第84話 黒狼の残党

「……どんな人だったの?」

「生憎と客の情報は盛らせないよ。情報屋は信用が第一だ、どうしても知りたいなら情報料を払う事だね……そうだね、金貨1枚支払うなら教えてあげてもいいよ」

「高いのか安いのかよく分からない信用……はい」



ネココは自分の懐から銀貨10枚を取り出し、机の上に置く。金貨1枚分の情報量を受け取ったネズミ婆さんは満足そうに頷き、あっさりと教えてくれた。



「私の元に現れたのはあんた達と年齢はそう変わらない女の子だよ。多分、15か16ぐらいだね。見た目の方はエルフみたいに金髪でかなり長かったね。それと、独特な髪型をしていたよ、こう……なんか髪の毛がくるくるとしてたね」

「くるくる?」

「言葉だと説明しにくいね……顔の方は私の若いころにも負けないぐらいに整っていたよ。それと、服装に関してはフードを被って目立たないようにしていたけど、豪華な装飾が施された剣を持っていたね。恐らくだけど、ただの傭兵じゃない。もしかしたら王国騎士かもしれないね」

「王国騎士……」

「なんにせよ、その女の子も黒狼の事を調べるためにここへ来たんだよ。この酒場の事を知っている人間は裏社会の人間だけなんだけどね……これ以上の事は教えられないよ。私もさっき会ったばかりだから、その女の子の情報は調べていないからね」

「分かった、十分聞けた」



ネズミ婆さんの言葉にネココは頷き、レノの方は自分達以外に誰が黒狼の事を聞きに来たのかと疑問を抱く。だが、ここへ来た目的はその黒狼の正体を確かめるためであり、ネココはまずは自分達の事情を話す。



「……今日、私達は隼の団という傭兵団と一緒に盗賊団を捕まえた。その時に私達が捕まえた「ロウ」という賞金首が黒狼の名前を口にした」その後、宿屋に止まっていた時に襲撃を受けた」

「何だって?それでどうしたんだい?」

「襲撃を仕掛けた一人は逃げられたけど、もう一人は自害した。その男の手には黒い狼の頭が刻まれていた……何か心当たりはある」

「ふむ……そいつはもしかしたら黒狼の残党かもしれないね」

「黒狼の残党……?」



話を聞き終えたネズミ婆さんは難しい表情を浮かべ、彼女は何処からか説明するべきか悩み、かつて黒狼が傭兵団から盗賊に成り代わった当時の話を行う。



「あんたらも昔の黒狼の事は知っているんだろう?跡目争いのせいで内部分裂し、結局は二代目が決まった時は黒狼の団員は半分以上も減っていた。その後、盗賊に成り下がって壊滅した……これが世間一般で伝わっている話さ」

「……それは知っている。でも、世間一般にという事は……真実は違うの?」

「違うね、確かに黒狼は内部分裂を引き起こして勢力が拡散したのは確かだよ。だけど、二代目は必死に残された団員を束ねようとしたんだ。だが、脱退した黒狼の元団員が奴等を嵌めたんだ」

「脱退した団員?」

「黒狼を抜けた奴等からすれば、黒狼が活躍して名声を取り戻せば自分達の立場がないだろう?そこで脱退した団員達は黒狼の二代目が密かに悪事を行っている事を国に報告したのさ。実際に黒狼に所属していた団員の言葉となると国側としても無視はできない、しかも調査した結果、二代目は裏では仕事を行っていたのは事実だと発覚した」

「裏の仕事?それって……」

「暗殺稼業さ、依頼人から暗殺を依頼され、対象を密かに始末する……そんな事をしなければ傭兵団を維持できないほどに追い詰められていたんだろうね」



ネズミ婆さんは少し同情するように口にすると、その反応を見てレノとネココは不思議に思い、話の続きを促す。



「それでどうなったんですか?」

「国からすればどんな理由があるにせよ、黒狼の傭兵が暗殺稼業をしている事は許せない事なんだよ。しかも仕事の依頼者の中には王国の貴族も存在した、そいつらは黒狼が疑われていると知ってすぐに自分達の繋がりも調べられるんじゃないかと焦って、黒狼を取り潰すように頼んだのさ」

「えっ!?じゃあ、まさか黒狼が盗賊団になって王国の騎士団に壊滅されたという話は……」

「そういう事さ、黒狼は盗賊団に身を落としたんじゃない、王国貴族共からの申し出によって危険な存在として認識され、国の騎士団に壊滅された……まあ、実際の所は黒狼も追い詰められていたとはいえ、暗殺稼業に手を出していたのは事実だからね。奴等の手によって殺された人間の関係者からすれば許せない事をしたのは事実、同情する余地はあるけどそれでも奴等は傭兵の誇りを汚した事にかわりはないのさ」

「そんな話、知らなかった……」



世間では黒狼は盗賊団に成り下がり、国の騎士団に壊滅させられたと知れ渡っていた。しかし、真実は異なり、黒狼は盗賊ではなく暗殺稼業を行っていた事から国に危険視され、壊滅に追い込まれた事が発覚した。


ネズミ婆さんからすれば黒狼の行為は許される事ではないが、それでも世間で知れ渡っているように彼等は盗賊に身を落としたわけではなく、国側の都合で消された面が大きい。その点に関してはレノもネココも同情したが、話はまだ終わりではなかった。



「話を戻すよ、あんた達を襲ったというい黒狼を名乗る輩についての心当たりはあるよ。最近、黒狼に所属していた元傭兵の賞金首がこの街に集まってきている様子だよ」

「本当ですか!?」

「ああ、実際にあたしの掴んだ情報によるとこの街には二つ名持ちの大物の賞金首共が集まってきている。そして全員が5年前に壊滅していた黒狼に所属する傭兵さ」

「……黒狼の残党がこの街に集まってきている?」

「奴等の目的が何なのか私は知らないけど、あんたらが本当に黒狼に狙われているのなら気を付ける事だね。奴等は内部分裂が起きた後も二代目になった男を信じて最後まで残った奴等だからね……奴等の結束力は固い、仮に捕まっても仲間の情報を吐く前に自害するぐらいだからね」



ネズミ婆さんの言葉にレノは自分達を襲撃した男も自殺し、更に警備兵に捕らえられたロウが隠し持っていた毒で自害したという話を思い出す。もしかしたらレノ達は途轍もない危険な存在に目を付けられた可能性があり、これからどうするべきかレノはネココに相談する。

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