第255話 ヒカリとオリビア

「ユーノ宰相!!ヒカリ様だけではなく、オリビア様の姿も見えません!!どうやらまた、御二人だけで王城を離れて城下町へ向かったそうです!!」

「な、何じゃと!?おのれ、また二人だけで街へ遊びに出かけたのか!!」

「あの真面目なオリビア様がまた勝手に出かけられるなど……これもヒカリ様の影響でしょうか」

「むむむ……大方、あの娘が無理やりに連れ出したのであろう」



オリビアは3人の王女の中でも真面目な人物であり、勝手に城下町に出向いた事などなかった。しかし、ヒカリが訪れてからは以前と比べて行動が活発的になったというか、ともかく二人で行動を共にすることが多い。


ヒカリが騎士に任命されてからは二人は友人のように親しい関係を築き、共に行動する事が多く、その事自体は別に悪い事ではない。ヒカリは王国騎士ではあるが、あくまでもオリビアの専属の騎士であるため、行動を共にするのは当たり前だった。


だが、自由奔放なヒカリの影響を受けてオリビアも最近は彼女に合わせるように問題行動を起こし、最近では護衛を連れずに勝手に城下町に抜け出す始末である。他の二人の王女と比べればオリビアは一番手間が掛からず、大人しい子だったが故に宰相は頭を悩ませる。



「はあっ……あの娘のせいでどんどんとオリビア様は変わられていく」

「ですが……その、昔よりもよく笑われるようになったと思います。前よりも明るくなったというか、おどおどしなくなったというか……」

「むうっ……お前達にはそう見えるか?」

「はい、そう思います」



兵士の言葉を聞いて宰相は昔のオリビアの事を思い返し、言われてみれば確かにオリビアはヒカリの影響を受けてどんどんと明るい性格になっていくような気がした。ヒカリと出会う前の彼女は素直ないい子だったが、何処となく他の子供と比べても暗い印象があった。


オリビアは小さい頃から人のいう事をよく聞き、手も掛からない子供だった。それだけに国王は彼女を溺愛し、他の二人の姉よりも一番可愛がっていた。だが、最近はヒカリの影響のせいか前の頃の性格と変わり始めているように感じた。



「ユーノ宰相、ヒカリ様の事はお嫌いですか?」

「嫌い、とは違うな……確かに面倒事をよく起こすし、礼儀作法もなっていない娘だが……それでも悪い子ではない」

「ええ、我々もそう思います」



ヒカリのせいで彼女の配下の兵士や宰相は苦労を掛けさせられるが、不思議と彼女の事を嫌な存在とは思えない。これまでに度々に迷惑を掛けられているのは事実だが、その一方でヒカリには人を引き寄せる魅力がある様に思えた。


ヒカリは伝説の勇者が所持していた「光の剣」の継承者であり、もしかしたら人が彼女に魅かれるの彼女が勇者と同じ力を持つ存在だと認識しているからかもしれない。勇者はどんな時代でも英雄としてあがめられ、慕う人間が多かったという。



「では宰相、我々はヒカリ様とオリビア様の捜索へ向かいます」

「うむ、お前達も苦労を掛けるな……あの二人が戻ってきたときはしっかりと説教してやろう」

「はははっ……では、失礼します」



兵士達が城下町へ向かうと、その様子を見送った宰相はため息を吐きながらも昔の事を思い出す。子供の頃のオリビアはあまり笑顔を浮かべなかったが、最近のオリビアはよく笑うようになった。それもヒカリという存在のお陰であるのは間違いない。



(思えばオリビア様の周りには同世代の女子など寄り付く機会などなかった……オリビア様からすればヒカリは初めての同世代の友達かもしれん。だからあんなに懐かれておられるのか)



王女でえあるオリビアは普通の子供と違い、同世代の子供と接触する機会は少ない生まれてからずっと王城で暮らし続け、接する相手は殆どが大人だった。時折、高位の貴族の令嬢と接触する機会はあったが、貴族の子供であっても身分の違いからオリビアに対して対等に接する事は許されない。


しかし、ヒカリの場合は「光の剣」の所有者だけはあり、彼女もまた特別な存在である。そのために国側としてもヒカリは無下には出来ず、彼女がオリビアと普通に接しても滅多な事では咎められない。


ヒカリも今まで自分と同世代の女友達はおらず、里にいた頃は彼女以外の子供は男性ばかりだった。一応は女子もいなかったわけではないが、族長の娘であるヒカリと積極的に接しようとする女の子はいなかった。それだけにヒカリにとってもオリビアは初めての女友達ともいえる。


境遇が似ているせいか、二人は性格は大きく違うが非常に気が合い、度々周囲の人間に迷惑を掛けながらも上手くやっていた。オリビアが明るく笑えるようになったのもヒカリのお陰であるため、ユーノも彼女の事を憎めなかった。

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