第256話 他の王国騎士の不満

「ふうっ……光の剣の継承者、か」

「宰相、このような場所でどうされたのですか?」

「ん?その声は……おおっ、お主だったか」



宰相は声の聞こえた方を振り返ると、そこには一人の騎士が立っていた。セツナ、ドリス、ヒカリと同じく「王国騎士」の座を与えられた人物である。


名前は「ライコウ」と呼ばれ、彼はドリスとセツナと同様に「魔法剣士」である。年齢は30才で王国騎士の中では一番の最年長者であり、唯一の男性でもあった。



「ライコウ、久しいな……だが、急にどうしたのだ?お主がここに来るという話は聞いていなかったが……」

「火急の件につき、領地を離れてこの地に参りました」

「何?北の領地で何か起きたのか!?」



ライコウはジン国の北方の領地の守護を任され、彼は王国騎士の中で最も大きな領地の管理を任されている。ライコウが管理する領地の更に北には別の国が存在し、彼は北方領地と国境の警備を任されている。そんな彼が王都に急に訪れた事にユーノは驚き、何事か起きたのかと心配した。



「いいえ、今のところは北の地に何も問題は起きておりませぬ。本日、ここへ参ったのは国王陛下にお会いするためでございます」

「陛下に?急に何故……何か気になる事があるのか?」

「ええ、最近に王国騎士になった少女の事に関してです」

「ヒカリの事か?」



北の領地を任されているライコウの耳にもオリビアの専属騎士にして王国騎士の位を与えられたヒカリの名前は伝わっていた。その事に関してはライコウは国王に上奏したい事があるため、わざわざ訪れたという。



「最初に報告を受けた時、耳を疑いました。貴族の出身でもなく、ましてや人間でもないエルフの少女がいきなり王国騎士に任命されたと聞き、居ても立っても居られずにここへ参りました」

「むうっ……その口ぶりから察するにお主はヒカリを王国騎士に加えた事を不満に思っているのか?」

「その通りです。無論、そのヒカリというの者がオリビア様の命を救い、そして勇者の剣を手にしていたという話も聞いております。しかし、私としましては出自もはっきりとしない者に国の重要な地位を任せる事に納得できませぬ」



ライコウは国王がヒカリに王国騎士の座を与えた事が納得できず、異議を申し立てるためだけにわざわざ北方の領地から訪れたという。その話を聞いてユーノは戸惑いながらも、確かに彼の言葉には一理あると思った。


ユーノが知る限りではライコウは真面目な男であり、王国騎士の最年長者として相応しい振る舞いを行っていた。本来ならば王都の守護を彼が任されてもおかしくはないが、本人の希望でライコウは自らの意思で北方の領地の守護を行う程である。国王からの信頼も厚く、民衆からも慕われている彼だが、真面目過ぎる面があった。



「そのヒカリという者に既に陛下が王国騎士の地位を与えられたのは仕方がありませんが、どうして私に一言も相談せずに王国騎士の座を与えたのか……それが不満でなりません」

「うむ、確かにお主の気持ちはよく分かるぞ。だがな、ライコウよ……ヒカリは確かに年齢的には若く、精神面が未熟な部分もある。しかし、儂の目から見てもあの娘の強さは本物だ」

「……宰相、それは本気でいっているのですか?強いだけでは王国騎士の座に就く事など有り得ません。王国騎士とは皆に認められるほどの実績を築き上げ、初めて成れるのです。いくら強いといっても、所詮は一人で行える事は限られています」



宰相の座に就くユーノさえもヒカリの事を認めている事にライコウは信じられない表情を浮かべ、彼としては王国騎士は確かな実績を残し、皆から認められる程の功績を残した者だけが相応しいという考え方だった。だが、そんな彼にユーノは告げる。



「お主はヒカリの事を知らないからそう言えるのだな……」

「何ですと……それはどういう意味ですか?」

「……ライコウ、これ以上にお主に儂が話しても意味はないだろう。陛下に異議を申し立てるのであれば好きにすればいい。だが、陛下の意思は変わらぬだろうな」

「何故ですか!?それほどまでに陛下はヒカリという者を認めているのですか!?」

「認める、認めないの問題ではない……お主も実際にヒカリに会ってみるがいい。そうすればお主も陛下があの娘を認めた理由が分かるであろう」

「何ですと……?」

「さっき、お主はこう言っていたな。いくら強くとも、一人で行える事は限られていると……少し前の儂も同じ考えだった。だが、ヒカリの戦いぶりを見て考え直されてしまった。真の強さとはあらゆる事を可能にするとな」

「……真の、強さ?」



ユーノの言葉にライコウは愕然とするが、そんな彼にユーノは黙って肩に手を置くと、その場を去った。その様子をライコウは呆然と見送る事しか出来ず、彼の言葉の意味が理解できなかった。


しかし、それから数時間後、ライコウはユーノの言葉の意味を身をもって実感する事になるなど思いもしなかった――

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