると威力は各段に落ちてしまう。魔石からも魔力を引き出せば射程距離はのびるのだが、魔石は消耗品のため、あまりに頼り過ぎない。
「もっと嵐刃の威力と精度を上げないと……」
土鯨との戦闘ではレノは自分の力不足を思い知り、結局は土鯨に対して有効的な損傷は与えられなかった。レノの攻撃は眼球への攻撃は除くと、土鯨に対して実は有効的な損傷は与えていない。
(水属性の魔力を利用して岩石の皮膚を引き剥がす事は出来たけど、結局のところは俺の力だけだと岩石を斬る事も出来ないんだ……)
魔石の力を借りればレノは風属性以外の魔力を引き出し、攻撃に利用する事は出来る。しかし、いざという時に魔石が手元に存在しない場合はレノが頼れるのは自分に適性がある「風属性」だけである。
今までのレノは魔石の力を利用し、他の属性の魔力を利用した戦い方にばかり頼ってきた。その事が間違いだとは思っていないが、以前にレノは捕まった時、手持ちの武器や魔石を奪われた事を思い出す。
(このままだと駄目だ……魔石に頼らずに戦える方法を身に付けないと)
レノの脳裏に二人の顔が思い浮かび、一人はレノもよく知っている人物であり、魔力操作の指導を行った「ドリス」そして彼女と同じく王国騎士の座に就く「セツナ」の顔が頭に浮かぶ。
(あの二人は俺の様に複数の属性を扱ってはいない。それでもあの二人の魔法剣は俺の魔法剣よりも凄かった)
ドリスにしろ、セツナにしろ、彼女達が扱う魔法剣はレノが扱う魔法剣よりも威力が高かった。実際にドリスの爆炎剣はレノの火炎剣よりも火力が大きく上回り、セツナの魔法剣はレノの火炎旋風をも防ぎきるほどの力を誇る。
(あの二人は一つの属性を極めて、より上の段階に至ったんだ……なら、俺も二人のように自分の属性を磨かないといけない)
ドリスの場合はレノよりも火属性の適性が高く、彼女は「炎」の力を操る。一方でセツナの方は水属性を極めており、その「氷」の力は計り知れない。同系統の魔法の属性の適性があるといっても、その適性の高さによって性能は大きく異なる。
レノが得意とするのは「風属性」である事は間違いなく、子供の頃から風属性の魔力だけは扱えた。この風属性の魔力を極めればより大きな力が手に入ると確信し、連日の間、レノは魔石も頼らずにと特訓を行う。
「もっと早く、もっと魔力を練り上げないと……」
「クゥ〜ンッ」
「ん?あ、水筒……ありがとう、ウル」
気が張り詰めているレノに対してウルは運んできた荷物の中から水筒を見つけ出し、レノに渡す。その行為にレノは感謝すると、水筒を受け取る。訓練を始めたばかりではあるがレノは掌に汗が滲んでおり、やはり魔石を使用しないと魔法剣の発動は肉体に負荷が大きい事を改めて思い知る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます