第124話 魔法剣士としての常識
「さあ、出発しましょう!!ゴノまでもう少しですわ!!」
「ドリスさんの馬、逃げちゃったね……探しに行こうか?」
「……もう姿が見えなくなっている。探すにしても、野生の魔物に殺されている可能性も高い」
「残念ですが、馬は諦めますわ。次の街で購入しましょう」
ドリスが乗っていた馬は諦めるしかなく、ここから先はレノ達は徒歩で移動する事にした。途中で何度か魔物に襲われる事態に陥ったが、問題なく撃退して街へ向かう――
――その日の晩、結局はレノ達は街には辿り着けずに川原の近くで野営を行う。人数が多いと見張り役も増えて夜も安心して休めるようになり、昼食を取りながらもレノは二人と話し合う。
「ネココ、蛇剣の方はどんな感じ?上手く使いこなせると思う?」
「……もう少し練習が必要、だけど必ず使いこなす」
「そっか……」
「そういえばレノさん、あのチェンが持っていた黒鎖はどうされましたの?」
「ああ、没収されちゃったよ。犯罪者の使用していた武器だったし、賞金首の二つ名の由来になるぐらいに有名な魔道具だったから」
「そうでしたの……」
「私の蛇剣は有名じゃなくて良かった」
レノがチェンから奪った黒鎖に関しては警備兵に没収され、今現在は手元に存在しない。貴重な魔道具ではあるが、別にそれほど惜しいとは思わず、特にレノは気にしていなかった。一方でヤンが所有していた蛇剣に関しては没収はされず、ネココが武器として利用していた。
彼女は蛇剣を扱うようになった理由は先日にレノとドリスが連れ去られる際、彼女一人ではどうしようも出来なかった。そのため、今以上に強くなるためにネココは蛇剣の修行を行う。まだ使い始めて数日しか経過していないが、それでも彼女は蛇剣の操作のコツを掴み始めている。
「さてと、寝る前に少し魔法剣の練習をしようかな……」
「魔法剣の練習……それならば私も行いますわ」
「……なら、私も魔剣の練習をする。でも、二人を巻き込むと危ないからあっちのほうでやる」
「クゥ~ンッ(いってらっしゃい)」
「ぷるぷる(先に眠る)」
ネココは蛇剣の練習のために離れた場所に移動すると、レノとドリスは魔法剣の訓練を行う。日頃から鍛錬を欠かさないようにロイから言い付けられていたレノは剣を抜いて構えると、その様子を見ていたドリスが不思議そうに尋ねる。
「……そういえば前々から不思議に思っていたのですが、レノさんはどうして魔法腕輪を利用していますの?」
「え?何かおかしいかな?」
「普通の魔法剣士の場合、鞘に魔石を取りつけるのが一般的ですわ。私もセツナも鞘に魔石を取りつけていたでしょう?」
ドリスは自分の剣の鞘を差し出し、装着している魔石を指差す。彼女は鞘から剣を引き抜く際に魔石から魔力を引き出し、事前に刃に魔力を込めている事を説明した。
「基本的には魔法剣士は鞘などの武器を収める道具に魔石を取りつけ、武器を取り出す際に魔力を纏わせた状態で引き抜きますわ。私の得意とする爆炎剣も鞘から引き抜く時に魔石から魔力を引き出していますもの」
「へえ、そうなんだ……でも、魔法腕輪でも同じことが出来るよね?」
「確かに魔法腕輪の類でも武器に魔力を送り込む事は出来ますわ。しかし、魔法腕輪では魔力を刀身に送り込むのに時間が掛かり過ぎます。鞘の場合だと直前まで刃を収めていたのですから魔力を瞬時に宿す事は出来ますが、抜きはなった後に魔力を刃に送り込むのは時間が掛かるでしょう?」
「なるほど、言われてみればそんな気がする」
レノは自分の荒正に視線を向け、試しに魔法腕輪に近付けた状態で魔法剣を発動させると、心なしかいつもよりも魔力が宿る時間が短縮されたように感じた。だが、別に今のままでも大きな問題はなく、それに先日にゴイルが荒正に「嵐の紋章」を刻んでくれた事から刃に魔力を宿りやすくなっていた。
特に今の段階では不満はなく、そもそもレノの場合は魔石に頼らずに魔法剣を発動させてきたのであまり気にしない。そもそも魔石は高価なのでドリスのように鞘に魔石を取りつけるだけでも金が掛かる。
「俺はこのままでも問題はないかな、別に困ったことはないし……」
「確かにレノさんの魔力を操作する技術はずば抜けていますわね……普通の魔法剣士は紋章が刻まれた武器でも、抜き身の状態では瞬時に魔力を宿す事なんて出来ませんわ」
「え、そうなんだ……」
「レノさんはどうやったそこまで素早く魔力を練る事が出来るようになったんですの?私、気になりますわ!!是非、教えてくださいませっ!!」
「ちょ、近い近い……」
ドリスはレノの魔法剣を見た時から彼が魔力を操作する技術が優れている事を見抜き、どのような訓練を行っていたのかを尋ねる。そんな彼女にレノは戸惑いながらも自分が行っていた訓練の内容を思い返し、とりあえずは話してみる事にした。
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