第35話 冒険者ギルド

「――ここが冒険者ギルドか、こんな大きな建物なんて初めて見た」



レノは素材を買い取って貰うため、街の住民が教えてくれた冒険者ギルドの建物の前へと辿り着く。ギルドの建物はかなり大きく、もしかしたらこの街に存在する建物の中でも一番の大きさを誇る可能性もあった。


中に方に入ると、どうやらギルド内には酒場も存在するらしく、昼間から酒を飲んでいる人間もちらほらと見られた。建物の中にいる人間の殆どは武装しており、中には魔導士らしき姿をした人物もいた。



「お~い、今からボアの討伐依頼を受けるんだけど、誰かに一緒にやらねえか?」

「たく、今日は碌な依頼がねえな……仕方ねえ、たまには薬草採取でもやるか」

「コボルト亜種の討伐に金貨1枚だと……割に会わねえな」



建物の中に入ると、中央に掲示板が設置されており、大勢の人間が掲示板に張り出されている羊皮紙を眺めていた。何を見ているのかと気になったレノは覗いてみると、羊皮紙には様々な仕事の内容が記されており、どうやらこの掲示板を確認して冒険者は仕事を引き受けるらしい。



「よし、これに決めた!!おい、アキちゃん!!この仕事の手続きしてくれ!!」

「分かりました。ですが、アキちゃんと呼ぶのは止めてください」

「お、おう……悪いな」



羊皮紙を引き剥がした冒険者の一人が受付の方へと向かい、受付嬢らしき女性に話しかける。アキと呼ばれたのは美人ではあるが目つきが鋭い眼鏡を掛けた女性だった。その目つきに睨まれた冒険者の男はたじろぎ、仕事を受理してもらうと足早に立ち去る。


その様子を見ていたレノは素材の買取が何処で行われているのかをきくため、受付嬢に話しかける事にした。丁度良く冒険者の応対のために席に座っていたアキという女性に近付く。



「すいません、ここで素材の買取を行ってもらえると聞いたんですけど……」

「……貴方は、うちに所属する冒険者ではありませんね?」

「あ、はい……冒険者じゃないと素材の買取はしてくれないんですか?」

「いえ、我がギルドでは冒険者でなくとも素材の買取を行っています。冒険者の方ならば素材の買取の際に値段の割り増しもさせてもらっていますが」



アキという女性はレノの姿を確認し、鋭い視線を向ける。レノはその視線を向けられて戸惑うが、彼女はレノが所有している剣と弓を見て素材は自分で狩り取ったのかを確認してきた。



「素材の方はご自身で倒した魔物から剥ぎ取ってきたのですか?解体の技術をお持ちですか?」

「あ、はい。山で暮らしていた時から魔物を倒したので普段から解体はよくしていました」

「なるほど、それは期待できそうですね。本日はどのような魔物を連れてきましたか?」

「持って来た素材はコボルトが3体と……コボルトの亜種の素材もあります」

「……亜種?」



レノの言葉にアキは一瞬だけ驚いたように目を見開くが、すぐに態度を戻してレノが倒したというコボルト達の素材の確認を行う。



「素材の確認をこの場で行ってもよろしいですか?」

「はい、よろしくお願いします」

「では、確認を行います。解体班の方、よろしくお願いします。」

「あ、はい!!」

「すぐに持って行きます!!」

「それではこちらの方達に素材を渡してください」



アキが人を呼び寄せると、作業着のような物を着込んだ者達が駆けつけ、レノから素材を受け取る。彼等は素材を受け取って部屋の奥へと移動を行うと、その後はアキはレノが何処で魔物を倒したのか、解体はどんな手順で行ったのかを詳しく尋ねる。


数分程、レノはアキの質疑応答に答えていると、先ほど素材を受け取った解体班と呼ばれた係員達が駆けつけ、焦った様子でアキの耳元に話しかけてきた。



「あ、アキさん!!大変です、どうやら先ほど運んだ素材……依頼の討伐対象の魔物で間違いありません!!」

「それは……本当ですか?」

「例の依頼?」



レノはアキと係員の話を聞いて不思議に思うが、先ほど掲示板の前に立っていた冒険者の一人が「コボルト亜種」に関する依頼を口にしていた事を思い出す。アキは困った表情を浮かべ、レノに事情を説明してくれた。



「実は……レノ様が持ち込んできた魔物、コボルト亜種は実は冒険者ギルドの方で討伐指定依頼を受けている対象の魔物だったんです。最近、この地方にコボルト亜種が現れた事は確認されていますが、誰も討伐に成功しておらず、ギルド側としても困っていた所です」

「あ、そうだったんですか」

「本来、レノ様が冒険者であるのならば依頼を受注していないくとも、討伐対象に指定されている魔物の討伐という事で報酬の半額を支払う義務があるのですが……一般の方の場合はそれに当てはまらず、残念ながら素材の買取の料金の割り増しも行えません。誠に申し訳ございません!!」

「え?いや、そういう決まりなら仕方ないですよ。別に気にしてせんけど……」

「き、気にしない……あんな化物を倒して持って来たのに……!?」



申し訳なさそうな表情を浮かべて謝罪するアキに対し、特にレノは全く気にした様子もない。規則なのだから冒険者ではないレノに報酬や追加料金を支払えないのは仕方がない話であり、本当に仕方がないといえば仕方がない話なのだが、あっさりと了承してくれた彼に係員の方が戸惑う。


通常、冒険者でもない一般人が魔物を倒して素材の持ち込みを行う事自体が珍しく、冒険者ギルド側もまさかコボルト亜種のような大物が一般人に倒されるとは思ってもいなかった。偶然とはいえ、高額報酬で討伐依頼に指定されている魔物を倒したのに料金を高めに買い取る事もしないとなると普通の人間ならば冗談ではない話だろう。しかし、当のレノ本人は全く気にしていない。


ここでアキと係員はレノに視線を向け、本当に彼がコボルト亜種を倒したのか不思議に思う。正直に言えばレノは武器は装備しているが、とても強そうには見えない。しかし、一般人とは違った独特の雰囲気があるようにも見え、ここでアキはもしかしたらとんでもない逸材を発見したのではないかと考えてしまう。



(この男の子……もしかしたら只者ではないかもしれない)



10代の頃からアキは受付嬢として働き、彼女の受付嬢としての勘がレノの実力を確かめたいと告げていた。

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