第125話 魔力操作の指導
「訓練と言っても別に大した事はしてないよ?そうだな……じゃあ、最初の頃は掌に魔力を宿すところから始めようか」
「……ちょっと待ってください、それはどういう意味でしょうか?」
「いや、だから……こういう風に両手に魔力を生み出すんだよ」
レノの言葉にドリスは呆気に取られるが、そんな彼女の前にレノは両手を見せつけると、風の魔力を生み出して渦巻のように自分の手元に纏わせる。その様子を見てドリスは呆気に取られ、そんな彼女にレノは説明を続けた。
「これぐらいの魔力ならすぐに出せるんだけどさ、威力を強めるとなると掌の部分に魔力を集中させて一気に解放するのがコツで……」
「……出来ませんわ」
「え?あ、大丈夫だよ。そんなに難しい事じゃないし、子供の頃の俺でも出来た事だから……」
「いえ、そうではなくてそもそも武器や魔石を使わずに魔力だけを生み出す事なんてやった事がありませんわよ!?」
「えっ!?」
ドリスの言葉にレノは驚くが、彼女の方も極当たり前の様に剣も魔石も利用せずに魔力を生み出したレノに激しく動揺する。以前にレノはドリスを助ける際に風の魔力を拳に纏わせてチェンを殴りつけた事も有ったが、あの時はドリスも人質として捕まって普通の精神状態ではなかったので覚えていなかったらしい。
同じ魔法剣士であるドリスはレノのように自分の魔力だけを掌に纏わせる事などした事もなく、そもそも魔石や剣も利用しない訓練法があるなど知りもしなかった。
「俺のいた里では普通に皆、風の魔力を操る事が出来たけど……」
「そ、そんなはずはありませんわ!!私の知っている魔導士の中でもレノさんみたいに魔法を使わずに魔力だけを操る人間なんて見た事ありません!!」
「人間……あ、そうか。普通の人間はこの訓練法はしないのかも」
エルフの里では子供でも風の魔力を操る事は出来たが、人間の場合は魔力を操作する訓練がないと考え、文化が違うのではないかと判断する。だが、レノが知っている訓練法はまずは自分自身で魔力を操作する術を身に付けねばならず、とりあえずはドリスに試してやってもらう。
「とりあえず、ドリスさんも俺と同じようにやってみなよ」
「や、やれと言われても……どうすればいいんですの?」
「魔法剣を使う時の要領で掌に炎を宿せないか、確かめてみなよ」
「な、なるほど……やってみますわ」
ドリスは言われた通りに掌を伸ばし、普段から使用している魔法剣を発動するように手を剣に見立てて精神を集中させる。しばらくの間は彼女は念じるように悶えていたが、一向に炎が現れる様子がない。
「ぬぬぬっ……だ、駄目ですわ。出来ません、どうしても上手く行きません」
「う~ん、そんなに難しい事じゃないと思うけどな……そういえばドリスさんは普段はどうやって魔法剣を使用しているの?」
「それは魔石の魔力を引き出して……」
「そう、その魔石の魔力を引き出す感覚をよく思い出して、そして魔石ではなくて自分の体内の魔力を引き出してみなよ」
「そういわれましても……」
先ほどからドリスは自分なりに魔力を引き出そうと頑張るが、どうにも上手く行かない。それからしばらくは練習を行うが、上手く行かずに彼女は頭を抑える。
「ううっ……やはり、私は魔法剣士の才能がないのではないでしょうか。全然、上手く行きませんわ」
「なら、ちょっと訓練を変えてみようか。今度は魔石を使わずに剣に魔力を宿してみようか」
「や、やってみますわ」
段階を飛ばしてレノは短剣を渡すと、とりあえずは武器に魔力を付与させるように促す。ドリスは短剣を手にすると、魔石に頼らずに魔力を送り込む練習を行う。
だが、自分の体内の魔力を生み出す事も出来ないのに短剣に魔力が宿るはずもなく、彼女は疲れた表情をレノに短剣を渡すと、近くの岩の上に座り込む。
「全然駄目ですわ……きっと、私は魔力を扱える才能がないんですわ」
「そ、そんな事ないよ。初めての訓練なんだから失敗する事だってあるよ。それに本当に魔力を扱う才能がなければ魔石を使って魔力を引き出す事も出来ないよ」
「それなら私自身の魔力がないのでは……」
「有り得ないよ、魔法の適性がない人間は魔法剣を扱えるはずがない。きっとドリスさんは今までに自分の魔力を頼る事がなかったら、使い方が身体も分かってないんだよ」
「でも、このまま練習を続けても上手く行くとは思えませんわ」
落ち込むドリスを前にしてレノは困り果てると、ここで指輪の事を思い出す。アルトから貰った火属性の魔石を取り込んだ指輪をレノは取り出すと、ドリスに差し出す。
「ドリスさん、これを付けて」
「えっ?これは指輪……はっ!?ま、まさか告白ですの!?駄目ですわ、レノさん……私達、出会ったばかりなのにこんな……」
「いや、違うよ!!ほら、これを使って練習するんだよ!!」
「練習?」
指輪を渡されて勘違いしたドリスは頬を赤らめるが、そんな彼女にレノは慌てて指輪を使った訓練を思いついた事を告げる。
※離れた場所で蛇剣の訓練中のネココ「何か今、イラっとした」( #´ω`)
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