第34話 ニノ
――馬車で移動してからしばらくすると、遂に「ニノ」と呼ばれる街へと辿り着く。ニノはレノが暮らしていた村よりもずっと大きく、周囲が城壁で囲まれた大きな街だった。
「レノさん、辿り着きましたぞ。あれがニノの街です」
「うわぁっ……こんなに大きい街、初めて見ました」
レノは馬車の窓からニノの様子を眺め、その大きさに驚く。しかし、ネカによるとニノは別に他の街と比べて大きくわけでもないらしく、むしろ小さい部類だという。
「ははは、レノ殿。これから旅をするのであればこのニノの街よりも大きい街はいくらでもありますぞ。私の故郷のシノの街はこの倍ぐらいの広さを誇りますな」
「えっ!?これの倍!?」
「以前に一度だけ訪れた王都はこの10倍ぐらいですな」
「10倍!?」
ネカの言葉にレノは心底驚き、改めて世界がどれほど広いのかを思い知らされる。その一方でレノは自分の旅の終着地である王都に期待感を抱く。馬車は城門にて立ち止まると、城門の前で見張っていた兵士が出入口を塞ぐ。
「止まれ!!通行証は持っているのか?」
「えっ……通行証」
「街に入るには通行証を購入する必要があります。まあ、別にそれほど高くはないのでご安心ください」
大きな街では通行証を購入しなければ街中に入れない規約が存在し、ここでネカは部下に命じて通行証を提示させる。通行証を確認した兵士達は確認を行うと、馬車を通す。
馬車の中に乗っていたレノも通行証を提示せずに中に通る事は出来たが、自分は部外者なのにいいのかと思ってしまう。そんな彼の心中を察したようにネカは声をかける。
「ご安心下さい、街を出る分には通行証は必要ありません。レノ殿が呼び止められる謂れはありませんよ」
「でも、無料で通るなんて……」
「ははは、街に入るだけならば通行料は銅貨1枚程度ですよ。他の街と比べてもここの通行料は安いですからね、お気にせずに」
「通行料……通行証の料金の事ですか?」
「いえ、通行料は街に入るために必要なお金の事です。通行証は一か月単位で街を通過できる許可証の事です」
ネカによると街に入るだけならば通行料を払うだけで済むらしく、頻繁に街に出入りする者は通行証を購入するらしい。ちなみにニノの街の通行料は銅貨1枚でこの値段ならば子供の小遣いでも十分に通り抜ける事が出来る。
通行証を発行する場合は銅貨20枚らしく、一か月は適用されるので実質的に毎日街を出入りするだけならば銅貨10枚も値段が浮く。ちなみに商団などは特別料金で通行証が発行され、商団の主が支払う事が義務付けられていた。
「さあ、ここがニノの街です。私達はこれから市場の方に向かいますが、レノさんはどうされますか?」
「あ、それなら俺は宿屋を探します。あの、ここまで運んでくれてありがとうございました」
「いえいえ、お気になさらずに……そうだ、宿屋を探しているのならば私の知り合いが経営している宿屋をお勧めしましょう。私の名前を出せば格安で部屋を貸してくれますよ」
「本当ですか?でも、そこまで世話になるのは……」
「何をおっしゃっているのですか、貴方がいなければ私達は死んでいたのですよ。どうか遠慮なさらずに……」
「ありがとうございます!!」
レノはネカの言葉に甘え、彼の知人が経営しているという宿屋に向かう事にした。簡単に宿屋までの行先を教えて貰い、レノはネカと別れると街中を歩く。
「うわぁっ……凄い人の数だな、今日は祭りなのかな?それともいつもこんな感じなのかな……」
街中は活気に満ちており、数多くの人間が街道を行きかっていた。その中には人間ではない種族も多数存在し、頭に動物のような耳を生やした者や、身長が3メートルを超える人物もいた。
(結構、いろんな種族がいるんだな……でも、エルフは見かけないな)
基本的にエルフは人間の街に訪れる事はなく、彼等の大半は自分が生まれ育った森の中で生涯を過ごすという話がある。レノは念のために自分の髪の毛を確認し、耳元がちゃんと隠れている事を確かめてから街中を歩く。
「いらっしゃい!!出来立ての肉串はいかがだい!!」
「そこの可愛いお嬢ちゃん、うちの装飾品に見ていかない?」
「おっ、強そうなお兄さんを発見!!うちの武器を見てきてよ!!」
食べ物の販売する屋台、装飾品を販売する露天商、武器屋と思われる建物も存在し、それらを遠目でレノは見て回る。その途中、レノは自分がコボルトの素材を抱えている事を思い出す。
宿屋に赴く前に余計な荷物となるコボルトの素材を先に売却する事にした。素材の買い取りなどは武器屋や防具屋、もしくは鍛冶屋が行うため、レノは適当な店を探す事にした。
(しまったな、こんな事ならネカさんにコボルトの素材を買い取って貰えば良かったかも……でも、素材を渡して武器や防具を作って貰う事も出来るらしいし、防寒具でも作って貰えるかもしれないな)
貴重なコボルトの亜種の素材もあるため、もしかしたら優れた装備品を作って貰えるかもしれないと考えたレノは鍛冶屋を探す。だが、どれだけ探しても鍛冶屋は見つからず、仕方ないのでレノは街の住民に尋ねる事にした。
「あの、すいません。この街の鍛冶屋はありますか?」
「鍛冶屋?あるにはあるけど……お前さん、冒険者かい?」
「えっ……冒険者?」
「この街の鍛冶屋は冒険者ギルドの建物内にしか存在しないよ。だから素材の買い取りや仕事の依頼は冒険者ギルドへ行かないと駄目だよ」
「冒険者ギルドがこの街にあるんですか?」
レノは冒険者という単語に驚き、その名前と冒険者ギルドという組織の事はロイから教わっていた。彼曰く、傭兵よりも余程危険で大変な仕事だという。
――冒険者とは魔物専門の退治屋という認識が強く、彼等の仕事の殆どが魔物が関わっている。基本的には彼等は魔物の討伐、捕縛、生態系の調査などの仕事を生業としており、魔物に悩まされている人間から依頼を受けて仕事を行う。
魔物から人を守るのが冒険者の役割でもあり、世間では魔物専門の退治屋という認識が強い。一応は魔物退治以外の仕事も引き受ける事はあるが、冒険者の役目はあくまでも魔物から人を救う事である。
ロイも何度か仕事で魔物を退治した事はあるが、人間相手と比べて魔物の方が非常に危険な存在が多い。冒険者はそんな危険な魔物を相手にする職業のため、ある意味では傭兵よりも危険な仕事稼業かもしれないとロイは語っていた。
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