第254話 その頃の王都では
――土鯨の討伐が果たされた後、偶然にも盗賊王の一件も片付いたレノ達はしばらくの間は魔狩りの拠点で滞在する事にした。理由としては土鯨の討伐の報奨金を得るために王都へ向かった船長を待つためであり、土鯨の討伐に貢献したレノ達も報奨金を受け取る権利はある。
土鯨の賞金額は凄まじく、少なくとも魔狩りの拠点に暮らす者達とレノ達を合わせても一人当たり金貨10枚支払われる。それほどまでに土鯨は国の脅威として認識されていた事を示す。
「見つけたぞ!!砂鮫の群れだ!!」
「網を投げ入れろ!!噛み千切られる前に引き上げろ!!」
「はい、分かりました!!」
土鯨の脅威が無くなった砂漠に魔狩りの旗を上げた砂船が移動し、砂漠を泳ぐ魔物達を追い立てる。普段の魔狩りは砂の中に潜む魔物を捕縛し、それらを討伐した後に解体し、それを街で売り捌いて生計を立てている。
船長が戻るまでの間、レノ達も魔狩りの手伝いを行い、彼等の手伝いを行う。特に危険な魔物が現れた場合、レノ達が対処する事が多かった。
「ギュロロロッ!!」
「うわっ!?後方からサンドワームが出現した!!このままだと甲板に飛び移ってくるぞ!!」
「任せてください!!前回の借りは返しますわ!!」
「……前の様にはいかない」
サンドワームが砂の中から出現すると、砂船に向けて接近し、勢いよく跳躍を行って甲板へと移動を行う。それを確認したドリスとネココが対処し、彼女達は剣を振り抜く。
「爆火斬!!」
「ギュロォッ!?」
甲板に飛び込んできたサンドワームに対してドリスは空中に跳躍して剣を叩きつけると、剣に纏った炎が爆散する。それによってサンドワームの鱗と皮膚が剥がれ落ちると、続けてネココが蛇剣を突き刺す。
「刺突!!」
「ギュアアアアッ!?」
「す、すげぇっ!?」
「あのサンドワームをこうもあっさり……」
「何て女の子達だ……」
頑丈な鱗と皮膚を失った箇所にネココは剣を突き刺し、心臓が存在する部分を的確に貫く。その結果、かつてはあれほど苦戦したサンドワームをあっさりと倒す。
サンドワームの死骸が甲板に横たわると、何処からともなくアルトが現れて死体を観察するように虫眼鏡を取り出す。若干、興奮気味にアルトは死骸を調べ上げる。
「こ、これは……素晴らしい!!このサンドワームは生殖器の形は雌だよ、初めて見た!!調べがいがありそうだ」
「あの、兄ちゃん……さっさと死体を解体しないと腐っちまうから、離れてくれないか?」
「待ってくれ、もう少し調べさせてくれ……ああ、やはり雄と雌では形が微妙に違う。むっ!?メスの方が胸元が大きい……そうか、これは乳房か!!」
「おい、この兄ちゃん何なんだよ!?」
折角倒したサンドワームの死骸の前にアルトがしゃしゃり出たせいで解体も出来ず、船員は困り果てる中、ここで船首の方で周囲を見渡していたポチ子が声を上げる。
「おい、皆!!前方の方で砂塵が舞っている!!砂嵐かもしれない、引き返した方がいいぞ!!」
「何!?おい、すぐに戻るぞ!!砂嵐に巻き込まれて横転したら終わりだ!!」
「ほら、兄ちゃんもそこを退いてくれよ!!砂嵐が来る前にこいつを解体して不必要な部分は捨てなきゃならねえんだよ!!余計な荷物を減らさないといけないからな!!」
「ああっ!?待ってくれ、もう少しだけ……」
「アルト、わがまま言わないで!!ほら、サンドワームならまた倒してあげるから!!」
「たくっ……騒がしい兄ちゃん達だな」
砂船の甲板で騒ぎ出すアルトたちの姿を見てポチ子は肩をすくめ、彼女は遠くの景色を眺めた。ここからはみえるはずがないのだが、今頃王都に向かった船長の事を想い浮かべる――
――ムツノから王都までは移動するのに最低でも一週間はかかり、その間に「シチノ」という街を経由しなければならない。この街を通り過ぎれば次は王都へと辿り着ける。レノの最終目的地であり、この国で最も栄えた都市でもあった。
王都には白狼騎士団の団長であるセツナが守護を任されているが、彼女が任務の間は他の王国騎士が守護を任される。そして現在、王都の守護を任されているのは最近になって王国騎士に抜擢された「ヒカリ」という名前のエルフの騎士である。
「ヒカリ様!!ヒカリ様はおられますか!?」
「駄目だ、こちらにもおられない!!」
「いったいどこへ消えたのだ!?」
しかし、王都の守護を任されているはずのヒカリは王城から忽然と姿を消し去り、必死に兵士達は捜索を行う。仮にも王都の守護という大任を任されているにも関わらず、ヒカリは自由奔放に振舞い、自分の配下にさえも行先を告げずに消える事がよくあった。
「ええい、あのおてんば娘め……今度は何処へ消えおった!!」
「さ、宰相!!」
「申し訳ありません、ヒカリ様の姿は未だに見つからず……」
王城内には宰相を務める「ユーノ」という名前の男性が存在し、名前は可愛らしく聞こえるが年齢は国王と同じく70代の高齢者である。長くこの国を支え続け、若いころは将軍の座に就いていた事がある文武共に優れた男性だった。
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