第253話 閑話《タリヤの苦難》
――翌日、ヒカリの捜索のためにタリヤ達は外の世界へと飛び出す。彼等は外に出る際に数日分の食料と水、更に里で飼育している馬を与えられた。
「いいか、お前等!!僕のためにヒカリを連れ戻すんだ!!あいつと結婚すれば僕は族長になれる、その時はお前等もそれなりの立場を与えてやるからな!!はっはっはっ!!」
『…………』
タリヤは森の外に離れると、自分と同じようにヒカリの捜索を申し込んできた若者たちに普段通りに従えようとした。里にいる間の彼は他の若者を従える立場だったが、ここで一人のエルフが拒否した。
「タリヤさん……俺は一人で行かせてもらいますよ」
「な、何だと!?何を言ってるんだ?」
「俺はヒカリさんの事が好きだ!!あの人の婚約者になるのは俺なんだ!!」
「お、お前……何を言っている!!お前みたいな奴がヒカリの婚約者になれるわけがないだろうが!!」
「いいや、族長は言ってくれた!!ヒカリ様を連れ戻せばその男を婚約者にするとな!!もうあんたに従うのは御免だ、俺は抜けさせてもらうぜ!!」
「あっ!?お、おい待て!!」
一人がタリヤの元に離れると、他の者はその様子を見て唖然とするが、彼の言葉を聞いて何か思い至ったのか、次々とタリヤの元から離れていく。
「俺も行くぜ!!」
「僕もだ!!」
「もうお前の下っ端なんて御免だ!!」
「ま、待て!?お前等、自分が何を言っているのか分かってるのか!?僕を誰だと思って……」
「うるさい!!ヒカリ様を連れ戻せば族長になれるんだ!!もうお前なんか怖くないぞ!!」
これまでにタリヤに従ってきた者は彼の父親のヤザクを恐れていたからだが、外の世界に来た以上はタリヤはヤザクに頼る事は出来ず、ヒカリを連れ戻す事が出来れば族長の地位は約束される。
内心はタリヤに不満を抱いていた者達はその場を離れ、結局はタリヤの元には誰一人残らず、彼は呆然と彼等を見送る事しか出来なかった。今まで付き従っていた者達が離れていく様に彼は悔しがった。
「く、くそっ!!お前等、覚えていろよ!!戻ってきたとき、無事でいられると思うなよ!!」
タリヤは負け惜しみの様に怒鳴り散らすが、実際にこの後に苦労する事になるのは彼の方だった――
――いきなり一人になったタリヤはとりあえずは近くの街に訪れようとした。だが、街に入ろうとした時、兵士に止められてしまう。
「待て、そこのエルフ!!この街に入りたければちゃんと通行料を支払えっ!!」
「な、何だと!?人間の癖に僕に指図する気か!?僕はエルフだぞ!!」
「黙れ!!ここは人間の国、人間の街だ!!エルフだろうが関係ない、街に入りたければ金を払えっ!!」
「か、かね?鐘の事を言っているのか?鐘なんか持っているはずがないだろう!!」
「おい、こいつまじかよ……」
「何処の田舎者だ?金も知らないのか?」
通行料を求められたタリヤは戸惑い、実は彼が暮らすエルフの里では物々交換が主流で人間の国のように「金」を扱う事はない。レノもヒカリも外の世界に来た時に金の存在を知り、他の者に教わっている。
金の事を鐘と勘違いしたタリヤは理不尽な要求を行う兵士に怒りを抱くが、その様子を他の兵士や街に訪れようとした者は嘲笑する。その様子にタリヤは怒りを抱き、見下している人間に笑われた事に彼は我慢ならずに魔法を使う。
「この、調子に乗るなよ!!人間がぁっ!!」
「うわぁっ!?」
「こ、こいつ!!」
「捕まえろ、犯罪者だ!!」
兵士に対してタリヤは腕を構えると、魔法を放つ。彼としては少し痛めつける程度の攻撃だったが、魔法を発動した事に兵士達は警戒心を抱き、武器を手にして彼を取り囲む。その様子を見てタリヤは慌てふためく。
「お、おい待て!!僕を誰だと思っている!?あのヤザクの息子だぞ!?」
「誰だそれは!!」
「訳の分からない事を言いやがって!!」
「捕まえろ、牢屋にぶちこめ!!」
「うわ、止めろ……止めろぉっ!?」
その場でタリヤは捕まってしまい、警備兵に暴行を加えた犯罪者として牢屋に閉じ込められてしまう――
――その後、タリヤは地下牢の中で閉じ込められ、必死に自分が近くに存在するエルフが暮らす森から訪れた事、里の中では有力者の息子である事を話す。だが、そんな事は人間の街の兵士には通じず、彼は捕まっている間も反省の色が見えないと判断され、一週間以上も閉じ込められる。
今までは里の中では裕福な暮らしをしていたタリヤではあったが、一週間も牢屋の中で碌な食事も振舞えずに過ごす事となり、彼が牢の外に出された時は人が変わったような性格になっていた。
「いいか、もう二度と馬鹿な真似はするんじゃないぞ!!」
「はい、すみませんでした……」
「お前の出所代の代わりに馬はもう売った!!これは残った分の金だ。ちゃんと金の使い方を覚えてから使え!!」
「はい……ご迷惑をお掛けしました……」
捕まったタリヤは引き取り人がいないため、自ら連れてきた馬を売り捌き、その金を兵士に渡す事で釈放された。武器や防具の類は没収され、持ち込んできた食料と水も無くし、残されたのは銅貨数枚の金だけだった。
「う、ううっ……どうして、こんな事に……」
もうこんな状態では到底ヒカリを探し出す事など出来ず、彼は里へ引き返すしかなかった――
――里に戻ってきた彼は何の成果も得られず、しかも大切な馬を売って戻ってきた事に族長もヤザクも激怒した。しかもタリヤ本人は外の世界の強いトラウマを持つようになり、その後の彼は以前の威勢は失い、大人しく家に引きこもってしまう。
他に送り込んだエルフ達も殆どがタリヤと同様に人間社会に馴染めず、馬を失ったり、食料や水が尽きてしまい、引き返してきた。結局は数日も持たずに全員が戻ってくる事態に陥ってしまい、族長は早々に後悔する。まさか、数日も持たずに全員が戻ってくるなど思いもせず、彼は娘を取り戻す日がいつになるのかと嘆いた――
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