第36話 勧誘
「……失礼ですが年齢を尋ねてもいいですか?」
「年齢?14ですけど……」
「14ですか……なら、問題はありませんね。レノさん、冒険者稼業に興味はありますか?」
「冒険者、ですか?」
アキの唐突な問いかけにレノは戸惑うが、彼女は眼鏡を整えると羊皮紙を取り出し、それをレノに差し出す。冒険者に加入するための書類らしく、名前と年齢と特技、現在の住所を記入すれば冒険者の試験を受けられる事が示されていた。
「現在、当ギルドでは冒険者の人員不足で募集を行っています。そこでレノさんも加入しませんか?」
「人員不足?冒険者が少ないんですか?」
「レノさんも知っているかもしれませんが、10年ほど前から魔物の世界各地の魔物の被害が激増しています。そのせいで対応する冒険者の数も不足しているのです」
現在、世界各地にて魔物が急激に数を増やしているらしく、その影響で魔物による被害が多発していた。魔物の対応を行うはずの冒険者も数が不足し、現在はどこの地域でも冒険者の志願者を募集していた。
しかし、冒険者になるには魔物を圧倒する技術を持ち合わせてなければならず、本来であれば冒険者になるためには試験を必要とする。また、冒険者に必要なのは敵を倒す技術だけではなく、厳しい環境を生き抜くための強靭な肉体、更には魔物に関する知識を持ち合わせていなければならないという。
「レノ様は聞くところ、幼いころから狩猟で魔物を倒し、ある程度の魔物の知識や解体などの技術を習得しています。さらにコボルト亜種を倒せる程の実力をお持ちであるのならば当ギルドの試験も突破できるでしょう」
「う~ん……でも、俺は旅をしてるので職を身に付けるのはちょっと」
「それならば尚更冒険者稼業が向いていると思われます。ギルドに加入すれば冒険者の証であるバッジとギルドカードを渡されます。このギルドカードを提示すれた国内の全ての街の通行料は免除され、無料で通り抜ける事が出来ます」
「え、そうなんですか?」
冒険者になるだけでこれから訪れる街の通行料を支払わなくて済むという話はレノにとっても有難い。しかし、冒険者ギルドに入る以上は冒険者としての役割を果たす必要がある事もアキは告げる。
「但し、冒険者に加入する以上は冒険者の義務としてギルドが定めた期間内に仕事を行ってもらいます。冒険者はギルドが定めた期間内に仕事を達成しなければ解雇処分となります」
「あ、そうなんですか……」
「但し、病気や怪我、あるいは他の街に出向くために掛かる時間の場合は条件が変更します。もしも長期の旅が予想される場合、冒険者ギルドに事前に連絡の上であれば期間の延長を行えます。また、場合によっては旅費の一部をギルド側が支払う場合もあります」
「おおっ、それは助かりますね」
冒険者は旅の際にギルドに報告すれば支援金が受給される場合もあるらしく、特に冒険者としての実力があり、功績を残している者ほど支援金も多く受け取れるという。
「冒険者には階級が存在し、一番下から銅級、鉄級、銀級、白銀級、黄金級の5つに分かれています。どんな冒険者も最初は銅級から始まり、依頼の達成を積み重ねていく事で評価を上げ、十分な功績を上げた場合はギルド側から昇格試験の受講が許可されます」
「昇格試験?」
「階級を昇格するには厳しい実技試験を受けてもらいます。その内容はギルド側が用意した試験官と戦ってもらうか、あるいはギルド側が指定した高難易度の依頼を引き受けてもらいます。試験官に認められる、あるいは依頼を達成した場合のみに昇格が認められます」
「へえっ……」
ここまでの話を聞いてレノは階級や昇格試験の話はともかく、旅をする上で他の街に赴くときに通行料を毎度支払わずに済むという話だけに悩む。だが、具体的に冒険者になった場合、どの程度の間隔で仕事を受けなければならないのかを問う。
「仕事を受けなければならない期間はどんな感じなんですか?もしかして階級によって期間は違うんですか?」
「はい、銅級冒険者は一週間、鉄級冒険者は二週間、銀級冒険者は一か月、金級冒険者は半年、黄金級冒険者の方は1年間の準備期間が与えられます。さらに冒険者の方は年に一度、階級に応じて特別給付金が与えられます」
「特別給付金?」
「特別給付金は階級によって値段が異なります。銅級冒険者から鉄級冒険者は銀貨10枚、銀級冒険者と白銀級冒険者は金貨10枚、黄金級冒険者の場合は金貨が100枚渡されます」
「金貨100枚!?」
金貨100枚もあれば何も仕事をしなくても数年間は遊び暮らせるだけの大金である。黄金級冒険者になれば仕事を解雇されたり、降格しない限りは毎年に高額の給付金が受け取れるという話にレノは驚く。
殆どの冒険者の中でも黄金級冒険者は特別な存在であるため、冒険者の殆どは黄金級冒険者を目指す。しかし、黄金級冒険者になるためには数多くの依頼を達成し、高い実力を求められる。そのために志半ばで諦める者も多いという。
「どうですか?レノさんのように魔物を倒す技術を要し、更には長旅を計画している方なら冒険者の職業は正に天職だと思いますが……」
「う~ん……」
「それと、ここだけの話ですが……今の所、レノさんから受け取った素材の買取はまだ正式には契約を行っていません。今はギルドが素材を預かっている状態ですが、これからレノさんが冒険者登録試験を受け、見事に合格されれば規定通りに素材の買取の際は冒険者用に切り替えて高額で買い取らせてもらいます」
「えっ!?でも、そんな簡単に冒険者になれるんですか?」
「実は本日は数名ほど、冒険者を志願する方達が集まっています。試験の開始まで時間がありますので、私の権限でレノ様も加入する事は出来なくもありませんが……どうしますか?」
「う、う~んっ……」
レノはアキの言葉に考え込み、何だかうまく乗せられているような気がしないでもない。しかし、彼女の話を聞く限りでは冒険者になっても自分の不利益に繋がりそうには思えず、それに色々な仕事を体験するために旅に出たのならば冒険者という職業も確かめるのも悪い話ではなかった。
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