第224話 砂蠍
「グルルルッ……!!」
「ウル?どうした?」
「っ……この臭いは、まずい!!皆早く逃げるぞ!!」
「ポチ子、どうした!?」
ウルが後方に振り返って唸り声を上げると、ポチ子も何かに気付いたように拠点の方角へ向けて駆け出し、その様子を見てレノとゴンゾウは只事ではないと気づく。
直後にレノ達の後方の方角から砂煙が舞い上がり、地中から何かが接近している事が判明する。まさか土鯨が現れたのかとレノは警戒するが、すぐにゴンゾウは敵の正体を見抜いて焦りの声を上げる。
「まさか、あれは……」
「ゴンゾウ君?」
「……砂蠍だ!!」
「キィイイイッ!!」
ゴンゾウが声を上げると、砂の中から奇声が鳴り響き、巨大な蠍の尾が出現する。それを確認したレノ達は危険を察知してそれぞれが別の方向に移動すると、蠍の尾は通り過ぎる。
やがて砂の中から全身が赤色に染まった巨大蠍が出現し、しかも普通の蠍と違って尾が3本も存在した。砂蠍と呼ばれた蠍型の魔物は地上に出現すると、真っ先に逃げ出したポチ子の後を追う。
「キェエエエエッ!!」
「くそっ!?あたしが狙いか!!」
「ポチ子!!荷物を捨てろ、殺されるぞ!!」
ポチ子は自分が狙われている事を知って必死に走るが、先ほど狩猟した砂蛇と砂熊の素材を抱えた状態では上手く走れず、ゴンゾウが捨てるように促す。彼女は悔し気な表情を浮かべながらも背中の荷物を放り投げると、全力で駆け抜ける。
「ちくしょおっ!!こっちくんなっ!?」
「キキィッ!!」
砂蠍はポチ子に目掛けて3本の尾を放ち、その攻撃に対してポチ子は必死に避けるしかないが、逃げながら避けるのは難しく、1本目と2本目はどうにか回避したが、3本目の攻撃は腕に掠ってしまう。
「うあっ!?」
「ポチ子ぉおおおっ!?」
「くそっ、止めろっ!!」
「キィアッ!?」
レノは荒正を振り翳し、嵐刃を放って砂蠍の注意を引く。砂蠍は3つの尾の内の1つを嵐刃で切り裂かれ、悲鳴を上げてその場で身もだえる。その隙にレノ達はポチ子の元へ向かう。
「ガアアアッ!!」
「ギエエッ!?」
ウルも遅れて砂蠍に飛び込み、残された2つの尾の片方に噛みつき、力ずくで退き千切る。すると、破壊された二つの尾から紫色の液体が迸り、それを確認したレノはすぐに毒だと気づく。
どうやら砂蠍は毒を持つ生物らしく、攻撃を受けた砂蠍は2つの尾を失った事で戦意を喪失し、そのまま逃げ出す。それを放置してレノ達は倒れたポチ子の様子を伺うと、彼女の顔色が明らかに悪くなっていた。
「うっ……」
「ポチ子、無事か!?」
「へへっ……ごめん、へまをやらかした……」
「待っていろ、すぐに連れて行ってやるからな!!」
「ウル、ポチ子を乗せて拠点へ急ぐぞ!!」
「ウォンッ!!」
レノ達はポチ子を治療するため、すぐに拠点へと引き返す事にした――
――拠点へ帰還すると、すぐにポチ子は治療が施される。幸いにも拠点内には砂蠍の解毒薬も保管されており、薬剤師の資格を持つ者もいたので彼女の治療は無事に終わる。
「ふうっ……これでもう大丈夫だ、どうやら身体に掠った程度で済んだから毒の量も少なくて助かった。もしも突き刺されて毒を注入されていれば命はなかっただろう」
「ほ、本当に大丈夫なのか!?」
「ああ、もう大丈夫だ」
「良かった……」
「たくっ、心配かけやがって……」
ポチ子の治療が成功した事を薬剤師の男性が報告すると、その話を聞いてレノとゴンゾウは安堵し、騒ぎを聞きつけた船長と他の者達も安堵する。幸いにも毒の量が少なかった事で解毒が間に合ったらしく、これで彼女は大丈夫だという。
集まった者達はポチ子が助かった事に安堵するが、一方で薬剤師の男の方は難しい表情を浮かべ、船長に告げた。もう薬の余裕はなく、補充しなければ満足に治療できない事を伝えた。
「エイハブ、もう薬の余裕がない。解毒薬もこれで最後だ、次に怪我人が現れても対応が出来ないぞ」
「そうか……なら、また街に買い出しに出かけるしかないか」
「買い出し?」
「前にも言っただろう?定期的に俺達はムツノで物資を購入しているんだ。だが、まだ俺の船は修理が済んでいない。買い出しに行くとしても方法がな……」
「ムツノ……それなら俺が買い出しに行きましょうか?」
ムツノで物資の調達に向かわなければならないという言葉にレノが提案すると、エイハブは驚いた表情を浮かべる。確かにムツノの街は砂漠の中心部に存在するため、この拠点からそれほど離れてはいない。
ウルに乗れば街に買い出しに行くのも難しくはなく、魔物が現れてもレノならば単独でも撃退できる。薬の買い出しだけならば問題はないが、わざわざレノに迷惑を掛ける事にエイハブは申し訳ない表情を浮かべる。
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