第223話 砂の魔物

「へへっ、あいつらどうやら戦おうとしてるみたいだな……」

「もう少しだけ様子を見よう。このまま戦えば2匹とも無事では済まない、片方が死んだとき、もう片方も怪我を負う。そいつを俺達が仕留めれば2匹の死骸を丸ごと持ち帰れる」

「え?わざわざ待たなくても、ここで仕留めればいいんじゃないの?」

「何言ってんだよ、そんな事できるわけないだろ……あいつらの強さを知らないからそんな事が言えるんだよ」



二人の会話を聞いていたレノは不思議そうな声を上げ、わざわざ魔物同士の殺し合いなど見なくても2人とも仕留めればいいと提案するが、ポチ子が呆れながらも説明してくれた。



「あの2匹はな、この砂漠に暮らす魔物の中でもかなり危ない奴等なんだ。特に砂蛇の方は厄介で危険を察知するとすぐに砂の中に潜り込んで逃げ出すし、砂熊の方は切れると見境なく暴れて大人の巨人族でも手が付けられない程なんだぞ」

「そうだな、魔物同士が殺し合えば肉体は傷つくだろうが、ここは黙って見守ろう」

「その必要はないよ、二人はここで待っていて」

「あ、おい兄ちゃん!?」



2人の話を聞いていたレノだが、彼は弓を取り出すと砂丘を滑るように落ちながら2匹の魔物に接近し、準備を行う。唐突に現れたレノに対して2匹の魔物は驚いたように首を向け、鳴き声を上げる。



「ガアッ!?」

「シャアッ!?」

「……ここっ!!」



魔物達が自分に顔を向けた瞬間、レノは弓に矢を番えて狙いを定め、魔弓術を発動させて放つ。放たれた矢は風属性の魔力を纏い、軌道を変更させてまずは砂熊の開いた口の中に貫く。



「アガァッ……!?」

「シャアッ!?」

「1匹目!!」



砂熊は開け開いた口に矢を射抜かれ、そのまま風属性の魔力を雇った矢は頭部を貫通する。その結果、砂熊は口元から血を流し込み、倒れてしまう。その様子を確認した砂蛇は驚愕の声を上げ、その間にレノは荒正を引き抜いて自分から注意を逸らした砂蛇に飛び込む。


レノの身体能力では砂の地面で全力で跳躍したとしても跳躍距離はたかが知れているが、瞬脚を発動させて足元に風の魔力を拡散させる事で加速し、砂蛇の頭部へ接近する。砂蛇の頭部に近付いたレノは荒正を振り翳し、風の魔力を刃の先端から放出させながら刃を放つ。



「円斧!!」

「シャギャアアアッ!?」



砂蛇の悲鳴が砂漠に響き渡り、空中で円を描くように剣を振り抜いたレノの一撃によって砂蛇の頭部は切り裂かれた。その様子を確認したレノは着地すると、無駄に傷つける事もなく魔物を倒せた事に安堵する。



「ふうっ……終わったよ~!!」

「あ、あの砂熊と砂蛇をこうもあっさり……」

「……凄い奴だな」

「ウォンッ!!」



ポチ子とゴンゾウはあっさりと砂蛇と砂熊を倒したレノを見て唖然とするが、その光景を見届けたウルはまるで自分の主人を自慢するかの様に誇らしげな表情を浮かべて二人に鳴き声を上げる――






――その後、倒した砂蛇と砂熊の解体を行い、持ち帰れる分だけの素材だけを回収して引き返す事にした。もっと人数がいれば素材を多めに回収できたのだが、死骸を放置すると血の臭いで他の魔物が引き寄せられる可能性がある。


ここで欲張って必要以上に大量の素材を無理に持ち帰ろうとすると、次の魔物が現れた時に狙われる可能性があり、移動の際には問題ない程度の量の素材だけを持ち帰る必要があった。今回はウルが同行しているので多めの素材を持ち帰る事が出来た事にゴンゾウとポチ子は喜ぶ。



「いや、今日の狩猟は大収穫だったな!!兄ちゃんのお陰でこんなにたくさん持ち帰れたよ」

「ああ、本当に助かった。これで今日の皆の晩飯分は確保できただろう」

「えへへ……ウルもいてくれて助かったよ。俺達だけだとこんなには持ち帰れなかったしね」

「ガフガフッ……」



ウルはちゃっかり砂蛇の肉を噛みながら移動し、持ち帰れる分の素材とは別に彼だけは砂蛇の肉を味わっていた。砂蛇も砂熊も珍味らしいので気に入ったのか先ほどから夢中に食べている。



「いつも二人はあんな魔物を狩ってるの?」

「いや……二人で狩猟するときはあんな大物は狩らない。俺達が狩れる相手は限られているからな」

「でも、今日はみんな喜ぶぞ~こんな大量の素材を持ち帰った事なんてないからな。きっと、驚くだろうな」

「ウォンッ」

「うわっ……もう食べたのか。駄目だよ、これ以上はあげられないよ。夜まで我慢しなって……」



肉を食い終えたウルがもっと欲しいとばかりにレノの身体に擦り寄るが、これ以上に食べられると拠点に暮らす人間の分が減ってしまう。ウルを我慢させようとレノは頭を撫でると、ここでウルは何かに気付いたように歯を剥き出しにして背後を振り返った。

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